ピアノ協奏曲よりも魅力的な「華麗なる奇想曲」作品22
ピアノ協奏曲の出来に満足していなかった最晩年(30代後半)のメンデルスゾーンは、のちに不滅と呼ばれるヴァイオリン協奏曲ホ短調を完成させます。いわゆるメンコンです。メンデルスゾーンの音楽的美点の全てが見事に体現されたヴァイオリン協奏曲ホ短調が大成功したことにメンデルスゾーンはどれほどに留飲を下げたことでしょうか。
ベートーヴェンの皇帝協奏曲の弾き振りを得意にしたほどにピアノに精通していたメンデルスゾーンが自分が満足できるようなピアノ協奏曲を書き切れなかったのは、やはりバッハやベートーヴェンの音楽を知りすぎていたためでしょう。
知識がありすぎると想像力の翼が抑制されてしまうのはいつの時代でも同じ。想像力は創造力。古典音楽への知識がありすぎたために伝統的形式美に忠実であろうとし過ぎたメンデルスゾーン。でも先人の例に従わなくても構わない自由形式の奇想曲(カプリッチョ)となると、メンデルスゾーンの音楽への褒め言葉の代名詞である妖精的で軽やかな音楽が自由に展開するのです。
曲はソナタ形式のようでいて、ソナタ形式ではありません。このあいまいさが成功の秘密。12分という短い時間の中でオケとソロピアノが交代で対話する見事なインタープレイは19世紀的なロマン派音楽の最良の音楽表現です。
現在ではあまり演奏されない作品ですが(高名なピアニストの演奏がほとんどなありません)わたしはピアノ協奏曲二曲よりこの奇想曲の方がずっと好きです。
内省的な要素が足りないでしょうか?でも派手で舞台映えする音楽なので、ショーピースとしては最高ですよ。いつか実演で聴いてみたい。
冒頭のソロ、メロディを分散和音で彩るテクニックは後年の無言歌の名作「春の歌」を先取りしたものでしょうか。誰かを想う優しい心を音にしたような音楽。やはり言葉のない歌の世界の音楽。一転して主部はメンデルスゾーンらしく音楽が軽やかに華麗に飛び跳ねる音楽です。
20代前半の若いメンデルスゾーンの自由なファンタジーが鍵盤上で大いに羽ばたく佳品(小さなピアノ協奏曲)。ぜひ聴いてみてください。
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