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【イベントレポート】『プログラミングで未来をクリエイトする探究学習 〜いつもの授業×スプリンギンクラスルーム』

2023年5月18日、株式会社コテン 代表取締役CEO 深井龍之介氏と、城南学園小学校の荒濵豊樹先生をお招きし、「これからの時代に求められる教育」について考え探究するトークイベントを開催しました。

▼イベントの概要・登壇者プロフィールはこちら

イベントは、大きくは以下の4つの構成で行われました。

  1. Springin’ Classroom開発秘話

  2. Springin’ Classroomを活用した授業の実践紹介

  3. 「これからの時代に求められる教育」とは?

本記事は、3名による鼎談(ていだん)形式で行われた、
3.「これからの時代に求められる教育」とは?
のレポートです。その他の内容については、リンクより内容をご確認いただけます。

▼動画はこちら(44:08)

実践事例だけでなく、今の教育がなぜこのようなスタイルなのか、歴史的背景も踏まえながら、これからの教育に必要なスタイルや考え方など幅広くお話しいただきました。教育に関わるみなさまに限らず、多くの方にとってのヒントとなる内容です。ぜひご覧ください。

意欲につながるヨロコビ体験

鼎談の前に城南学園小学校の荒濵先生による城南学園小学校でのスプリンギンクラスルームの実践事例をご紹介いただきました。その内容に対する感想を皮切りに、子どもだけでなく、人間にとって必要な体験とは何か、という話題からスタートしました。

▼荒濵先生の事例紹介レポートはこちら

ー深井氏
大人が想像するより子どもはもっと楽しんでたんだろうな。素晴らしい取り組みだなと思いましたね。何より、子どもたちが実際につくったゲームを見れたのが楽しかった。

ー俊介
先生の事例は、実際のゲーム開発と同じプロセス。プロジェクトが完了しておしまい、ではなくその後も改善が続いたっていうのを聞いてめちゃくちゃいい授業だなと思いました。荒濵先生に質問がきています。
企画と計画の段階で意識していたことってありますか?

ー荒濵先生
子どもたちから「(思いついたものを)すぐにつくりたい!!」と声があがったときに「ちょっとまって、つくりながら学ぶこともできるけど、事前にどういうものをつくりたいのか、どういうねらいでつくるのか、チームで計画を立ててからつくっていこう!そのように進めていくと、たくさんいいことがあるんだよ!」という投げかけをしました。

ー深井氏
小学校のときにそんな授業うけたことないですね(笑)僕は特に、下級生に(つくった作品を)見せるところがすごい重要だと思った。自分がつくったものを誰かが楽しんでくれたという体験は、30年後でも記憶に残っているような喜びの強い体験になる。自分達がつくったもの人で楽しんでいる様子を見て喜ぶという一連の体験がすごい重要。そのヨロコビがエネルギーになって次への意欲や創作活動につながる、そんな体験ができていることが素晴らしいと思いました。

ー荒濵先生
実際、昨年この取り組みをおこなった5年生が6年生になり「今年はやらないの?6年生という立場でもっといいものがつくれそう!もう一度やってほしい」と言っている子もいる。そのヨロコビ体験が実際に残っていて、つくりたいっていう意欲は実際にありますね。

ー深井氏
人間にとってこれから大事になるのは「意欲」や「つくりたいという意志」。やる気がないことを人にやってもらうのはすごい大変なこと。放っておいてもやることをやっている人は試行錯誤も勝手にするしめちゃくちゃ強い。そこはAIの代替がきかないところだと思う。強い欲求みたいなものを直接表現できる機会が重要なポイントだとおもう。

ー俊介
人間の本能には3つあると言われているが、4つ目があると思っていて、それが「創造」だと思う。だから人間は何かしらをつくり続けて発展し変わり続けている。こんなに豊かになってるのに「何かをつくりたい」というのは人間の本能のひとつなんじゃないかなと思っていて。だから、それをちゃんとアシストしてあげるっていうのが、教育として大事なんじゃないかなって思っています。

ー深井氏
育つ過程でその欲求を持つことを止められないということが重要。なるべくその欲求が止まらないツールであり環境が大事。その環境には、ツール(スプリンギンクラスルーム)だけではだめで、先生が必要。そうして、若い時に強烈な喜びの体験を1回するだけで人生が変わると思う。再現性がある問題を解ける、というのはAIができるようになっちゃう。創造する、この世にないものつくる、人間に残っている仕事はそういうものになるだろう。そこに直接アプローチしているっていうのはすごくいいと思うんですよね。

授業設計、どうしているの?

ー俊介
荒濵先生の実践みてすごい!できるんだ!て思っちゃうんですけど、先生ってやることいっぱいあってめちゃくちゃ忙しい中で、どんな授業をつくればいいんだろうっていうのを、一人で考えてるのか、他の先生とディスカッションするような場があるのか…どんな場で先生が決めたり考えたりするんですか?

