ドラマ「不適切にもほどがある」を受けて考える企業コンプライアンス。上司が注意すべき言葉や事務局の取り組みも
ドラマ「不適切にもほどがある」
TBSドラマ「不適切にもほどがある」。
脚本・宮藤官九郎さん、主演・阿部サダヲさんによるタイムスリップコメディで、1986年”昭和”の体育教師が2024年”令和”の現在へタイムスリップし、人々とのギャップや共感を描いた作品である。
ドラマの人気は凄まじく、若手~管理職のドラマ好き社員が「今クールで一番おもしろい!」と口を揃えて推してくるほど。令和世代の同期と昭和世代の管理職が「昭和も令和も極端だよな~って考えさせられちゃったよ!『がんばれ』はダメなんだって、難しいなあ」「正直私も『がんばれ』は驚きました…かと言って強めに怒られたら泣いちゃいますね」と盛り上がっているではないか。
ここまで推されているドラマを観ないわけにはいかない!とTVerで一気見。
これは――おもしろい!
タイムスリップで描かれているのは文明的な違いだけではなく、根底にある人々の価値観の相違。
作中では、”昭和”の懐かしい小ネタを混ぜつつ、テロップでお断りを入れたうえで”令和”では不適切となる言動を盛り込んで、過剰な気遣いに物申している。
そして、阿部サダヲさん演じる主人公の”不適切”な行動に対して令和を生きるキャラクターが同じ熱量で返すから、清々しい気持ちで見ることができる。
そしてドラマを観た感想は、「本人の意図と受け止め方が違うから難しいな」ということ。
各話で「一人で抱えちゃダメですか?」「カワイイって言っちゃダメですか?」「既読スルーしちゃダメですか?」とテーマが掲げられているが、同じ世代であっても意見が分かれるのではないだろうか。
コンプライアンスって、難しい。
コンプライアンスがより問われる現在、会社や学校ではどのようにコンプライアンスに向き合っているのだろうか。コンプライアンスを守るとどうなるのか。
そこで今回は、スカパーJSATでコンプライアンス活動に取り組んでいる、コンプライアンス推進事務局のSさんにインタビューを敢行した。
企業コンプライアンス担当が感じるドラマの影響
―さっそくですが、ドラマ「不適切にもほどがある」について事務局内で反響はありますか。
「実は一番最初に『阿部サダヲのドラマを観ましょう』と声をあげたのが、部門長なんです。1-2話が終わったあたりで(笑)。
コンプライアンス推進業務担当者の年代も様々ですが、そんななか、部門長が先にドラマを観ていて、(会議中に)台詞を引用して話すこともしばしばで(笑)。私もそこからTVerで追い始めて、今では部長も見ていますし、先日出張でスカパー!のカスタマーセンターに向かった際もドラマの話で盛り上がりました」
―話題沸騰中のドラマということで皆さん観ていますね(笑)。ちなみに部門長が引用する台詞とは?
「『話し合いましょう』のフレーズがかなり刺さっていたみたいで、よく引用されていますね(笑)」
―ハマっていますね(笑)。Sさんはドラマを観てどんな感想でしたか?
「事務局としてはドラマのような場面があったらどうすべきかを職業病で考えてしまって…1話を見終えた時はすごく疲れてしまいました(笑)。(居酒屋で問題のヒアリングするシーンに対して)部内確認であっても居酒屋でヒアリングはダメだよ!とか気になっちゃって…こういった不特定多数の人がいる場所では絶対やってはいけないですよね。極端な話ですが、隣の席に座っている人がSNSのインフルエンサーで『○○社がコンプラの話してるヤバくない?』とか書かれるようなリスクも出てくるかもしれないですし」
―たしかに。事務局視点で観るとヒヤヒヤするシーンがありますね。
「テレビ局から出演者の浮気を疑ってGPSで後を追うシーンも、現実ではありえないって思ってても気になりましたね。録音ひとつ録るにしても事前に承諾を得るとか、普段の業務では気を付けてやっているので、そこはちゃんとしてほしいとつっこみたくなりました(笑)。そもそも浮気を断定していましたけど、事務局で話すときは断定して聞くのは絶対しないようにしています。基本的には、ニュートラルなスタンスで決めつけないように、しっかりとお話を伺うことにしています」
―ニュートラルなスタンスで、決めつけないように、このバランスは難しそうですよね。
「そうなんです。皆さん色々な気持ちはあると思うのですが『ニュートラルなスタンスで、決めつけないように、しっかりと…』そこはとても大事だと思っています。相談内容が法令違反やハラスメントなのか、そして調査をしてほしいか、要望をしっかり聞くようにしています」
部下をあだ名で呼んだらダメですか?
