21世紀の「ピアノのバッハ」:ダヴィッド・フレイとルノー・カピュソン

私が書いてきた「ピアノのバッハ」シリーズの投稿の中で、バッハのヴァイオリンとチェンバロのソナタのピアノ伴奏問題を論じて、グレン・グールドとジェイミー・ラレードの往年の名盤を紹介しましたが、グールド/ラレード版とは似て非なるアプローチでバッハの名作を演奏した録音を見つけました。

フレイとカピュソンのフランス人デュオによるバッハ。特にフレイは新しいスタイルの「ピアノのバッハ」を奏でる現代最高の演奏家の一人。グールドやシフとは全く異なる弾き方で新しい21世紀のバッハ像を描き出してくれる。古楽器のスタイルでモダンヴァイオリンを奏でることで知られる現代最高のヴァイオリニストの一人であるカピュソンもまた、ロマン派ばかりではなくバッハにも秀でていて、カピュソンの美音とフレイの平べったい音のフォルテピアノ的な斬新な音がするバッハ録音。

とてもフレッシュな解釈で、この曲をよく知る耳には興味深いことこの上ない。哀切感極まりない第4番ソナタのアダージョを気に入られた方は、ぜひともこのコンビによるバッハ録音をすべて聴いてみてください。マタイ受難曲の「憐れみたまえ」そっくりのメロディのシチリアーノ。この録音ではメロディを歌うヴァイオリンよりもピアノ伴奏がとてもユニーク。曲はホモフォニックでピアノは伴奏だけど、見事な二重奏になっています。

ピアノのために作曲しなかったバッハの楽器問題なんてどうでもよくなる、フレイが伴奏する絶美のバッハ(この曲はチェンバロのための音楽です)。超人的なコントロールによる完璧なノンレガートタッチでペタペタと鳴るピアノ。フォルテピアノみたいな音がピアノから出るのはどうやって弾いているのだろう。それでいて、ピアノ特有の豊饒な響きは健在でなんとも不思議な音色のピアノ。2020年代に聴くことができる世界最高峰のバッハ演奏のひとつです。

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