🐝🐝🐝スズメバチの飛行！🐝🐝🐝（クマンバチではなくて😆）

2025年1月14日 16:14

英国情緒の権化レイフ・ヴォーン＝ウィリアムズは似たようなノスタルジックでリリカルな音楽を百曲以上、何十年も書いていた人でした。ブルックナーやヴィヴァルディの音楽がどれも同じスタイルで書かれているように、ヴォーン＝ウィリアムズは民謡研究家として、バルトークがハンガリー・ルーマニアの田舎を歩いたように、イギリスの田舎を旅して忘れられてゆこうとしていた英国の伝統音楽を収集して、同じような英国田園音楽の作曲を生涯続けたのでした。

自分自身の語法と技法を持つことは偉大な芸術家の証。

けれども、わたしには彼の音楽、どれも同じに聞こえて仕方がない。個人的に彼の作風が好きなので、マンネリ音楽でも聴いてしまうけれども、このノスタルジーが好きになれない人には何が何だか分からない変化に乏しい音楽に眠たくなってしまうことでしょう。

彼の才能が開花したのは４０歳ほどになってから。ブルックナーやフランクのように大変な大器晩成な芸術家でした。

大成する前にはかのモーリス・ラヴェルに師事したりもしていますが、ラヴェルにして「弟子の中で自分の二番煎じの音楽を書かなかったのは彼だけだ」と言わしめたほどにラヴェルとは作風が全く異なる音楽を書く作曲家になりました。

そんなヴォーン＝ウィリアムズのまだ才能が完全に開花する前の出世作が古代ギリシアのアリストファネスの喜劇「蜂（スズメバチ）」のための劇音楽。１９０７年の作曲。まだマーラーが生きていた頃の音楽。特にこの序曲、騒々しさがどこか似てないですか？

劇のスズメバチとは裁判員制度の市民たちの中から選ばれる裁判員の老人たちのこと。人生の憂さ晴らしに誰でも有罪判決を下したがる、攻撃的でうるさい老人たちがからかわれて「スズメバチ」と呼ばれているのです。つまり風刺劇。

ヴォーン＝ウィリアムズはワイワイガヤガヤと大騒ぎする裁判員がスズメバチとして揶揄されている情景を見事なまでに音化しています。賑やかな主題は後年のヴォーン＝ウィリアムズとは思えないほどにメロディに富んでいて、とても分かりやすく、中間部、師匠ラヴェルの後年のダフニスとクロエを思わせるような妖艶なソロヴァイオリンの歌はアテネのポリスから臨める紺碧のエーゲ海をも思わせるほどに描写的。ここ大好きです。

ヴォーン＝ウィリアムズとしては珍しく、聴いていて元気になれる音楽。

ヴォーン＝ウィリアムズが明るい光の下の古代ギリシアを描き出した初期の大傑作です。英国的でないヴォーン＝ウィリアムズは珍しい。でも初期と言っても実は作曲家は既に３７歳で、そののち、自分らしさを発見したヴォーン＝ウィリアムズは８５才まで、ほぼ半世紀も英国的なノスタルジアの音楽を書き続けるのです。いやあ、すごい人ですね！

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