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【カレッジスポーツ】学生アスリートの ”NIL”に関するNCAAとの関係

アメリカ時間8月27日(日)、全米大学体育協会(NCAA)カレッジフットボール2023シーズンが開幕しました。アメリカンフットボールはアメリカで最も人気のあるスポーツであり、またカレッジフットボールはアメリカにおいてプロスポーツと同様、もしくはそれ以上の盛り上がりを見せています。

今回はNCAAで近年話題になっている”NIL”について取り上げます!


”NIL”ってなんだろう?

テレビを見ていたり、街中を歩いているとタレントの画像や映像がCMや看板広告に利用されているのを見かけることがあると思います。これは企業がタレントとイメージキャラクター契約を結ぶ事でタレントの肖像権の利用や商品化権等に関する契約を結ぶことで、タレントに広告出演していただいているという仕組みになっています。
これはプロスポーツ選手も同様で、サッカーや野球のプロスポーツ選手も広告出演することがあります。
NCAAはアマチュアリズムを維持するため、これまで学生アスリートが商業活動を行うことを禁止していました。そのため、スポンサー契約など、パブリシティ権の商業的な利用は制限され、奨学金や健康保険等のみが提供されていました。また、NCAAには「学生アスリートに対して学生生活に必要な費用以上の支払いはしない」というルールが定められていました。
そのような状況の中、選手の間ではこのルールに疑問を抱き、訴訟を起こすこともありました。
下記は、その一例です。

▼2009年
当時カリフォルニア大学ロサンゼルス校バスケットボール選手であったエド・オバノン氏を中心に数名の学生アスリートが「NCAAが選手の名前や肖像を使用し収益を挙げながら、一切還元していないことは独占禁止法違反にあたる」と訴え、2015年にNCAAの反トラスト法違反と判決されました。

▼2014年
当時ウエストバージニア大学フットボール選手であったショーン・アルストン氏が、NCAAのルールは大学生として教育を受ける上での費用においても同じであり、卒業後に教育を続けるための奨学金や、インターンシップによる収入、PCなどの出費にも制限がかけられてきたため、これは独占禁止法に違反していると訴え、2021年にNCAAの反トラスト法違反と判決されました。

さらには一部の学生アスリートが抗議活動として#NotNCAAProperty運動をX(旧ツイッター)上やTシャツを着ることでのデモ活動も行いました。


2021年7月にNCAAは学生アスリートの氏名・イメージ・肖像のパブリシティ権を活用してプロアスリートと同様に企業とのスポンサー契約を結び収益を上げることを承認しました。

ではNCAAが認めた”NIL”とは一体何なのでしょうか。

学生アスリートが自身の
Name(氏名)・Image(イメージ)・Likeness(肖像)
を活用したマネタイズが可能となること

”NIL”が承認されたことによって、学生アスリートがシューズの契約や商品のプロモーションへ参画することはもちろんのこと、私物や選手個人のサインの販売を行うことや、学生アスリートのマネタイズのサポートを行う代理人との契約、大学へ入学する以前からインフルエンサー稼業等が行えるようになりました。
その一方、学生アスリートのプレーに対して報酬を出すこと(Pay for Play)はまだ認められておらず、2年前に定められた方針のままになっています。


ノウハウのない大学をサポートする企業の出現

”NIL”が解禁され様々な取り組みが生まれましたが、新しいことであるがゆえに問題も起きています。

2021年6月、当時イリノイ大学のバスケットボールチームに所属していたコフィ・コーバーン氏は自身が着用していたイリノイ大学のウェア等を販売し、収益を得ていました。しかし、この時点では彼はまだ”NIL”に違反はしていませんでした。
時系列順に説明します。

▼2021年4月
コフィ・コーバーン氏はNBAドラフトへのアーリーエントリーを表明しました。
※NBAドラフトは、通常、大学を卒業、あるいは22歳に達した者でなければエントリーできません。ですが、アーリーエントリーというルールは、高校を卒業して1年後かつ、19歳を迎える年であれば、ドラフト60日前までにエントリーを表明することでドラフトに参加することができます。一方でNCAAはアーリーエントリーを行う選手には大学資格を失わせるというルールも存在するため、リスクも伴います。

▼2021年6月
イリノイ大学のウェアなどアパレルの一部や記念品を「ザ・プレイヤートランク」という人気サイトで販売しました。このアパレルにはコフィ・コーバーン氏の氏名が入っていたため、彼は彼自身の”NIL”の利用により収益を得たことになります。この時、彼はNBAドラフトへのアーリーエントリーを表明していたため、罰則に値しませんでした。

