懐かしい笛の音によるハンガリー田園幻想曲

昨日バルトークの「チーク地方のハンガリー農民の歌」を紹介しましたが、ハンガリーのメロディが日本人に親しいのは、わたしたち大和民族がペンタトニック・ヨナヌキ音階に郷愁を感じずにはいられないから。

ハンガリーのマジャール民族は本来ウラル山脈系の人たちで、モンゴルが訛ってマジャールになったということですが、アジア的な人たちとヨーロッパ的な人たちが交じり合って生まれた人たちでした。ハンガリー文化の特殊性は特筆に値します。9世紀ごろ(日本の平安時代)に移住したのだとか。

大作曲家バルトークはハンガリー音楽の特徴を農民の歌を収集することで発見した偉大な民族音楽学者でしたが、バルトーク以前の19世紀の音楽家たちは理論では理解できなかったけれども、なにげに独創的なハンガリー風な響きを芸術音楽の中に取り入れていたのでした。

1848年のパリの二月革命に連動して起きた「ハンガリー革命」に参加したハンガリー人レメーニ(ヴァイオリニスト)と演奏旅行を行った二十歳のドイツ人ブラームスは、レメーニが得意としたジプシー(ロマ)音楽をコピーして、のちにハンガリー舞曲集を出版。ベストセラーになってブラームスは大金持ちに!

余りの売れ行きに嫉妬して盗作だと怒ったのがかつての盟友レメーニ。裁判に訴えますが楽譜には「編曲」と書かれていてブラームス勝訴。それくらいにハンガリー音楽は魅力的でした。

リストの作曲の弟子フランツ・ドップラーはハンガリー音楽の魅力いっぱいのフルート曲を作曲。フルート奏者でこの曲を知らぬ人はいない!と言いたいところですが、なぜか欧米ではこの曲は人気がない。日本限定ではフルート奏者で知らぬ人のいない名作なのに。ハンガリー風(東洋風)なため?

途中でハンガリー農民が踊る歯切れの良い舞曲になります。歌うことに特化したフルート音楽が多い中、極めて珍しいフルートの舞曲。笛は踊りにも似合います。これ以外のフルートの名作舞曲ってバッハのソナタくらいしか思いつかない。

SP録音復刻のマルセル・モイーズの1930年代の録音は「泣けます」。こんなにも感動的な名演奏はあり得ないと思えるほどに懐かしい音色と節回し。モイーズは生粋のフランス人ですが、ハンガリーの郷愁の調べは国境を越えてゆくのです。日本人ならばみんな好きになるハンガリーの田舎の歌。

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Logophile
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