『100万円の女たち』の創作裏話 〜締め切りの向こう側 〜
デビュー間もない頃に「青野さんは週刊連載をするつもりはありませんか?」と週刊スピリッツの編集Oさんから大変有難い提案をして頂いたのですが「無理だと思います」と正直に答え、その後も月刊連載や読切、頑張っても短期集中連載でマンガ制作を続けていました。
僕が週刊連載に踏み切れなかった理由は2つありました。
・生まれつき虚弱体質で3〜4年に一度のペースで何かしらの病気になり、入退院を繰り返して生きてきた自分の健康状態への不安。
・描き込みの少ない作風なのですが、両手に軽く問題があり独特な描き方をするので必要以上に体力を消費してしまい作画に時間がかかり過ぎる。
なので、僕には週刊連載は難しいと自己判断しデビュー当初から諦めていたつもりでした。
しかし、自分でも自覚なく週刊連載に対応できる方法を模索しながらマンガを描き続けていることに気付いてしまい、全く諦めていない自分に苦笑いしつつ努力を重ね週刊連載に対応できる技術を身につけることができました。
その技術とは、ネーム(マンガの設計図のようなもの)を限りなくハイスピードで描くことです。
ネームさえあれば作画に時間がかかったり、体調を崩しても休憩時間を捻出できるので週刊ペースの締め切りにも対応できるはずだと考えました。
※ 僕のネームにかける時間などは『青野春秋のマンガの描き方』という記事に書いてあるので、気になる方はそちらをお読みください。
前置きが長くなりましたが、ネームをハイスピード化(もちろん内容の質は上げながら)することが出来るようになった僕は早速、新作ネームを3話分と簡単な企画書を書き上げ、週刊スピリッツ編集部のOさんに「読んで頂きたい新作ネームがあります」と連絡しました。
その新作ネームが、僕にとって初めての週刊連載作品『100万円の女たち』でした。
ネームを読み終えたOさんは「どのように着想されたのですか?」と、今までの僕の作風からは意外な内容に感心してくださいました。
テーマに関しては、僕の中で『週刊スピリッツ』といえば、高橋留美子先生の『めぞん一刻』を筆頭にラブコメマンガの名作をたくさん送り出してきたコミック雑誌と、勝手ながら思っていたので「ラブコメを描いてみよう」という気持ちと「でも、ただのラブコメディーじゃ単純すぎるからミステリー要素を織り交ぜよう」と思ったことと、それまでの作品でOさんに褒めて頂いた僕のマンガの特徴をブラッシュアップしてみましたとお伝えした。
そのようにして、初めての週刊連載を漫画家になる前から夢中で読んできた『週刊スピリッツ』で描くことが出来たことはとても嬉しかった。
実際に週刊連載をしてみると、「寝る間もないほどに大変」という僕の想像とは真逆で、1話描き終えるとすぐに次の締め切りがくるので生活と制作のリズムが安定して、それまでの「締め切りの向こう側」へ行ったり来たりしていた月刊連載のみのときが嘘のように「幸せの締め切り」で進行することが出来て、今では「週刊連載が一番描きやすい」になっているので自分でも不思議に思う。
結果的に『100万円の女たち』の週刊連載と併せて月刊連載3本をこなして(一度腸炎を患いながらも)最終回まで一度も休載をしなかったのは、今振り返ると「今後はありえない」と思うと共に「スケジュール管理って大切!」と在宅仕事の難しさを改めて痛感した。
余談ですが、『100万円の女たち』の連載時に編集さん伝いに高橋留美子先生が「100万円の女たち、おもしろいですね」と言ってくださったことは、半年くらい会う人会う人に報告していた思い出。
今現在(2021年6月)は身体を本格的に壊し、地道な闘病とリハビリの日々を涙目で過ごしていますが、またマンガを連載できることを一番の目的としております。
ただし、今後は長期休載や急死することなく作品を完結させることを大切したいと思っています。更なるネームのハイスピード化も努力中ですが、赤塚不二夫先生が実践されていたネームを脳内で済ませていきなり原稿に作画していくという超人技に恐れ多くも近付けるように、果てしなくマンガに向き合いたい所存です。
そして、またマンガを通して人と繋がる日を夢見ているので皆様もどうぞご自愛ください。
終
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