ー荒濵先生
一番は、子どもたちの楽しそうな表情や姿を実際に見てもらって、他の先生方が「自分もやってみたい」と感じてもらうこと。そこでは先生の「欲」が重要になってくると思う。「やらなければならない」「教えなければならない」ではなく「一緒にやってみたい」と思うことが今の教育現場で大事。私たち自身もわからないことがたくさんあるので、子どもたちと一緒に学んでいこうというスタンスでやっています。実際、私より詳しい子どもに助けてもらうということも。

先生の役割は、入り口の用意と、計画の重要性を伝えること、あとは子どもたちに寄り添うだけ。あとは、認めてあげることと褒めてあげるところは大人がすべきところだと思います。

今の子どもたちは与えられすぎている子どもたち。昔は、1、2を10になるようにフォローするような役割。例えばもっと賢くなるためにこの問題集したらいいよ!というような与え方。今は0を1にするようなきっかけを与えるようなイメージ。ひとりひとりが0から1をひらめくようなきっかけづくりをすること。その個々の1から、2や3…としていくのは子どもたち同士でできる。長けているところを子どもたち同士で認め合うこともとても大事

ー俊介
…こんな先生に教わりたかったな。

ー深井氏
小学校の先生ってこんなに考えてくれてたんだな…子どもたちも幸せですよね。

評価ってどうしてますか?

ー荒濵先生
個人の振り返り、チームの振り返りを必ず毎時間とるようにしていました。
自分の感情の振り返り前できなかったけど今日の授業でできるようになった、など、自分の変容を子どもたち自身が振り返られるようにしています。

非認知能力って目に見えないからこそ、子どもたち自身が感じていることをアウトプットする癖をつけさせてあげ、そのアウトプットを先生が読んでフォローしたり見てあげているということで評価としています。教師自身が楽しんでその授業に参加しているからこそ見えている子どもたちの姿があるんだと思います。

教育ってなんだろう?

ー深井氏
難しいテーマ。永遠のテーマだと思う。国家が国民に対して教育を行い始めたのは、近代に入ってからで、それまではなかったんです。なのでたった150年くらいのこと。そして、その教育に対して誰がお金を払っているか、というのが重要。最初は徴兵のためだったり、国民の識字率を上げようというものだったり。全員教育を受ける、という体制になったのはここ最近の話で、教育効率を上げるために、40名のクラスルームというのができ学年で分けた。でも今の教育って、特に戦後とかだと国や行政のために子どもの教育をしているわけではないですよね。でも一方でお金の出どころは国や行政。(私立はちょっと異なるが)誰が何のために教育をやっているのか、それは永遠のテーマなんですよね。さらに受験戦争も終わりそうな時代の境目であったり、今は教育の転換期。時代の変わり目に差しかかってるところだし、教育について、一言では難しい。

ただいえるのは、教育従事者にはリスペクトしかない。一度に40人見る…とか、さらに取りこぼしがないように…とか、相当すごいことをしている。歴史からみても、ここ100年間でそうなったように、すごい変わった特殊なことをしていると言える。さらにそこに時代の変換期も重なり大変だと思う。一番悩みの多い時代なんだと思う。

ー俊介
コテンラジオの「教育の歴史」「老いと歴史」を聴いたらよくわかるけど、今の教育って、ほんとここ最近できたものであって、誰がお金だしているのっていう部分がチグハグしているって言っていたけど、お金を出している国が教育にお金を払わなくなったら、国が滅んじゃう、というところもあって。

「指導」と「マネジメント」

ー俊介
じゃあ、何が重要なんだろう?
「指導」だけじゃなくて「マネジメント」する力がこれからの先生に重要になってくるっていうコメントがきてるんですけど、「指導」と「マネジメント」は一緒?違う?

ー荒濵先生
先生が子どもに寄り添うとか一緒になってやるっていうのが大切だと思う。コーチングも大事だが、先生が前に立って40人を教える、とか「みんなで◯◯やるよ!」「◯◯しなさい!」という声かけではなくて、その子、その子に寄り添って「一緒に頑張っていこうね!」という声かけに変わっていってる。今、1クラスの人数を減らしていく流れもあり、個別最適化という言葉をよく使っているが、一人一人に合った授業を先生がうまくフォローしていくという方向になっていると思う。

ー俊介
それって「マネジメント」ですよね。教える、というより、この子はどうしたらできるようになるのか、力を発揮できるのかと考えたり…それを40人分…ってすごくないですか!?

ー深井氏
20人でも難しいって思う。しかも40人、パーソナライズしたマネジメントなんてましてひとりじゃ難しいと思う。いろんな連結なりチームなりでなんとかするしか。それに相性というのもあるじゃないですか。全部教えないといけなくて、個別にパーソナライズして教えるとか大変でしかないと思う。
だからこそ、ひとつの強烈な成功体験、何か好きなことをとことん突き詰めた体験が大事で、一回だけでもいいと思う。そのあとはその再現でいい。あのとき熱中した感覚というのを覚えておくと、基準になるし、すごく価値がある。究極、6年間のうち究極1回2回とかでもいいと思う。そんな感覚じゃないと提供はできないと思う。社会人だって難しいことですよね。

「個」と「社会」

ー俊介
「個」を追求するというのと「社会」のための教育、という話があったけど、今はどんどん「個」に寄っているじゃないですか。個の幸せを追求した国とか時代はこれまであったのか?という質問がきてるんだけど、どうなんだろう?

