リズムの饗宴!:最もバッハらしい音楽の名演奏

西洋古典音楽の中で誰よりも拍節感を感じさせる音楽を書いた人といえば、もちろんヨハン・セバスチャン・バッハ!

強弱ビートをひたすら刻む典型的なバッハの例として思いついたのが「二台のピアノ(チェンバロ)のための協奏曲ハ長調BWV1061」。大好きな曲です。

特に第一楽章は十六分音符の列が途切れることなく延々と続いてゆきます。独奏鍵盤奏者が二人なので、この曲では二人のうちのどちらかが必ずビートを刻み、まるでポップスの8ビートミュージック。

チェンバロのために書かれた音楽ですが、リズムをこれだけ強調すれば、楽器問題なんて雲散霧消、バッハの音楽は全く楽器を超えている。楽器を選ばない。

オリジナルは二台の一段鍵盤チェンバロ用。伴奏役とソロ役が完全に分かれていて、一人用の二段鍵盤のための「イタリア協奏曲」を二人で弾いているといった感じです。でも手の数は四本なので「イタリア協奏曲」よりもずっと精緻で複雑な音楽になります。

バッハの音楽は単純な8ビートポップスを遥かに超えて、リズムは複雑に、対位法はさらに豊かさと輝かしさを増してゆくのです。第三楽章は協奏曲なのに、バッハの十八番の「フーガ」となって、さらに強弱ビートが冴えわたるダンス音楽になるのです。

この曲の名演としては二人のモーツァルト弾き、ハスキルとアンダが共演した録音が絶対的名盤です。普段は根暗なハスキルがプリモ(第一ピアノ)を弾くのですが、いつになく生き生きとして小気味よいリズムは飛び跳ねて、ほんとにハスキルなのかと疑いたくなるくらい。セコンド(第二ピアノ)のアンダはリズムをしっかりと刻むアップビート感が素晴らしく、アンダの低音のおかげでハスキルはこんなにも欣喜雀躍とピアノを弾いているのだということが分かります。

もともとオーケストラパートが無い音楽でオケはおまけ。もしオーケストラがツマランと思われたならば、あなたは良い耳をお持ちです。オケパートはバッハ以外の誰かが後で付け加えたものだからです。あまり知られていない曲かもしれませんが、バッハらしさ全開の名曲中の名曲です。

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Logophile
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