体操宮田笙子選手の飲酒・喫煙の問題点についてスポーツ選手のメンタルサポートを行うスポーツ医の思うこと
2024年パリオリンピック開催を目前に体操女子日本代表でありキャプテンである宮田笙子選手が飲酒・喫煙をしていたという事で五輪出場辞退という事体が起きた。
この点について、対処が厳し過ぎる、相当の対応、所属の順天堂大学が発表した声明が適切でない、など、社会的に波紋を広げている。
この点について、スポーツ医であり、スポーツ選手のメンタルサポートをしている私から見ると、まだ記事には書かれていない幾つもの問題点が浮き彫りになっている。
まず、私は医師であるが、日本代表のスポーツ選手に関わった経験から、幾つかの疑問点を持った事により、順天堂大学健康科学研究会でスポーツ関係全般を学びスポーツ心理学の研究を行った。大学院初の医師の入学だったようだ。
オリンピック日本代表などになる選手は、高校生、大学生、社会人と10代から40代まで幅広い年齢層の人たちが日本代表となっているが、大学生である選手が多い。
大学生の選手は、大学の部活に所属し、大学で練習する人がほとんどだが、中には、子供の頃より所属していたスポーツクラブに所属しそこでトレーニングをしている人たちもいる。
大学で所属している選手たちは、大学内の教員であるコーチから指導を受けている。選手を取り巻くサポートする人たちは、コーチの采配により、大体は、主な競技の技術を強化しリカバリーをするためのトレーナーがつくくらいだ。
しかし、スポーツ選手がベストなコンディションで最高のパフォーマンスを上げるには、技術的な指導の他、肉体をを維持し体調を改善するための栄養のサポート、精神面でメンタルを支えるためのサポート、故障の改善のために整形外科医によるサポートなどが必要である。
その他にもバイオメカニクスなどによる分析なども必要でそれらのチームが選手をトータル的にサポートするのがベストだ。
しかし、日本では、このサポートの形式がほとんど行われていない。高校生以下のスポーツクラブからも、また、スポーツ専門の大学学部であってもだ。また日本代表が利用できる味の素ナショナルトレーニングセンターでさえも継続的にしっかりとこれらの分野の専門家がついてやってはいない。
そこが、今の日本の1番の問題点だと私は考えており、そのために私は大学院まで進んだ。
この宮田選手についても、大学(指導者)からはどのようなサポートを受けていたのだろうか?という疑問点がある。
精神的に非常に強いプレッシャーに悩み苦しんでいたと担当の原田コーチがコメントしている。
飲酒や喫煙をするという事になったというのは、それ相当の精神的な重圧に耐え切れない状態になっていたのではないかと推測されるが、メンタル面でのサポートがされていなかったのではないかと思われる。
また、体操など審美系の女性選手は、食事の取り方もとても大変であり、好きなものは食べられないし、太らないよう、しかし疲労しないよう,体力をつけ、パフォーマンスを発揮できるような食事内容をしていかないといけない。
そういう面から、栄養の専門のスポーツ栄養士によるサポートが非常に大事なのだが、栄養面でも専門家がついていたのかどうかという疑問点がある。
順天堂大学の声明の、「パリオリンピックの出場もあり得ると思っていた」という文面から感じるのは、順天堂大学の認識の甘さである。
つまり、宮田選手が日本を代表する選手であるのに、未成年で喫煙・飲酒をしてしまっている事についての、社会的な問題の認識の甘さと、選手をメンタルや栄養面でしっかりと大学としてサポートできてないのではないかと見て取れる。
順天堂大学は学生の面倒見がとても良いと在学中に感じていたし、オリンピックに出場する選手には大学が壮行会を開催し学生たちへ出場選手からのメッセージや応援をする機会というのも設けられており、私も在学中に東京オリンピックに出場する学生たちの壮行会に参加した経験がある。
しかし、この面倒見の良さが悪い方に出てしまい認識の甘さとなってしまったのではないかと感じるところがある。
ところで、このような事が起きてしまった上で、オリンピックに選手として出場したとして、果たして、素晴らしい競技ができるだろうか?という疑問がある。
メンタルがそれなりに強く自分でメンタルを立て直す事ができるのであれば、こんな事を起こしても短期間で切り替えてオリンピック競技に臨めるかもしれないが、メンタルが弱ければそのような事を起こしたという様々な軋轢を乗り越えてオリンピックで競技をするのは、そこにメンタルサポートをする専門家がいないのであればかなり難しいのではないかと思われる。
体操は、個人競技の他にも団体戦もあるため、チームで一丸となって競技をするがこのような問題が起きた張本人がメンタルが立て直せないままで参加した場合、他のチームメンバーへ悪い影響を与えかねず、日本女子体操としての成績に影響してしまう可能性もある。
そのような事からも宮田選手がパリオリンピック辞退をしたのは今回はそれが良いのではないかとスポーツ選手のメンタルサポートをするスポーツ医としては思う。
またこの宮田選手の問題は、大学体育界の問題なのか、体操界の問題なのか、個人的な問題なのか?様々な問題を考えないといけない。
大学に入る前に練習をしていたクラブでの指導のあり方、家庭での子どもへの教育のあり方、大学の指導のあり方、そしてサポートの仕方など考えないといけない点がいくつもある。
今この記事を書いていてちょうど内村航平選手が橋本大輝選手に言っていた言葉を聞いた。
宮田選手と同じ順天堂大学体操部の橋本大輝選手だ。
橋本大輝選手と宮田選手は同じ大学の部活に所属しながら、何が違うのだろう?と考えていた矢先に答えが1つ出た。
内村航平選手が言っていたのは、
「大輝は自分の中で考えて自分で答えを出せるから大丈夫なんだ。自分の中で考えて答えを出せない選手はだめ」
と。
そこだ、と思った。
橋本大輝選手が強い理由の1つ。
そして宮田選手がまだできていない部分。
19歳という若さでキャプテンとなり日本代表として皆を引っ張って行くには今の宮田選手にはコーチ以外の専門家のサポートが必要だと思う。
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