SMARTではなく、WISEになろう!
昨日はオイレンシュピーゲルを語り、フクロウは賢明さの象徴であると紹介しました。
フクロウ(The owl)は、ドイツ語では
フクロウという夜行性の鳥はユーモラスな風貌とは裏腹に、鋭いかぎづめを持っていて、ネズミなどの小動物を捕獲します。
とのんきに鳴いているように見えても、夜の闇の中で鋭く黄色い目の光を輝かせている、夜の森を支配する動物の中の最強の存在。
闇夜の中でもすべてを見通す点が
とされ、古くは古代ギリシアで知恵の女神アテナの同伴者として崇められてきたのでした。
フクロウは神聖な動物なのです。
古代ギリシア最強のポリス「アテネ」では、マスコットキャラのように大事にされていたフクロウ、現代のドイツ語圏ばかりか、英語圏でもフクロウは賢者の象徴として、日常的にイラストなどでフクロウの姿を見ることができます。
WISE!
今朝は娘の通う高校で、学年主任の先生とお会いしてきたのですが、学校にはこのような学校のモットーが掲げられていたので、すかさずアイフォンで写真を撮りました。
いかがでしょうか?
フクロウ、かわいい💛。さすがは女子高(?)。
色違いの葉っぱは多様性の象徴。とても良いイラストですね。
WISEは
Willingness to Learn(積極的に学ぶ)
Interact with Respect(敬意をもって人と接する)
Strive to Understand(理解しようと努力する)
Engage to Achieve(やり遂げるために繋がる)
WISEを使った頭文字のモットーは英語世界の定番ですが、それはWISEという言葉の素晴らしさゆえ。
娘の学校では、学びの積極性と他の人への敬意と理解力とみんなと一緒に何かを成し遂げることを学習の目的として掲げているのです。
学校は学びの場、WISEになるための場所なのです。
語源
WISEという言葉は、オランダ語、ドイツ語、英語の全ての源だった「古ゲルマン語」が古英語になって
となり、WISEになったのでした。
と共通の語源を持つことからも分かるように、日本語では
と訳されても、いわゆる知能指数の高さから、試験などで高得点をとれる能力の「頭がいい」とは別物なのです。
形容詞「Wise」を名詞化すると
となります。
ドイツ語では
全く同じ語源の言葉です。
SMART!
日本語のカタカナの「スマート」は、なぜか女性の容姿が優れているという意味で使われているのですが、英語で「頭がいい」はSMARTです。
でも
は「彼女は賢明である」とは訳せません。
Book Smart や Street Smart という言葉が特に英語のネット世界ではもてはやされますが、勉強好きでたくさんの知識を持っている人は
人生経験豊かで世間知に富んでいる場合は
となります。
実践的で即戦力になるような知恵のことです。
おばあちゃんの知恵とか(梅干しの漬け方とか)
空気を上手に読んで臨機応変に対応できるとか(仲間外れになっている人に声をかけてあげたり)
接待業をしていて、気配りができるとか(マニュアル通りではない良いおもてなし!)。
「頭がいい」にもいろいろあるのです。
良い知性を象徴する動物
この Smart を Wise のように動物に喩えると、やはり古代ギリシア由来で
になります。
イルカは、群れをつくる非常に豊かな社会的な行動を行うことで知られていて、仲間を助け合うことで知られています。サメに襲われそうになった人間を輪になって囲んで守ってあげたりするなど、知能の高さは圧倒的です。
水族館で曲芸をやらせればそれはもう見事なものでしたが、現代では動物虐待に当たるのでこれはイケマセンが、子どもの頃に須磨の水族館で見たイルカショーは今でも忘れられません。
学習させると何でも覚えてしまい、実生活でもお互いに助け合うイルカ。
フクロウのように暗い森に籠る賢者のイメージではなく、明るい陽の光の下の透き通る水の中で仲間たちと知的な遊びに興じるイルカは Smart (頭がいい)のです。
イルカは泳ぎながら遊ぶことでも知られています。遊びは人間だけの特権ではありません。
オランダの社会学者ヨハン・ホイジンガ Johan Huizinga (1872-1945) は人間を
と定義しました。
「遊ぶ人」という意味で、「遊びという特別な行為を通じて、人は社会的に人間らしくなる」という意味合いがこもっているのです。
よりはいい定義にも思えそうですが、イルカの遊びを楽しむ知性を知れば「ホモ・ルーデンス」も完全に人らしさを言い表した定義ではないかもしれませんね。
Clever!
