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「チ。ー地球の運動についてー」がもうなんかヤバいのでおもしろさを言語化してみた

好きな作品のおもしろさを人に説明するのって、難しくない?

同じ作品でも人によって解釈が違ったり、自身の経験や感情に基づいて魅力に感じる点が違ったり。誤解されないように作品の詳細や背景を伝えようとすると情報量は多くなるし、感情のままに話そうとすると聞き手によっては熱量の差でついていけない。

だから言葉にして伝えることは難しくて、「今何がオススメなの?どこがおもしろいの?」という質問への返しには一瞬間が空くし、紹介しておもしろいと思ってもらえなかったら悲しい。

それでも、おもしろい作品はやっぱり多くの方に触れてほしいし、感想を語り合いたいと思ってしまうのもファンのサガ。そして今まさに語りたい作品こそ、「チ。ー地球の運動についてー」。

「アニメ見て」「とりあえず貸すから1巻読もうか」
私(編集部員・ヤマ)はついついコンテンツパワーに全振りで紹介してしまうのだけど、原作から大好きな作品だからこそ、「もうなんかヤバい」で終わらせず、たまには頑張って言語化してみようと思う。まだ作品に触れていない人、作品が好きな方に少しでも伝わったらうれしいな。


「チ。-地球の運動について-」とは

まずはあらすじから簡単に。

舞台は15世紀のヨーロッパ某国。飛び級で大学への進学を認められた神童・ラファウ。彼は周囲の期待に応え、当時最も重要とされていた神学を専攻すると宣言。が、以前から熱心に打ち込んでいる天文への情熱は捨てられずにいた。
ある日、彼はフベルトという謎めいた学者と出会う。異端思想に基づく禁忌に触れたため拷問を受け、投獄されていたというフベルト。彼が研究していたのは、宇宙に関する衝撃的な「ある仮説」だった――

アニメ チ。 ―地球の運動について― - NHK

2024年10月から放送開始したアニメ「チ。―地球の運動について―」。

週刊スピリッツで連載されていた27歳※の作家・魚豊先生による、禁じられた学問・地動説を命がけで迫る人々を描いた物語。(※2024年10月現在の年齢、動き出した当時は22歳)

地動説がテーマ。聞いたことがない、すごいよね。
あるインタビューで魚豊先生が「誰かがすでにやっていたら、かなり僕の中でモチベーションが下がる」と仰っていたが、100m走を題材にした「ひゃくえむ」や陰謀論と恋愛から展開する「ようこそ!FACT(東京S区第二支部)へ」しかり、「そこをテーマにするんだ!?」というポイントを掘り下げているのが最高にクールだ。

タイトルの「チ。」もなかなかインパクトがあるが、「大地のチ」「血液のチ」「知識のチ」といった3つの意味が一体になっており、作中でそれぞれの「チ。」の意味が強調されるシーンは感動で身震いする。

独特で深いメッセージ性を20代で世に打ち出す天才・魚豊先生。私は同世代だが、多分、アゾフ海とチャレンジャー海淵くらい思考の深さに差があると思う。

※魚豊先生がご自身の原点を語ったインタビュー記事はこちら

アツさ止まない知的作品のおもしろさ

それではさっそく、「チ。―地球の運動について―」のおもしろさについて語っていく。

1.リアルな歴史的背景のなかでガラリと変わる価値観を体感

本作はフィクションでありながら、15世紀ヨーロッパの社会的背景が緻密に描かれている。

紀元前4世紀頃にアリストテレスが提唱した「天動説」が長い間信じられていたなか、16世紀頃、ポーランドの天文学者・コペルニクスが『天体の回転について』で提唱した、地球が太陽の周りを公転する考え方・地動説。
提唱された当時は天動説を指示していたカトリック教会から宗教的に反発があったり、科学的にも論争のあった地動説だが、17世紀から18世紀にかけてガリレオによる木星の衛星発見やニュートンの万有引力の法則によって科学的に支持されていき、今や常識となった考え方だ。