―ドラマでは「がんばれ」という言葉がプレッシャーになるから声を掛けてはいけないというシーンがありましたが、気を付けるべき言葉はありますか?
「実際にあった話ではないのですが…コミュニケーションの変化に合わせて”呼び方”に気を付けてほしいと思うことはあります。例えば部長がある部下に対しては『○○ちゃん』と呼び、別の部下には『○○さん』と呼ぶ場合、『○○さん』と呼ばれた側が傷つくケースがあるんです」
―自分だけ距離間が遠いと悩んでしまうのでしょうか 。
「はい。逆に、同期でAさんはは苗字呼び捨てで、Bさんはちゃん付けでBさんが傷つくようなケースもありますよね。本来同じ職歴なので呼び方も同じような対応となりそうなところ、そうではない。 (呼び捨てやあだ名は)本人同士のコミュニケーションがあって成り立ってると思いますが、それを聞いた周りが必要以上に不安に思わないかを気を付けてほしいとは思いますね。基本的には、『○○さん』と丁寧に接するのが私は良いと思います」
―本人の意図と周りの受け止め方でギャップがあることもありますよね。このような場合、差がついてしまうことがよくないのでしょうか。
「そうですね。誰に対しても『○○さん』という呼び方なら良いと思いますが、特定の仲の良い人たちで呼び名があって、そうでなかった時の疎外感を感じ、その疎外感によって冷遇されていると感じてしまうこともあるということです。この話は部長研修でもしましたね」
―呼び方についても研修でお話されているのですね。他にも管理職だからこそ、研修で伝えていることはありますか?
「あります。管理職はマネジメント業務になるため、その立場として気を付けていく必要があります。
例えば部下のモチベーションアップも大切なんですよね。コンプライアンスが守られているということは、安心して働けるようになること。そして安心して働けるようになることで、成果が出てくると思うんです。だからモチベーションを下げないためにはコンプライアンスも大事な要素です」
―モチベーション。どのような接し方を意識すれば良いのでしょうか?
「例えば、フィードバックすることと怒ることは違うという話をしています。研修では、管理職ならではのポイントをお伝えしたうえで、自分の部署ではどのような環境か、課題は何かを振り返ったあと、他部署の方と話して共有するグループワークを行っています」
―管理職も実践的なワークを行う研修を行うのですね。受講した管理職の反応はどうでしたか。
「アンケートでかなり良い反応をいただけました。昨年は職位ごとの研修で、部長は部長同士、チーム長はチーム長同士のグループで分けて話す時間を設けたので、それぞれの悩みについて話せたことが良かったようです。他の部署ではどのような悩みがあって、それに対してどのような工夫があったかとか。皆さんのコメントを見て、実施して良かったなと感じています」
―同じ職位だからこそ、ですね。
「そうですね。同じ職位でも、若手の多い部署もあればベテランの多い部署もあって、苦労の種類も違ったのも盛り上がっているようでした。
本当に、皆さん本当にお忙しいなかで受けていただく研修なので、効果的なものであるように内容を考えていますので、それが伝わると良いですね」
コンプライアンス推進活動の難しさとこれから
―企業コンプライアンスとして普段行っている活動について教えてください。
「法令遵守や各種ハラスメント防止は勿論、社会の要請や期待に沿った行動ができているか、それを保ち、皆様が安心して働ける、より良い組織にしていくことがコンプライアンス推進活動の目的です。コンプライアンス推進事務局では、通年を通して個別の相談対応をするほか、コンプライアンスに関する研修など様々な取り組みをしています」
―年間のコンプライアンスプログラムでは、具体的にどのようなことをしているのですか。
