金井美恵子熱・再燃。「快適生活研究」で、桃子や花子に再会できる喜び。
今、「金井美恵子熱」が再燃している。
本棚のどこをさがしてもないので「快適生活研究」(朝日新聞社)を図書館で借りてきて、読んだ。
収録されている七編のそれぞれの作品の登場人物が微妙に関係しあっているという仕掛けなのだが、「古都」と「隣の娘」が桃子の話だったので、その感想を。
桃子はあいかわらず紅梅荘に住んで塾のアルバイトをしており、それ以外は家でごろごろしたり、小説家のおばさんとときどき、会ったり、という日常。
変化、といえば、桃子はある学校の非常勤講師として勤めることとなり、そのあいだ紅梅荘の部屋を純子という女の子に貸す流れになる、ということくらいか。
おばさんのところにやってくる「体はデカイしお喋りで唯我独尊で、話し方は気持ち悪い」編集者やら、弟の嫁の由美子やら、手作りのチキン・コンソメ・スープ(一リットルのペットボトル入り!)を持って桃子の部屋へ「御挨拶」にやってくる純子の母親やら、「悪い人」ではないのだけれど一緒にいていらいらする、そして別れたあとで「あーあ疲れた」という言葉が出てきてしまうような人たちも相変わらずいっぱいいて、桃子はそういう人たちのことでおばさんと一緒に(もしくは、一人で心の中で)ぶつぶつ悪口を言ったりして、過ごしている。
「彼女(たち)について私の知っている二、三の事柄」では、桃子の母親が、並木さんという何をやっているかは知らないが財産はある「趣味人」と再婚したが、今回も、熟年カップルが誕生する。
そのカップルというのが桃子にもおばさんにとっても意外な組み合わせで、彼女たちは二人とも、へえーという感じになる。(ちょっとびっくりし、ちょっとおもしろい、と思い、そして、まあどうでもいいや、という感じ)
桃子にはそういうことは起こらないのだけど、「(母の再婚に続いて)『幸福』がまた一つ誕生したのだった」という箇所を読んでいると、なんだか、ジェーン・オースティンの小説を読んでいるような気分になる。
で、結婚といえば、桃子の実家の旅館は桃子の弟が継ぐことになったわけだが、その嫁の、由美子。私は、彼女が「その後どうなったか」を忘れていたのだけど、そうそう、この嫁が、意外にも(意外、という言葉を使うのは二度目)、けっこううまくやっているのだった。
桃子は、こんな女は地元の「若女将の会」に入っていじめられればいいんだ、などと思っていたが、どうやら、この先もそういうことはなさそうである。
この嫁の由美子から桃子のところに電話がかかってきて、お目にかかれないでしょうか、と言うので、もしかすると離婚?とちょっと意地悪く思い、もしそうだったらそこらの喫茶店より自分の部屋のほうがいい、と彼女を迎える準備(ジャージイを脱いでパンツとセーターに着替え、万年床、テーブルの上の灰皿、ミルクティーの飲み残しの入っているマグカップ、雑誌、新聞、DVD、ソックスなどなどをいっきに片づけ顔を洗って髪をといて・・・)をする。
これだけで、「あーあ、疲れた」となるのだが、そこへ、由美子がやってくる。その彼女が、「これが癪にさわるんだけど、まあね、美人のわけ。あれやこれやが女性誌から抜け出してきたみたいなんだね、これが。」
ちなみに、桃子が普段着ているものはすべて「ヨレヨレ」で、その上にコートを着て自転車をこいでおばさんのところに行ったりしている。
ということで、このあと、二人は朝刊の女性誌の広告(「with」「MORE」「25ans」「CLASSY.」「Oggi」「ELLE」・・・)を見ながら、こんな会話を交わすことになる。
なんだかんだ言って、桃子と由美子はお互い、腹に一物ありながらもまあまあうまくやっているようにも思えてくる。
それにしても、女性誌のあの広告の惹句は誰が考えているのだろう。独特の言葉づかいも本当におかしいのだけど(「とろみブラウス」とか)、金井美恵子の手にかかると、もっと、別の意味でおかしくなる。桃子と由美子のこの、やりあっているのか楽しんでいるのかわからないこの会話、ずうっと聞いていたい(読んでいたい)気分になる。
金井美恵子の本は、出たらすぐに手に入れておかなきゃ、と先日、中公文庫の新刊、「ピース・オブ・ケーキとトゥワイス・トールド・テールズ」を買った。それから、「カストロの尻」の文庫本も。
金井美恵子のおもしろい小説がどれもこれも品切れ、というのは、本当におかしいと思う。
「金井美恵子熱」は、まだまだ、続いている。
次は、「噂の娘」が待っている。
実は、私はまだ、「噂の娘」を読んでいないのだ。
いつか読もうと思って、そのまま、なんとなく金井美恵子から離れてしまっていた。
ファンのくせに、と自分でも思う。でも、こういうこともー「あの人の、あの作品だけなぜか読んでいない」ということも、あるのである。