Moneyball in Japan “平成の怪物”松坂大輔”がもたらす経済効果”
(執筆:2018年6月13日)ややゴタゴタ気味のサッカー界と違い、今年の野球界は大谷翔平のMLBでの活躍や清宮幸太郎の一軍デビューなど、明るい話題が多く盛り上がっている。その中でも、30代~40代のファン層にとっての非常にうれしい話題が「松坂大輔」の活躍である。中日ドラゴンズへの入団が決まったキャンプのタイミングでは「最後に1試合だけでも一軍で投げられれば」、「引退前に日本球界で1勝だけでもして欲しい」といった意見が世論だったと思うが(斯く言う私も同じような意見を持っていたので、、、)、結果は嬉しい意味で大きく裏切られており、ここまでの成績(2018年6月8日時点)は登板7試合で防御率2.41、WHIPも1.29(=Walks plus Hits per Inning Pitchedの略称で1イニングあたりの非出塁者数を表す投手本来の実力を示す数字)と昨年のセリーグの規定投球回数以上の投手実績でも9位にランクインする数字であり、各球団のエース投手並みの堂々とした成績を残している。このような結果は本人の並々ならぬ努力や不退転の覚悟によってもたらされたものであることは言うまでもなく、「平成」の終わりに「平成」の怪物がカムバックしてきたことは、我々80年代生まれにとって、何よりも、”逆境の中でも頑張って行こう!”という、日々のモチベーションの励みになる。
野球のプレーでの活躍はShinichi Nakagawaさんやその他専門家の皆様にお任せするとして、今日はプロ野球のビジネス的視点で、松坂大輔の影響を簡単に分析してみたいと思う。所謂、投資対効果で考えると、中日ドラゴンズにとって投資の方はほぼ100%が年俸であり、これは過去3年間のソフトバンク時代にけがの影響もあり一軍登板がなかった影響もあり、1,500万円と破格である。一方で、リターンの方はどうなのか。現時点ではシーズンの1/3過ぎた時点であるが、少し推定してみたいと思う。
プロ野球球団の主要な収入源は大きく4つに分けられる。チケット収入(ここでは便宜的に、球場での飲食等の収入も含む)、放映権、グッズ売上、そしてスポンサー収入である。
まずチケット収入について。今シーズン松坂大輔が投げた7試合の内、ホームゲームは6試合で、その平均観客数は32,752名と中日ドラゴンズ全体の平均観客数27.783名(6/8時点)と比較して4,968名=18%多いこととなる。(ちなみに土日祝日は観客数が増える傾向にあるが、松坂が投げた土日祝日のホームゲームは5月20日の阪神戦のみであることから、この18%は純粋に松坂人気で増えている分と推定できる。)これは、ざっくりチケット単価を2,000円と見積もっても、既に6.000万円近いチケット増収効果をもたらしていると試算できる。このままのペースで登板が続けば年間効果は約1.5億円程度ということになる。(すでにこれだけで投資の1,500万円を10倍回収している!)
次に放映権。これは余り公開されているデータがなく、やや試算の難易度が高いが、中日ドラゴンズの名古屋圏の放送における平均視聴率が約10%程度(出典:https://www.tokyo-sports.co.jp/sports/baseball/796795/)、放映権収入が年間20億円(ざっくり楽天イーグルスの放映権収入15-20億円からの推定/出典:https://toyokeizai.net/articles/-/213971?page=2)と仮定すると、松坂大輔が登板する試合がチケット売上同様18%程度の視聴率アップがあると推定し、年間放映権20億円÷ホームゲーム72試合x松坂登板ホームゲーム5試合x18%=3,000万円となる。フルシーズン換算で約7.400万円の増収効果(単純に視聴率が上がることに伴い放映権収入が増えるという前提における試算)が期待できる。
グッズ売上はさらに推定が難しいが、キャンプ中は松坂効果によりグッズ売上がチーム全体として2.5倍になったという報道もあり(出典:http://www.hochi.co.jp/baseball/npb/20180305-OHT1T50239.html)、実際に試合を見に行っても松坂グッズは売り切れが目立つ。少なく見積もってもチーム全体のグッズの20%程度は松坂が作っているのでは、と想定できる。そうすると、中日ドラゴンズ全体の年間グッズ売上を10億円と仮定して(前述の楽天イーグルス等の実績から類推)、年間ベースで2億円程度の増収効果が推定される。
最後にスポンサーであるが、こちらも推定が難しいが、感覚的にはグッズと同じく20%程度は押し上げ効果が見られそうである。ドラゴンズ全体のスポンサー収入を20-30億円と仮定して(こちらも楽天イーグルスの実績を参考に推定したもの)、4~6億円の増収効果と試算できる。
これらの金額を合計すると、8.2億円~10.2億円の年間増収効果が期待できることになる。グッズ以外は実質的に変動費があまりかからない性質のものになるので、この増収額がほぼそのまま利益にも落ちてくることになると推定できる。1,500万円の投資に対してその100倍近いリターンがあることになり、松坂効果は球場での活躍だけでなく、ビジネス的にも絶大な効果をドラゴンズにもたらしている。人気や実績のある選手が球団の経営にもたらす効果の大きさが改めて浮き彫りになった分析結果であった。それにしても(ここまでの活躍は予想していなかったとしても)ドラゴンズはとてもおいしい投資をしたように見える。これからの松坂大輔の活躍から益々目が離せない。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?