「よく非行しなかったわね」とカウンセラーは言った
この記事は 自己紹介だ
目的は ただ 一つ
僕と言う 人間が
どんな 過去を持つのか
なぜ 痛みに拘るのか
それを 知ってもらうため だ
*
父は 仕事を選ぶ際に
何にでも なれるよう
僕を 東大に入れようと 考えた
父は 会計士だったが
どうやら ほんとうは
医者に なりたかったらしい
ただ 環境として
早くに 稼ぐ必要があり
会計士という 資格に賭けた
そして 当時 最年少で
資格試験に 合格した
照れくさそうに 見せた新聞の記事は
僕にとって 尊敬の対象となった
いつの日か 僕も
父のように なりたい と
*
教育方針は 厳格だった
しかし 東大に 入るのは
簡単なこと ではない
合格率の高い 高校に
入る必要が ある
中高一貫が 主流だったので
こうして 中学受験することが
決まった
幼稚園の 年長さんから
大学合格までの 14年
長い長い長い生活が はじまった
*
幼稚園の時は 公文式だった
このころは まだ
辛く無かった と 思う
算数 と 国語
見たいアニメが 見れないのは
残念だった けれど
特に算数は 計算が早く
進めていく 面白さを 感じていた
変化が あったのは
小学校 三年
中学受験用の塾に 入ってから
父が 行ける範囲の塾を調べ
もっとも 合格確率の高い塾に行った
はじめは 週に3日
学年が 上がるにつれて
通う日は 増えていった
週に3日の 地元の塾と
日曜日の 四谷大塚
勉強をする時は
父の部屋 だった
父が仕事をする 横で
予復習を する
夕食後は 仕事を終え
家庭教師のように つきっきりで
寝るまで 勉強時間になった
予復習 と いっても
ただ 見ているだけではなく
父は同じ教科書を 自分用にも買って
それを見ながら 教えていた
徹底してた
*
そうだとしても
当然 反発をする
どうして こんなに
勉強しなきゃ いけないのか
他の友達は ここまでやってない
なぜ 僕だけ
嫌な 気持ちが
態度に 出る
何度も 何度も 抵抗したが
解放されることは 無かった
ある日のこと
あまりにも 嫌で
抵抗していた時
「もう勉強しなくていい」
父も フラストレーションが
溜まっていたのだろう
塾の教科書 一式を
ゴミ箱に 捨てられた
どさっ
この音が まだ残ってる
動揺はしたが それよりも
解放されたことが 勝った
やらなくていいんだ と
僕は 遊んでいた
どのくらいの 時間が経ったのか
しばらくすると 父がやってきた
すごい 剣幕で
何を言われたか 覚えていない
ただ ほんとうに 遊んでいたのが
許せなかったらしい
怒られて 泣いていると
母が 声をかける
「謝ってきなさい」
「いまがんばれば あとが楽だから」
僕は いつの間にか
悪者に なっていた
納得は していない
けれど 他に 選択肢がない
ここを やるしか 先に進めない
ゴミ箱から 教科書を拾い上げ
勉強させてください と
頭を 下げた
父の顔は 見なかった
*
僕は 我慢をして 耐え
筑波大附属駒場という 進学校に
進むことができた
誰かに この話をした時に
言われたことが ある
あなたは この時に
子どもで あることを
諦めたように 見えるよ
確かに
僕に とって
両親は 世界そのものだ
ここから 抜け出すためには
自由を 手にするためには
この 受験という山を
登り切らなければ ならない
何を するにも
受験を 最優先にしなければならない
自分のことは その後だった
*
カウンセラーに 言われたのは
この話をした 時だったと思う
目を まっすぐにみられて
言葉が 投げかけられた
そして 静かに すとんと
胸の中に 入った
あなた よく非行しなかったわね
考えたことが 無かった
非行を するなんて
それほど 大変だったのだと
自覚するとともに 問い直す
なぜ だったのだろうか
どうして 非行しなかったのだろう
その 理由を 探す
言葉が出ずに 沈黙
そして はじめて自覚した
僕は 両親が大好きだったことを
厳しいが 憧れな父
笑顔で 朗らかな母
その二人が 僕のために
行動を している
だから 応えたかった
褒められることを 願った
だから 耐えた
耐えることが できてしまった
*
ぽろぽろと 静かに
大粒の涙を 流した
父も 母も 僕も
精一杯 愛した
ただ 僕が欲しかった形 と
両親が 送りたかった形 が
すこしだけ 違った だけだったのだ
*
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