アスリートとSNSの蜜月な関係
「長友選手の元気玉」だけでなく、今回のロシアサッカーW杯ではSNSによる選手とファンの直接の繋がりを強く感じる機会が多かったように思う。
特に、日本・ベルギー戦の際の長友選手の元気玉の写真(上、出典:長友選手の公式Instagram)や帰国の飛行機内でのチーム写真(下、出典:長友選手の公式Twitter)、ブラジル・ベルギー戦後の長友選手の投稿(下、出典:長友選手の公式Twitter)など、メディア経由ではなかなか聞けない/見られない本音の発現や表情が伺えるような、選手自身によるSNSの投稿が目立っていた。更には、TV局がこうしたSNSの投稿を参照する場面すら見られたのは、メディアの大きな転換点を見たようにも思う。
ただ、筆者の印象では、日本のアスリートのSNS利用はまだまだ発展段階であり、この数年でアスリートが更にSNSを積極的に利用する時代が来ると見ている。実際にアメリカは日本の少し先を行っている。
Instagramで3000万とか4000万人レベルのフォロワーを持つNBA等のメジャースポーツのトップ選手(LeBron JamesやStephen Curry)はもちろん、マイナースポーツ選手もSNSの発信・利用に積極的なところが興味深い。アメリカで言われているアスリートのSNS発信には以下のような効果があると言われている。
1.ファンとの距離が近くなる、自分の価値観に共感してくれるファンコミュニティを作れる
SNSではマスメディア等を媒介せずに直接かつタイムリーにアスリート(スポーツ選手)がファンへと声を伝えることが出来る。またファン自身もどの選手の声を聴きたいか選ぶことができるので、結果としてアスリートの発信するメッセージやその生き方に共感してくれる「濃いファン」コミュニティを作り出すことができることも、マスメディアと違うメリットがある。
こういった、「マスコミュニケーション型」→「一部のコアファン獲得型」へのシフトはすでに芸能界や音楽業界等ではAKBグループやSHOWROOM等が証明して来ているが(こちらについては、SHOWROOM前田さんの記事が参考になる→記事URL)、スポーツ業界はまだ遅れている。
2.発信力が上がる
更に、アスリート自身がSNSで発信し続けることのメリットは、発信する度にファンからの反応(リツイートやビュワー数、コメント等)があるので、フィードバックループが働き、アスリート自身がどういった発信がファンに喜ばれるのか、興味があるのか、ということを学習して行けるというメリットがある。実際にSNSの発信を続けているアスリート(例:元陸上選手の為末大さん@daijapanやMLB選手のダルビッシュ有選手@faridyu)は発信される内容の洗練度も非常に高く、結果多くのフォロワー・ファンを抱えている。
こうした効果がある中で、「余計な問題を起こさない」ようにSNSの発信を制限・禁止する一部学生スポーツチーム(高校野球等)の動きは、折角の学びの機会を自ら捨ててしまっているように見えて非常に残念である。
3.フォロワー等のファンベースを活用し、新たな収益源を獲得することができる
アメリカではSNSを積極的に利用することで、人気や本業の収入の限られるマイナースポーツ選手が生計を立てて行こう、という動きも多々見られている。例えば、ラクロスのアメリカ代表のPaul Rabil選手は自身のTwitter, Instagramアカウントの積極的な発信に加えて、YouTubeチャネルも持ち(YouTubeのSubscriberは15万人)、日々の練習やラクロスの技術的な”凄さ”を伝える動画等を積極発信している。実際に彼はインタビューでも「ラクロス自体はマイナースポーツなのでファンを獲得し、スポンサー等の収益にも繋げるツールとして意識的にSNSを利用している」とコメントしている(出典:Sloan Sports Analytics Conference 2018)。実際にSNSの中でスポンサーされた動画もあり(下記の動画はRed Bullのスポンサー動画)、獲得した「濃いファンベース」を活用した新たな活動の収益源を獲得している。こうした動きは日本のマイナースポーツ選手にとっても非常に参考になるのではないだろうか?
(出典:Paul Rabil氏公式YouTubeチャネル)
4.影響力を高め、スポーツ以外の面での活動に繋げられる
更に、こうした「濃いファンベース」を通した強い影響力はスポーツを超えた大きなことを成し遂げることにも繋がる。一例はNFLのHouston TexansのJJ Wattが2017年のHoustonでの大型ハリケーン被害支援の為に立ち上げたオンライン上での寄付キャンペーンで当初の目標20万USD(約2千万円)に対して、結果として約200倍の37百万USD(約40億円)を集めることができた(しかもわずか19日間でである)。これは彼のTwitterのフォロワーである500万人の「濃いファン」を活用して、地元の被災者に対して支援したい、という思いの連鎖を起こした素晴らしい実例であろう。(出典:USA TODAY)
こうしたSNSによって作られる「強固なファンベース」はアスリートがスポーツのフィールドを超えて新たな事業を行ったり、慈善活動を行ったり、する上での、ベースとなることは間違いない。これはスポーツ界の課題である「セカンドキャリア問題」の1つのソリューションにもなり得るだろう。
日本のアスリートのSNS利用はまだまだ1の段階のみの場合が多い印象であるが、今後2から4のような意識を持ったSNSの発信が増えることで、マイナースポーツ選手が安定的にプレーに集中できるような収入源の獲得に繋がったり、4の様にスポーツのフィールドを超えた新たな事業展開や影響力を与えて行くファンベースが出来ていくことを大いに期待したいと思う。筆者個人としては、先ずは長友選手に共感し、ベルギーのW杯優勝を願っている!
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