ロマン派時代の前奏曲とフーガ作品35ー1:ナウシカの元ネタの主題

ショパンはバッハにインスパイアされて数々の前奏曲(作品28と作品45)を作曲したけれども、後半のフーガ部分を書かなかったことは非常に19世紀的だとずっと思っていました。ロマン派時代の19世紀にフーガは似合わないのです。

バッハの晩年、対位法音楽はすでに時代遅れだと見做されていて、18世紀の終わりになって、ウィーン帝国図書館長ファン・スヴィーテン男爵がモーツァルト、ハイドン、ベートーヴェンにバッハの音楽を教えて、彼らの手によって新たなフーガが書かれるようになりますが、やはりフーガは古い時代の失われた技法の幻の音楽のままでした。

ショパンが前奏曲の続きとなるべきフーガを書かなかったのはショパンらしい賢明さのためです。バッハの「前奏曲とフーガ」をペダルを踏みながら弾くと音が濁ります。頻繁に踏みかえたりハープペダルでごまかしたりといろいろな工夫はできますが、やはりモダンピアノにフーガは似合わない。

ベートーヴェンのピアノソナタの中のフーガはバッハのフーガほどには厳格には書かれていないので、ノンレガートでなくてもペダルを使っても素敵に響きますが、ベートーヴェンは純正「前奏曲とフーガ」を書かなかったのです。フーガは残響たっぷりのピアノでは持ち味が生かされません。

けれどもベートーヴェンさえも超えて、ロマン派音楽全盛の時代に律儀にバッハの流儀に倣って「前奏曲とフーガ」を作曲したのは19世紀のバッハとも呼ぶべきロマンティックな古典主義者フェリックス・メンデルスゾーンでした。

作品35です。前奏曲はロマンティックな歌心たっぷりな速いテンポの佳品。続くゆっくり歌われるフーガ主題(2:10から)はバッハにはあるまじきロマンティックなものでした。

初めて聞いたとき、
ラン、ランララ、ランラッラー
ラン、ラーラララー🎵
とすぐに「風の谷のナウシカ」のメロディが思い浮かびました。クラシック音楽に造詣が深い久石譲がメンデルスゾーンを知らなかったわけはないでしょう。ナウシカレクイエムはヘンデルのサラバンドそっくりのメロディだし。オマージュでしょうか、パクリでしょうか。それとも偶然の一致?

わたしはマレイ・ペライアの前進力に優れた端正な演奏を長年愛してきましたが、YouTubeで見つけたルドルフ・ゼルキンの演奏に感銘を受けました。主題が登場するたびにロマンティックな色合いを添えて明確に弾き分けるゼルキン節はメンデルスゾーンのロマンティックフーガを完璧にピアノ音楽として演出しています。

ライヴ録音だからでしょうか、どこか即興的な演奏でロマンティックにテンポがどんどん変わります。ゼルキンの有名なベートーヴェン録音のフォルテは好みませんが、このメンデルスゾーンは本当に見事だと思います。でも頭の中でナウシカがこだましたりませんか(笑)。映画ナウシカがお好きな人限定ですが。

超絶技巧の「厳格な変奏曲」作品54と並ぶ、メンデルスゾーンのソロピアノ音楽の白眉。でもバッハというよりはベートーヴェンのように感動的なフーガです!

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