「毎年4月の新入社員向け研修や、スカパーJSATグループ全体の役職員向けに研修も行っています。去年は講師の方とも相談してコンテンツの中身を検討して、心理的安全性というテーマで7月頃に実施しました。研修が終わったら全従業員が受講したかを確認のうえ、『コンプライアンス宣誓書』というコンプライアンス遵守を宣誓する書面の発行を行っています。
また、年に3回スカパーJSATの本部長以上と各グループ会社のコンプライアンス責任者が出席するコンプライアンス委員会の実施や、管理職向けに階層別研修も行っています。ここ最近は”ハラスメント”をテーマに研修を行っていますね」
―本部長以上が出席!コンプライアンス委員会では何をされているのでしょうか。
「コンプライアンス違反が起こった場合に、部門長や本部長が自分事として、直々に社内であった事例の報告をいただくことで、インシデントの内容からその対策まで共有してきちんと見ていただいています。本部長の皆さんは、各部署の細かなことも把握されていて、真剣に委員会に参加してくださっていますね」
―全社として共有するのは大切ですね。
事務局の活動で最も苦労していることは何ですか 。
「会社で働く皆さんそれぞれの業務内容や経験が違う中、皆さんに同じテーマの研修を受けてもらうので、研修のテーマや内容にはいつも悩んでいます。また、定期的に研修を行っていても、コンプライアンスの本質的な意味や重要性を本当に理解してもらえているのか、意識として根付いているのかというのは、結果としてすぐに見えにくい部分もありますので、こちらとしても伝えられているのか難しいなと感じています」
―本人の自覚を見える化するのは難しいですね。
「例えば、単純なハラスメントの定義を伝えるのではなく、皆さんの業務に活かせるような内容にするよう気を付けています。ただ、会社で起こった具体的な事例をお伝えすることはできないため、世間的にあった不正の紹介をしつつ、もし当社で起こったらどうするか?その問いかけをすることで自分事化してもらうことが伝わりやすいかなと思っています。
そして知識は一度のインプットでは忘れてしまうので、定期的に伝えられるようにしています」
―まさに先ほどお話しいただいた研修も自分事化していますもんね。
「そうなんです。そして研修についても、一度取り組んで終わりではなく、振り返りアンケートも行っているんです。3か月後に実践できたか?できた場合、できなかった場合の理由も聞いて、振り返るきっかけを作っています」
―振り返りがあるのは良いですね。
最後に、これからの活動目標を教えてください。
「コンプライアンスハンドブックという役職員行動規範を分かりやすくまとめた本があるのですが、従業員の皆さんから身近に感じてもらえるようなハンドブックに作り直したいです。
昨年、人権方針等が策定されたタイミングで役職員行動規範も改定されたので、この内容を加味したうえで身近に感じてもらえたら良いなと。
また、スカパーJSATのこれまでの事業から振り返るコンプライアンス事例集もあるのですが、これも皆さんが読み物として楽しめる、つい読みたくなるような事例集にしたいと考えています!」
―読みたくなるハンドブックと事例集、改定版が楽しみです!ありがとうございました!
“コンプライアンスが守られているということは、安心して働けるようになること。”
法令遵守や倫理観など、含まれる範囲が広いために難しい印象のある「コンプライアンス」だが、その本質は極めてシンプルなものかもしれない。
そして、多様な人が安心して働くために必要なことこそ、阿部サダヲさんも歌っていた「話し合いましょう」。自分の言動が相手にどのように受け止められるかを想像して、分からない部分は話し合うことで理解する。この姿勢が何より大切なのではないだろうか。