マリオ・ブルネロによるバッハの「イタリア協奏曲」

先日紹介したアントニオ・ヤニグロのバッハのチェロ協奏曲が大好評でしたので、今日はヤニグロの弟子であるマリオ・ブルネロ (Mario Brunello 1960-) の演奏はいかがでしょうか。

無伴奏チェロ組曲も素晴らしいのですが、面白い演奏を見つけました。バッハの「イタリア協奏曲」をチェロ協奏曲に仕立てた演奏です。

「イタリア協奏曲」はバッハが新しく学んだイタリア式協奏曲形式(オーケストラとソロが交互に登場する音楽形式)によって書かれた、上下の鍵盤で違う音がする二段鍵盤チェンバロのための音楽です。

二段鍵盤チェンバロは面白い楽器で、上の鍵盤は楽器内部の弦を一本だけで鳴らして、下の鍵盤では楽器内部の全部の弦(三本か四本)鳴らすことで、音量を変える仕組みなのですが、これはのちのモダンピアノのソフトペダルと同じ原理。

アップピアノをお持ちならば、ピアノの上の蓋を外して、三本あるペダルの一番左のソフトペダルを押しながら弦を打つハンマーのフェルトがどれだけずれるか見られると面白いですよ。これが二段鍵盤チェンバロと同じ原理。でもピアノではソフトペダルを押しても鍵盤が一つなので、二段鍵盤効果は物理的に無理です。

バッハは普通はバロックの流儀で楽譜にピアノやフォルテなど発想記号を書かないのですが、二段鍵盤チェンバロのための楽譜では、Piano(上段鍵盤)Forte(下段鍵盤)を弾き分けろとの指示が書かれてあるのです。上段はソロ楽器、下段はオーケストラというわけです。

「イタリア協奏曲」がピアノで弾かれるとき「ソロなのになんで協奏曲?」という素朴な疑問がわきますが、二段鍵盤チェンバロはひとりで協奏曲が弾ける楽器だったのです。

つまり「イタリア協奏曲」はピアノで演奏されたとき、完全に編曲なのです。

だからチェロで弾いても悪くはないどころか、とても面白いですよね。二段鍵盤チェンバロで一人で弾く協奏曲のところを、楽器を増やしてチェロにソロをやらせたというわけです。

この動画の終わりに第二楽章の一部が流れますが、ブルネロのソロの音色がことのほか美しいですね。

良い日曜日をお過ごしください。

いいなと思ったら応援しよう!

Logophile
ほんの小さなサポートでも、とても嬉しいです。わたしにとって遠い異国からの励ましほどに嬉しいものはないのですから。