地球が中心にすべての天体が回っている天動説

本作では、ヨーロッパのP王国を舞台に、天動説を信じて支配的な力を持つC教と、地動説を証明しようとする異端派の争いが描かれている。フィクションだが、史実を元にした舞台で命がけで地動説を証明しようとする登場人物たちは、まるで本当に実在していたかのようなリアルさをもって、視聴者に情熱を訴えかけていく。そしてこの情熱も「俺が絶対に地動説を証明する!」といった少年漫画的なアツさではなく、どこか淡々として静かに燃える青い炎のようなアツさ。
リアルな舞台と静かな情熱に触れるうち、まるで彼らが実在して命を懸け続けた地続きの先に私たちの常識があるような感覚になるし、彼らの価値観が変わる瞬間には自分の感情のように心が揺さぶられる。

過去に生きた人々が体感したであろうコペルニクス的転回、2024年に生きる私たちも追憶できちゃって良いんですか!?と感謝まである。

2.常識的でフラットな悪と、信念=狂気を受け継ぐ主人公たち ※ネタバレ注意

知的で合理的な世渡り上手だが地動説に魅せられた12歳の少年・ラファウ。
世の平穏を守るために残酷な拷問も厭わない異端審問官・ノヴァク。
「禁じられた研究」により幽閉されていた異端者・フベルト。

本作には様々なキャラクターが登場するが、それぞれが自分の信念や善意に従って行動している。

特に注目したいのは、主人公(=異端者)を追い詰める敵役・ノヴァクだ。

ノヴァク

敵役というと利己的な絶対悪であったり、罪悪感を持ちながらもやむを得ず行動するキャラクターをよく見かけるが、ノヴァクは、自身が物語における「悪」であるとは微塵も思っていない。かと言って、C教の狂信者という描かれ方もしていない。
彼は当時の常識である天動説を当たり前に受け入れて、あくまでも仕事として異端審問官の職務を遂行して、そして家族のことを当たり前に愛している。拷問を生業としている恐ろしさはあれど、仕事で上から命令されるから面倒だけどやる、現代で置き換えるとどこにでもいる会社員のようなフラットな性格をしている。(実際に魚豊先生は「クレヨンしんちゃん」の野原ひろしをイメージしたという)

そして、ノヴァクが全編を通して主人公を追い立てる一方で、主人公は全編を通して1人ではない。1人の主人公を通して成長や葛藤を軸に物語を紡ぐ作品が多いなか、本作では、1人の主人公が志半ばで命を落としても、また次の主人公へ信念という名の狂気を受け継いで、地動説の証明に情熱を燃やしていく。

最初の主人公は12歳の少年・ラファウ。

ラファウ

12歳で大学に飛び級できる神童で”合理的に生きる”を信条としていた少年だが、フベルトとの出会いを通して地動説の美しさに魅了されていく。本編ではラファウが地動説を図式化しながら「美しいと、思ってしまうッ!!」というシーンがあるのだが、ずっと周りの求める”最適解”を出し続けていたラファウが、心動かされる信念に出会うシーンとして印象的だ。

フベルトから「地動説」を知るラファウ

その後フベルトの研究書類を燃やそうとするシーンでも、危険で不適切な書類を”理屈”で燃やすものの、彼の”直感”は資料を残そうと火を消すところも心揺さぶられる。
「燃やす理屈、なんかより!!」
「僕の直感は、地動説を信じたい!!」

燃やす理屈、なんかより!!
僕の直感は、地動説を信じたい!!

地動説が常識となった今の世の中ではない、唱えることで自らを破滅に追い込むかもしれない理論を「美しい」とか「直感」で信じ続ける「狂気」的な主人公。正直、狂気的すぎて引いた。
引いたが、危険性を孕んでいても挑むことがやめられない主人公たちの情熱や、知的好奇心にまっすぐに向き合うところがかっこいい。命を捧げるほど自分の心を震わせる感動に出会った主人公たちを、どこかうらやましく思ってしまう。

3.神制作スタジオ&坂本真綾さん・津田健次郎さん・速水奨さんら豪華キャストが贈るアニメ版

ここまで物語のおもしろさをベースにお伝えしてきたが、アニメ版もとんでもないことが起きている。
原作を読んでいた頃「話題作だしいつかアニメ化するだろうな」と思う反面、このヘビーな作品をどこの会社がどんな風にアニメ化するのだろう、難しそうだな、と感じていたが、情報解禁されるたびに安心と期待へ変わっていった。

