妖精の歌:メンデルスゾーンのロンカプ

最もフェリックス・メンデルスゾーンらしい音楽は細かい音楽が小気味よいリズムに乗って軽妙に飛び跳ねる音楽。英語ではしばしばElvish(エルフのような、妖精のような)という形容詞でメンデルスゾーン最良の作品は紹介されます。「夏の世の夢」のスケルツォはまさに典型です。

同時代のライヴァルたち、シューマンやショパンやリストには絶対に書けなかった音楽。楽天的で飛び跳ねる音符はメンデルスゾーンのピアノ曲に頻発して、無言歌の「紡ぎ歌」や歌曲「新しい歌」も細かい音符が踊り出す音楽。

ピアノ学習者に大人気な「ロンド・カプリチオーソ」作品14もそうしたメンデルスゾーンの魅力全開な音楽の代表。19世紀にはヴィルチュオーソピアニストたちが好んで弾いた曲でした。現代ではピアノ学習者たちの発表会定番曲となっているのは、現代のピアニストたちの技量がそれほどに格段に上がってしまったためでしょうか。音楽入試ピアノ科入学最低条件はショパンのエチュードがどれか一曲弾ける程度というものですからね。

フェリックスのロンカプは保守派代表の彼らしく(19世紀のバッハと呼ぶにふさわしい!)曲中の音楽語彙は非常に古典的で論理的。ロマンティックな半音階的な展開はないので、弾きやすい一曲。でも古典的な音符だけれどもロマンティックにクレッシェンドしてロマン派音楽として弾くべき音楽。速いテンポの中に細かい音符がたっぷりで演奏は疲れる。スタミナ消費する曲。もともとは練習曲として書かれた曲だったために、指が酷使されるのです。

飛び跳ねる音符が飛び交う様子を妖精のように軽やかに演奏すると曲の魅力は最大になるのですが、わたしが昔から聴いてきたのはベートーヴェン弾きバックハウスの演奏。Deccaの有名な録音。ラテン系のアリシア・デ・ラローチャ(超名演)みたいに妖精的な曲想をピアニスティックに再現するピアニストたちとは異なり、バックハウスはベートーヴェンを弾くみたいにゴツゴツ弾いている。メンデルスゾーンはドイツ音楽なので、こういうアプローチもあり。でもメンデルスゾーンらしくない。だから好みが分かれるでしょうね。

曲は20歳のフェリックスが求婚したというデルフィーネ・フォン・シャウロスに触発されて出来上がったらしいですが、デルフィーネのお話はまた次に。

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