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積み上げたものを失ったその時、はじめて自分が見つかった

この記事は 自己紹介だ
目的は ただ 一つ

僕と言う 人間が
どんな 過去を持つのか
なぜ 痛みに拘るのか

それを 知ってもらうため だ

苦しい 受験勉強を終え
大学に 入学した

14年ぶりに 習い事のない夏休みは
あまりにも 長く
何をしていいか わからなかったのを
今でも 鮮明に覚えている

はじめて 成績が出た時は
思ったより 良い出来で
嬉しくて 両親に見せた

しかし 受験で
関心が 途切れたのだろう

妹や弟の受験を 気にしていたのもある
僕の成績には 無関心だった

当然 褒められると 思っていた僕は
勉強への意欲が 削がれた

いまから思えば 当たり前だろう
大学に入れることが 
両親が ゴールだったのだから

大学にも入って 成績を
親に喜んでもらうなんて
それも ちょっとずれている

当の僕は 知ったこっちゃない
親の評価が 全てだったから

急に無くなった 制約に
戸惑い 迷い始めた

僕は 何のために学ぶのか

それでも 学年が上がるのは
問題なかった

さすがに 単位を落とすのは嫌だし
同期との暮らしも 悪くなかった

しかし 進路となると
話は 別だ

僕はそこで はじめて
決断を 迫られることになる

学ぶのか それとも 働くのか

理科系だから ほとんどの人が
大学院に 行く

研究職を 目指すなら
当然のことだ

しかし 僕は 研究職に
なりたかったわけではない

たまたま 一番自信があった
化学を 専攻に選んだだけで
仕事のイメージは 無かった

そんな状況に 加えて 
母づてに 父の声も 聞こえてきた

家業を継ぐ 子どもがいなくて
悲しんでいる という話だ

妹も 弟も 理科系に進み
会計士を目指す子どもは
いなかった

揺れた

父を 喜ばせてあげたいと
気持ちが ごとりと 動いた

普段 近づかない書斎に
ノックをして 入っていいか聞く

なんて 話しかけていいかわからずに
けれど 意を決して 会計士のことを聞いた

すると 父は 一喝した

そんな気持ちで 
会計士になれると思うな

父が 怒るのも 
もっともな ことだった

父が目指した 当時は
今よりも 会計士は 知名度が低く

ほんとうに この道でいいのか
悩んだ末に 賭けた選択肢だった

かたや僕の動機は
浅く 薄っぺらかった

父が 困っていたから
後継を 探していたから
相談した だけなのだから

ただ そうだとしても
あと もうすこし
もうすこし だけ

自分の仕事に 興味を持ったことに
喜んで 欲しかった

勇気を振り絞って 聞いたのに
ずたずたになった 僕は
会計士について 考えるのをやめた

会計士は 考えるのを やめた
というか 考えないようにした

では 研究のその先が あるのか

考えても 悩んでも
答えは 出なかった

同期は まずは院に行くという
彼らに 迷いはなかった

四年で 配属になった研究室が 
納得いっていないのも
要因として あっただろう

僕は がたがただった
大学院に行く 動機が見つからない

かといって 就職という
他の人と 異なる道を 今から選ぶ勇気もない

追い詰められた 僕は
この選択から逃げる という
最低な 選択肢を 選んだ

どうするのか 決めずに
意思決定を 放棄して
大学院の試験に 臨んだ

試験勉強に 身が入るはずがない
机に向かうが ページをペラペラとめくり
悩み 時間が過ぎ 次の日を迎える

試験の当日も 問題を読みながら
頭が ふわふわしている感じ

きっとこれで 落ちるんだろうな

そう 思いながら
試験を 受けた

そして 当然のように落ちた
そこまでは 想定通りだった
違ったのは その後だった

自分の中の 自信が
がらがらと 崩れていくのを感じた
大事な 何かが 無くなってしまった

大学の名を 失い
1年の 空白時間ができる
その事に 恐怖を感じた

そして 恐怖を感じていること 
そのものに 絶望した

東大への コンプレックスがあった僕は
大学名ではなく 大学で何をするかが大事だ
なんて 考えでいたのに

そんな 言っている自分の自信が
東工大という 大学に所属しているという
その一点に 支えられていたことに
大きな 衝撃を受けた

僕は なんて 小さいのだろう

もう 僕には 何もない
あったと思っていた 自信は
大学名に おんぶにだっこ

何も無い 空っぽだったんだ
どうしようもない どうしようもないんだ

落ちたことが わかり
様子が おかしかったのだろう
周りは 心配をし始めた

同期 友人 両親

時間を 取り 
言葉を 投げかけてくれた

大丈夫 大丈夫
次 どうしようか 
また がんばればいいよ

でも その言葉が 
さらに 自分を追い込む

自信を失い 落ち込んでいる僕は
まだ 浮上できるタイミングではないのに

そこに 大丈夫だと 言われ続けることは

落ち込んでいてはダメだ
早く這い上がれ

と 言われていることに等しい

自分の状態を 理解し
傷ついたままでいる ことを 
許容してくれる場所は 無かった

前を 向いていないと
周りと 関われなかった

どこにも行けなくなった 僕は
部屋から 出るのをやめた

数日の間 部屋に篭ったが
大学からは 呼び出しもあり

今後の 進路について
決めなくては ならない

同期や友人の 心配の声も
日に日に 大きくなっていく

両親も どう触れていいのか分からず
困惑しているのが 伝わってくる

自分にはもう どうすることもできない
どうしたらいい 何をしたらいい
くたびれた頭で 必死に考える

そんな時 大学に
カウンセリングセンターが あることを知った
そういえば 何かで見たことがある

外部に申し込むと お金もかかるが
大学のならば 無料で いける

ならば 一度 
一度だけ 行ってみようか

当時の僕は 偏見だらけで
カウンセリングに 行くことは

なんていうか 
人の道を外れる ような感覚だった

でも もう 限界だ
この状況を 変えることができない

意を決して 大学に
とうとうここまで 来てしまったのか と
そう思いながら 校舎の坂道を歩いた

今までに 感じたことの無い
緊張 と 不安
そして ここならば という微かな期待

カウンセラーさんとの 
セッションが 始まった

ひとつひとつの やり取りは 
覚えていない

けれど その中で
たくさんのことを 学んだ

傷ついて いい
苦しんで いい
前を向かなくても いい

そして

試験が 駄目だとしても
自分が 駄目というわけではない

それは それ これは これ
切り分けて いい

誰かの 期待に 沿うために
無理に 前を向かなくていい
自分のペースで 進めばいい

自分は 自分でいい

そんな 当たり前のことを 知り 
ひとつ ひとつ を受け取っていった

大学院には いけず
研究生 という名前がついた

浪人も しているのに
ここで さらに一年
人よりも 遠回りをした

時間も お金も
余計に かかった

しかし この出来事がなければ
今の僕は いないと 断言できる

なぜなら 

ここから僕は ようやく
自分の足で 歩き出せたような
そんな 気がしているからだ

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