▼2021年7月
商品が購入されたあと、彼はNBAドラフトへのアーリーエントリーを取り下げ、来年度もイリノイ大学に残ることを決めました。

ここで問題になったのは販売した商品がイリノイ大学時代のものであったことと、”NIL”がまだ承認されていなかったことです。前述の通りNCAAの”NIL”の承認は7月でしたが、彼がアパレルや記念品を販売したのは6月であったため、彼は次シーズンの3試合出場停止処分を受けることとなり、またアパレルの販売によって得た収益は彼の判断によってチャリティに寄付されることとなりました。
(ちなみにコフィ・コーバーン氏は2022-2023シーズンにB.LEAGUE2部の新潟アルビレックスBBに所属し、現在は韓国のソウル三星サンダースに所属しています。)

このように、学生アスリートやそれを支援する大学の”NIL”に対する理解度はかなり低く、何が罰則に値するのかもわからない状態でした。NCAAはこの状況を問題視し、”NIL”の改正を行ったため、コンサルティング企業の介入が認められました。

例えば、「Altius Sports Partners」は2020年に設立されたカレッジスポーツにおけるコンサルティング企業で、”NIL”の活用を通じてカレッジスポーツの発展に貢献することを事業としています。そして、今後”NIL”が進化していく中でその変化に大学として対応していく必要があるため、今回オクラホマ大学はAltius Sports Partnersと契約を交わすことを決めました。

Altius Sports Partnersは今回の契約を機にAltius Sports Partnersの幅広い視点とオクラホマ大学の地域的な専門知識を掛け合わせることで学生アスリートを成功に導くことができるよう、大学内に「OUアスリート・サービス部」を設立しました。変化し続けるカレッジスポーツに順応できるアスリートおよび大学・チームを作るため、”NIL”に関して教育およびサポートをしていくことが必要だと提言しています。

今回のオクラホマ大学のように、Altius Sports Partnersと契約を交わす大学は少なくなく、現在ではアメリカ全土の35以上の大学が契約を交わしており、今後の”NIL”の変化に対してかなり慎重になっていることがわかります。

NCAAはどこまで解禁するの?

”NIL”が承認され、学生アスリート自身のパブリシティ権を利用した上でのマネタイズが可能になりましたが、さらなる問題が発生しているのも事実です。そのためNCAAの監視という意味でも解禁の範囲を設けるべきだという声も上がっています。
アメリカは州ごとに法律に差があり、大学の所在地によってその選手やチームにかかる法律に差が生じてしまいます。州によっては学生アスリートのプレーへの収益(Pay for Play)を認めるような法案になっていることが起きているため、全ての州で平等なルールを設けるため、州法とNCAAの規定の調整が必要となります。

日本の学生スポーツはどうなっているの?

日本のアマチュアスポーツでも甲子園(全国高校野球選手権大会)や箱根駅伝(東京箱根間往復大学駅伝競走)、全国高校サッカー選手権大会などプロスポーツには引けを取らない人気を誇る大会があり、多くの人が注目しています。
その反面、各部活動の経済状況は、強豪校であればあるほど遠方への移動を要する場合があり、かなりの移動経費がかかります。また、多くの部員を有する部活動の場合、備品も多く準備する必要があり、そこにもかなりの経費が割かれることになります。

また、高校野球連盟には1950年に定められた日本野球憲章があり、高校野球の商業的な利用の制限があります。高校サッカーにおいても、全国高等学校総合体育大会(インターハイ)や全国高等学校サッカー選手権大会ではスポンサーロゴが掲載されたユニフォームを着用することは認められていません
しかし、近年、部活動とスポンサー契約を結ぶ企業も多く、高校サッカーであればプレミアリーグやプリンスリーグなどで企業ロゴの入ったユニフォームを着用しているチームを見ることが多々あります。また、長年スポンサーロゴが認められていなかった箱根駅伝ですが、ワールドアスレティックス(陸上競技の国際競技連盟)による広告規定改訂に伴い、日本陸上競技連盟も新ルールを採用したことで、2021年からスポンサーロゴが解禁となりました。

この契約は、部活動側にとって経済的な支援が得られる、企業側にとって高校や大学の部活動のサポートをすることでイメージアップにつながるという双方にメリットがあります。


最後に

今回はNCAAが承認した”NIL”に関して説明しました。この”NIL”が承認されたことで、学生アスリートがスポーツ飲料やNIKEなどのCMに登場する頻度が増え、学生スポーツのさらなる発展に繋がっているように思います。この変化や今回紹介したNCAAの”NIL”承認の事例を元に、今後日本のアマチュアスポーツ界でも”NIL”を取り入れるなど、スポンサーシップとアマチュアスポーツの関係が確固たるものになっていくかもしれません。

以下の動画は英語ではありますが、今回お話しした”NIL”に関してわかりやすくまとめられていますので、もし良ければご視聴ください。


今後も変化していく”NIL”に関して調べていきたいと思います!

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