まず、制作スタジオがマッドハウスという絶対的安心感。
マッドハウスといえば「カードキャプターさくら」「DEATH NOTE」「進撃の巨人」「葬送のフリーレン」など数々の名作を世に送り出してきた、原作を大切にして高いクオリティの作品を生み出す、信頼のあるアニメ制作スタジオだ。あまりアニメに詳しくない方もマッドハウスの作品に触れたことはあるのではないだろうか。
「チ。」では地動説がテーマということで星空を見上げるシーンもあるのだが、アニメ放送前から「神作画で星観れるじゃん」と期待が募り、実際にティザーPVを観て美しさに泣いた。(ちなみに制作はマッドハウスで、企画~宣伝・販売はスカパー・ピクチャーズ。社内メールが飛んできて「ええ~!!」と声が出た)

そしてキャスト陣も超豪華。

ファンとしてキャスト陣の発表を知ったとき、あまりにもドンピシャな配役で歓喜した。第1話で命が吹き込まれたキャラクターに出会った時は「スラムダンク」の山王戦の赤木(ゴリ)と同じ顔で泣いた。

豪華キャスト陣を代表作とともに少しご紹介する。

坂本真綾さん(ラファウ役)
…少年から大人の女性まで、幅広さと唯一無二の個性にキュン

<代表作>
「桜蘭高校ホスト部」藤岡ハルヒ
「黒執事」シエル・ファントムハイヴ
「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」マリ・イラストリアス

津田健次郎さん(ノヴァク役)
…低音ボイスが生む安心と色気と冷酷さ、令和のNo.1イケオジ

<代表作>
「遊☆戯☆王デュエルモンスターズ」海馬瀬人
「ゴールデンカムイ」尾形百之助
「呪術廻戦」七海健人

速水奨さん(フベルト役)
…世界観を創出する華やかなバリトンボイスに撃ち抜かれる、眠る前に「おやすみ」と言ってほしい

<代表作>
「BLEACH」藍染惣右介
「Fate/Zero」遠坂時臣
「銀魂」星海坊主

マッドハウスによる美しい映像と、豪華キャスト陣が声で生み出すキャラクターの機微な心情の変化による没入体験。ぜひアニメで体感してほしい。

▽放送情報
放送日時:毎週土曜 午後11時45分~
チャンネル:NHK総合テレビ
※各話放送終了後にNetflix、ABEMAにて配信

※津田健次郎さん、速水奨さんが想いを語ったインタビュー記事はこちら

「チ。ー地球の運動についてー」をもっと楽しむために

つたないプレゼンだったが、はたして何人に「気になる」「分かる」と思ってもらえただろう。
きっと誰かには伝わっていると信じて、最後に、作品をもっと楽しむための1冊の本をご紹介する。

それがこちら。
「公式トリビュートブック チ。ー地球の運動についてー Q」

軽い気持ちで本を手に取って帯を見ると、あらびっくり。

ノヴァク役・津田健次郎さん
ヨルシカ・n-buneさん
ピース・又吉直樹さん
元JAXA宇宙飛行士・野口聡一さん
サカナクション・山口一郎さん
といった各界のプロフェッショナルたちと作者・魚豊先生の対談企画や、

「桐島、部活やめるってよ」「何者」の作者・朝井リョウさんによる小説、ダウ90000・蓮見翔さんによるエッセイ、最果タヒさんによる詩、

他にも豪華漫画家による書き下ろしイラストや、哲学者、学芸員による評論などなど、超豪華執筆陣による「チ。」のトリビュート本だ。

作品ファンの著名人によるトリビュートを目にすることはあるが、ここまで幅広い業種の方々によるトリビュート本なんてないのではないだろうか。
少なくとも私ははじめて見た。

持論だが、作品は自分ひとりで楽しんだ後に、他のファンの視点も取り入れることで、より深い解釈で世界観を楽しむことができる。
漫画やアニメで楽しんだ後は、ぜひ公式トリビュート本も手に取って、めくるめく地動説の世界を楽しんでほしい。

(文・ヤマ)

▽アニメ公式サイトはこちら



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