もうひとつ「頭がよい」の訳語として
があります。
でも「ずる賢い=狡猾である」という意味なのです。
動物に喩えると、キツネや猫でしばしば表現されます。
ベルギーのノーベル賞作家モーリス・メーテルリンクの「青い鳥」では、ネコはずる賢さを体現する動物でしたが、一般的にはキツネですね、ずる賢いのは。
先の例文の「彼女はあたまがいい」を
と訳すと間違ってはいませんが、この場合の意味は
彼女は手先が器用(包丁を上手に使えるとか、お裁縫が上手だとか)
彼女はずる賢い、抜け目がない(誰にも知られないで、お菓子を他の人よりも、たくさんもらうとか)
という意味になります。
トリックスターな動物
キツネは、前回語ったオイレンシュピーゲルのような「トリックスター」として物語に登場します。
スウェーデンのノーベル賞作家セルマ・ラーゲルレーヴの「ニルスの不思議な旅」では、キツネのレックス(アニメ版の名前)は見事なトリックスターでした。
このアニメ、大好きでした(笑)。昭和の名作NHKアニメ。
生存能力に長けていて、人が罠を仕掛けても、すぐに見抜くし、ウサギを追いかけても、後から追わずに、ウサギの逃げる習性を理解して別の道を走って先回りするなど、まさに「ずる賢くて、器用」なのです。
カタカナで「クレバー」として日本語でも取り入れられていますが「利益を得るのに長けている」というニュアンスがふくまれているので、必ずしも誉め言葉にはならない「CLEVER」。
使い方には要注意です。
賢明さとは?
ならば賢明さとは何であるのか?
とわたしは言い表します。
いろいろ賢明である例はありますが、外面的な魅力に富む相手よりも、内面的な魅力に富み、お互いに共感しあうことのできる
をパートナーに選べた人は「ワイズ」であると心から思います。
本当の幸福にたどり着ける選択をすることのできる知恵が
です。
昨日書いたティル・オイレンシュピーゲルは、典型的な「クレバー」な例ですね。狐のような人がティルでした。
でも決して「ワイズ」ではありませんでした。
一休さんは子どもなのに世間知に富んでいて「ストリート・スマート」でした。政治的権力のために母親と離れて暮らさないといけないかわいそうな子供だったから、あまりに早くに大人びてしまったからでしょう。
でも地頭が良かった一休さんは、まだ本当の「ワイズ」をまだ知らない子供でした。
「ワイズ」になるには、たくさんの人生経験が必要なのだと私は思います。
まとめ
まとめると:
座学などで学んだ知識に富んでいるのが「Book Smart ブック・スマート」
実践に役立つ、生活能力など、実生活の知恵に富んでいるのが「Street Smartストリート・スマート」
他人を出し抜く能力や手先の器用さが「Clever クレバー」
長期的な視点に基づく、人生を豊かに生きる知恵にあふれているのが「Wise ワイズ」
となります。
わたしの書く記事の多くは「ブック・スマート」。
人と会うよりも、本を読むことからより多くのことを学ぶ性分ですから。
でも自分もそれなりの人生経験を積んだので「ストリート・スマート」な記事もそれなりに書けるはずですが、あまり身近なことは話したくはないので、「ストリート・スマート」な話題は、わたしの書く記事には出てこないと自己分析しています。
けれども、もっと人生に役立つ知恵に富んだ「ワイズ」な記事はもっと書いてみたいとも思っています。
いつも私の記事を読んで下さってありがとうございます。そんな思いで今日という日を過ごしています。
ほんの小さなサポートでも、とても嬉しいです。わたしにとって遠い異国からの励ましほどに嬉しいものはないのですから。