バソンという楽器: モーリス・アラールに寄せて
バソン(またはバッソン)Bassonという楽器をご存知でしょうか?
フランス式バスーン(ファゴットFagotto またはバスーン Bassoon)なのですが、形も少しばかり違い大きめで、キーの数も多く、音色が相当に違うのです。バスーンよりもくすんだ鄙びた響きが素敵です。また音量も新しい楽器であるバスーンには劣ります。
クラシック音楽漫画「のだめカンタービレ」に登場したので覚えてらっしゃる方もいらっしゃるかもしれませんが、実際に聴かれた方は少ないのでは。
わたしも実演で聴いたことはありません。
モーリス・アラール Maurice Allard (1923-2004) というフランスの往年のバソン奏者をある書物から知り、それ以来、彼はわたしの最も好む管楽器奏者の一人。
実は上記「のだめカンタービレ」のジョリヴェの協奏曲は1954年にアラールのために書かれて、アラールによって初演された作品。
初演に使用された楽器は近代的なバスーンではなく、古い型のバソンだったはす。
でもいまでは古い楽器のバソンがオーケストラの演奏で使用されることはほとんどありません。
アラールの奏でるバソンの音色は、普段我々がよく耳にする普通のオーケストラのバスーンの音色よりも鄙びた感じで印象が大分違います。
わたしはアラールのモーツァルトやヴィヴァルディの協奏曲録音を愛聴しています。ジョりヴェの曲は近代曲で、鍛えられていない耳には聞きづらい音楽ですのでここでは割愛いたします。
有名なモーツァルトの協奏曲はティーンの頃のイタリア旅行の折の作品。
ドイツ式の普通のファゴットの演奏と聴き比べてみてください。
音色の違いに唖然とします。フィナーレです。
作品はファゴット奏者ならば必ず一度は演奏するというくらいの名作。
作曲家が18歳の1774年の作品。低音楽器のための協奏曲の姉妹作として、チェロ協奏曲も作曲したと、モーツァルトのお父さんレオポルトが息子のための作品目録に記載していますが、チェロ協奏曲は喪失。残念至極です。
バスーン(ファゴット)、そしてバソンは管楽器の中では低音域を受け持つ大切な楽器。合奏とは高い音と低い音が存在してこそ音楽としての価値が高まるのです。フルートやピッコロの独奏曲があまり存在しないのはそのため。フルートソロには低音を受け持つピアノなどの伴奏楽器が必要になるのです。
バソンにバスーン、フランス式とドイツ式でこれだけ音色が違う。
古いフランスのオーケストラ音楽の録音で管楽器の音色が違うことがありますが、明らかに楽器が違うこともあるのです。こういう音色の違いの聞き比べはとても楽しいですね。
フランス系のオーケストラのブラームスの交響曲の録音などを聴くと、管楽器の響きが明らかに違うことがよくあります。フランス系の明るい管楽器の魅力あふれる録音に違和感を覚えることもよくありますが、スイスの指揮者アンセルメのベートーヴェン録音などに聴く、古き良き時代のフランスの楽器の音色は聴き慣れた楽曲の別の一面を見せてくれているようで楽しいものです。
バソンの活躍している交響曲の古い録音はないかなあと探してみましたが、すぐには思いつきませんでした。
スイスの指揮者アンセルメの録音はフランス的で、使用されている楽器はバソンかなあとも思うのですが、古典時代の交響曲にはあまりバソン(バスーン)のソロはないですね。
最後にアラールの演奏の貴重な録画が見つかりましたので、それを貼ってお茶を濁しておきます(笑)。モーツァルトの協奏曲のカデンツァ部分の録画です。
またサン=サーンス晩年のソナタもとても素敵ですよ。正真正銘のフランスの作曲家による、フランスのバソン奏者による、フランス的なエスプリたっぷりの演奏です。本当に味わい深い音色です。
ほんの小さなサポートでも、とても嬉しいです。わたしにとって遠い異国からの励ましほどに嬉しいものはないのですから。