ラグビー選手のアンチ・ドーピング規則違反について

2022/5/13にアンチ・ドーピング規則違反が公開されました。https://www.playtruejapan.org/upload_files/uploads/2021/2021-001.pdf
(資格停止期間満了後はリンクが見られなくなるかと思います)
ラグビー選手のサプリメント使用に起因する違反事例です。
サプリメントとの付き合い方を考える良い機会だと思いますので、聴聞会の内容と捉え方をまとめたいと思います。
(注:執筆時点のルールに基づく、個人の見解です)

違反事例の概要

違反事例の概要は以下の通りです。

  • 競技会外検査でエノボサルム(オスタリン)が検出された。オスタリンは選択的アンドロゲン受容体調節薬の一種で、蛋白同化作用を持つ成分として禁止されている。

  • 肉離れでリハビリの期間中に、リハビリトレーニングの効果を高めるために、チーム提供のサプリメントとは別に個人でサプリメント(以下、サプリA)を使用した。

  • 競技会外検査でのオスタリン検出後、残っていたサプリAを分析したところ、サプリAからオスタリンが検出された。

  • オスタリンの摂取は「意図的」ではないが、摂取前の注意が充分でなかったとして、5ヶ月の資格停止措置となった。

ポイント① サプリメントの汚染

本件はサプリメントの汚染(本来入っていない成分・表示されていない成分が混入していること)が原因の違反事例です。サプリメントに起因する違反は割と頻度の高い事例です。
まず、そもそものサプリメントに対する考え方ですが、世界アンチ・ドーピング規程(以下、CODE)の10.5項“過誤又は過失がない場合における資格停止期間の取消し”という項の解説にこう書かれています。

(前略)「過誤又は過失がないこと」は、次の場合には適用されない。
(a) ビタミンや栄養補助食品の誤った表記や汚染が原因となって検査結果が陽性になった場合(競技者は自らが摂取する物に関して責任を負う(第 2.1 項)とともに、サプリメントの汚染の可能性に関しては競技者に対して既に注意喚起がなされている。)。(後略)

世界アンチ・ドーピング規程(日本語訳)

”サプリメントには汚染のリスクがある”のが大前提で、アスリートはそのことをちゃんと理解している、というのがサプリメントに対するCODEの考え方のスタート地点になっています。さらに、アスリートには”自分が摂取した物に責任を負う”責務があります。本件は、一見すると防ぎようのない事故のように見えるかもしれませんが、CODEの考え方から見るとアスリートに何かしらの過誤(誤り)あるいは過失(不注意)があったということになります。

ポイント② 摂取前の注意の程度

次に、オスタリンの摂取が意図的な摂取か否かについて聴聞会で検討されています。この点は、当該競技者の行動から検証されています。
まず、実際に当該競技者が行った行動として以下のものが挙げられています。

  • サプリメントのリスクとアスリートの責務について認識していた

  • サプリAが国内製であり、食品GMP・ISO準拠のものであることを購入前に確認していた

  • 購入前にサプリAの成分表を確認し、禁止物質が含まれていないことを確認していた

  • 購入前にサプリAに関するドーピングのリスクについてインターネットで検索していた(ドーピングの警鐘を鳴らすような情報は無し)

  • サプリA購入後にも、摂取前に成分表を確認し、禁止物質が含まれていないことを確認していた。

これらの事実から、当事者がサプリメント等に日常的に注意を払っていること、サプリAについても摂取までに一定の注意を払っていることが認められ、「重大な過誤又は過失」(=意図的な摂取)はないことが認められています

その上で、どの程度の資格停止期間が妥当であるかを考える際に以下の点が指摘されています。

  • 競技者がサプリメントの汚染のリスクを認識していた

  • サプリAについて、チームドクター・トレーナー・専門家などへ相談しなかった(相談すべきと考えていなかった)

  • ドーピング・コントロール・フォーム(ドーピング検査時の記入用紙)の“過去7日間に摂取した薬・サプリメント”欄にサプリAの名前を記載しなかった

今回のサプリAはいわゆる「汚染物質」にあたりますが、周囲の仲間や専門家に相談しなかった点、サプリAの服用を申告しなかった点が注意を払う行動として不十分だとされています。

ポイント③ サプリメント摂取の動機に対する言及

もう一つ、今回の内容で言及されている中に注目すべき点があります。
概要のところで、”肉離れでリハビリの期間中に、リハビリトレーニングの効果を高めるために、チーム提供のサプリメントとは別に個人でサプリAを使用した。”と述べましたが、この“リハビリトレーニングの効果を高めるためのサプリメント服用”という目的は「競技力向上の目的」に他ならないと言及されています。競技力を向上させたい思いで薬やサプリメントを用いることはドーピング行為そのものです。今回のケースでは、意図して禁止物質を服用したかどうかとは別に、ドーピング行為の発想でサプリメントを服用したことが重要視されているように思います。

まとめ

  • サプリメントの汚染リスクをよく理解して、適切な行動を取る(サプリメントの汚染で過失・過誤が問われないことはほぼありません!)

  • 自分ひとりの判断ではなく、チームのスタッフや専門家に相談できる体制を常日頃から構築する

  • ドーピング的発想で薬・サプリメントを服用しようとしていないか今一度考えてみよう


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