夕べの祈り:オペラ「ヘンゼルとグレーテル」から
小学生の娘はヴァイオリンを習っているのですが、まだまだ初心者でTrinity Collegeのヴァイオリンの試験でようやくGrade2に合格しました。
コロナ禍で試験会場での演奏は不可となり、ビデオを録音してオンラインでロンドンに送るという前代未聞の試験となりましたが、なんとかそれなりの点数で合格できました。次はGrade3なのですが、先生に新しい課題曲を頂きました。
その曲は、メルヒェンオペラとして名高い、ドイツのエンゲルベルト・フンパーディンク作曲のオペラ「ヘンゼルとグレーテル」の中で歌われる夕べの祈り。
寂しい森の中で迷ったヘンゼルとグレーテルの二人は天にお祈りして森の中で眠ります。その時に歌われるデュエット。とても素敵なメロディで、オペラの序曲もこのなメロディから開始されるほどに大事な音楽。
それで動画を検索していると、この曲、ある古いアメリカ映画に登場しているのを見つけました。子供たちの合唱で歌われる、教会堂での祈り。白黒映画で、ドイツ語ではなく英語で歌われますが、本当に美しい場面です。
1941年のOne Foot in Heaven(邦訳はないようです)より。
子供のためのオペラなので、子供たちに歌われるとやはり素晴らしい。音楽的に少しばかり難しい転調もあるのですが、練習すれば誰にでも歌える美しいメロディです。
転調部分をピアノ譜でみると、半音階的に上昇してゆくのが分かります。ベースライン、この楽譜の二段目から、メロディ(ヴァイオリン)はニ長調からヘ長調へと転じて、半音ずつ、低いミからF♮そしてF♯とどんどん上ってゆくのです。この楽譜の六小節めの最初の和音はミ、ソ、シ♭の減音程の三和音で、これが次のヘ長調の主和音につながります。素敵な転調です。歌の部分、ここではヴァイオリンパートでシ♭が出てくるとハッとする瞬間です。美しい。
原曲のフンパーディンクのオペラは1893年の作曲で、ドイツオペラ界においては、1883年に巨匠リヒャルト・ヴァーグナーが死去したのち、次の時代の大オペラ作曲家のリヒャルト・シュトラウスの登場までの空白の時代に一世を風靡したメルヒェンオペラの最高傑作。初演指揮者はのちの大作曲家の前述のシュトラウス。また初演された街以外で最初にこのオペラを指揮したのはのちの大作曲家グスターフ・マーラー。このように19世紀の終わりに最も重要な作品とされたオペラ作品です。
ドイツはグリム童話のメルヒェンの国ですからね。幻想的なオペラは国民的な好み。
フンパーディンクはヴァーグナーの弟子ですが、巨匠のおとぎ話風の大傑作「ジークフリート」のメルヒェン路線を極めたのがこの作品。「ジークフリート」には三つの謎々が出てくるなど、ほんとに童話風。
「ヘンゼルとグレーテル」では随所にヴァーグナーの「ラインの黄金」のような響きを聴くことができます。どこかモーツァルトの魔笛の三人の童子のような響きも聞かれます。オーケストラで奏でられる第二幕冒頭の「魔女の騎行」はまるでヴァーグナーの「ヴァルキューレの騎行」のパロディ。どんな作品が仄めかされいるか知っているとますます楽しくなります。
親しみやすいメロディの宝庫ですので、もし舞台上演の機会があれば、是非とも舞台に足を運んでいただきたいです。
少しばかり、昨夜の祈りの英語版を引用しておきます。原曲のドイツ語よりもより親しみやすいと思います。歌えるとオペラ鑑賞もますます楽しくなります。
最後にすこしばかり、ネットで探してきた舞台の写真と動画を貼ります。こんなステージ見てみたいですね。ヘンゼルとグレーテル、二人とも女性歌手によって演じられます。男声歌手はお父さんだけどいうのもメルヒェンオペラらしいでしょうか。
この記事を読んで、少しばかりこの名作オペラに興味を持っていただけると嬉しいです。
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