ー深井氏
ない、ないですね(笑)個人という概念、つまり英語で「individual」という概念は近代西洋の哲学の中で生まれて、日本においては明治時代くらいから出てきた概念。それまではなかった。個人の幸せを追求する、個人の適性を追求して自己実現するという概念は極めて近代的概念。ごくごく最近の話。

ー俊介
つまり、人類は初めての体験をしようとしている?

ー深井氏
ここ100年くらい、特に戦後ですね。フランス革命のときに個の概念の萌芽があったが、国民国家概念の中で、国のために頑張ろうぜ!となり、戦争に突入するんですね。そしてその戦争でたくさんの人が死んでしまい、そして戦後は国も大事だけど「個人」も大事だよね、となり、「個人」の対象が広がっていっている、というのが今。
歴史的経緯でいうと、そういう変遷を辿って、教育という現場でも、個人が大事にされるというフェーズに入った。

ー俊介
個別最適と、みんなの学力一緒になるように教えないといけない、この二つは相反しそうなんですが、現場で成立するんですか?

ー荒濵先生
子どもたちにその部分を先生が求める。仲間をカバーできる力、とか共に学び合える力をつけてあげる。コミュニケーションが大事と言われているけども、自分の思いや考えを相手に伝えるコミュニケーション、だけでなく、子どもがクラスメイトひとりひとりの長けているところを褒めてあげる、認めてあげるというコミュニケーション力を身につけてもらう。そうすることで、言い方が良くないかもですが、教師が少し楽になる(笑)先生が一定のところまでをみんなを同様に引き上げる、よりは、得意不得意を子どもたちが認め合い、補い合える仲間をつくっていくと、先ほどの話題にあったヨロコビ体験になっていく。仲間とのヨロコビ体験はやっぱり覚えているなっていうのはすごく感じます。

ー俊介
確かに、会社の中では全員性格も能力も違うんですよね。同じ能力を持った人が集まっても会社は成立しない、というのが社会では当たり前なのに、学校ではみんな同じことが同じようにできるようになりなさい、というのは、急に社会にでてどうするの?ってなってしまいますよね。

人文科学、人文知って重要ですか?

ー俊介
伝えるコミュニケーション、だけでなく認め合うコミュニケーションっていう定義、すごい良いなと思いながら聞いていたんですけども、これまでの話だと「つくる」という話に寄っていて、世の中もSTEAM教育という言葉にも寄っているが、そうすると、人文知、人文科学というのが意味あるのかなと思ってしまう、という質問がきています。

ー荒濵先生
全員に歴史だったり人文科学などを定着させる、教えるのではなく、興味を持ってもっとやりたくなるきっかけを与えるのが教師の仕事かな、と。受け身になる教え方ではなくて、学びたいって前のめりにしてあげるというか、その子の「欲」を引き出してあげるのが、大事だと思いますね。

ー深井氏
ぼくはその重要性をいろんなビジネスパーソンに伝える仕事をしているのだけども、人文学とか人文知はその人の世界観を形成するために不可欠なものだと思っている。世界観が形成されるときに生まれる知でもある。歴史を知っていて、今起こっていることについてどう思うか、・・・それらは全て人文知から起こっている。この世界観が、今までの時代(特に冷戦以降)は、統一されているという勘違いのもと生きていけた時代が続いていたんですね。でも今はよりいろんな国が発信できるようになっている。例えばエンターテインメントが多様化しているように、今まで、いいよね、かっこいいよね、と思うものが今は多岐に渡って形成されているんですよね。つまり文化の多様性というようなものがあるわけですよね。一方で、イスラム教徒の人々が世界で一番人口が多くなると言われていたり。多様になっている中で、いろんなルーツと文化を持った人たちが一緒に生きていくという時代に今後なっていくんですね。そうすると、他者の世界観を理解できる力というのが重要になっていくと思うんですね。ここに人文知がダイレクトに繋がっているんです。何か一つのものだけを真理と思っているようなスタイルだと、多様な世界の中でいろんな人と、協働したり、仕事できなくなっちゃう。人文知を理解していると、自分の世界観が何かを知るだけでなく、人の世界観まで想像するというところまで高めることができますから、そこまでいくとびっくりするくらい役に立ちます。

ー俊介
小学生にも絶対に役に立ちますよね。自分だけの価値観じゃないんだってこと、こんな考え方がもあるんだってことを知るためにもいかにたくさん人文知をしっているかというのは大事で、STEAMだけが大事っていうわけではなく、とても大事だと言えますよね。

多様性もそうだけど、いろんなことを楽しく学んで知って、お互いに認め合って教え合ってという荒濵先生のお話につながっていきますよね。

(おわり)


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