SFの金字塔〈鋼鉄都市〉
あらすじ
オートメーションによる人々の活動力の減退
ハンナ・アーレントが自著「人間の条件」の中で、機械化が進むにつれて人間はその存在条件である「労働」「仕事」「活動」から成る三つの活動力が失われると語っている。ここで語られる「労働」とは生物としての生命活動に他ならない。簡潔に言えば私たちが生きためにする行為。食べること、眠ること、子孫を増やすことなどである。
鋼鉄都市の舞台である近未来では、80億もの人間が外界と隔離された「ドーム」と呼ばれる巨大な鋼鉄の壁に囲まれた都市が世界中に散らばっており。そこに人々は住んでいる。
そこでの食事は、発酵肉とイースト菌をベースに製造される様々な加工食品ばかり、生の果物などはぜいたく品とされ一部の階級の人間しか口にすることができない。
子供を持てる人数と時期が決まっており、厳格な人工統制がされている。
唯一、人々は決まった時間に睡眠をとることができるが、都市に日光が差し込む場所は限られており、基本的には昼も夜もない。
この「労働」が限られた世界。それが鋼鉄都市である。
古き良きバディもの ✖ SF
私が鋼鉄都市を読むきっかけになったのは、デトロイトというゲームをプレイしたことが大きい。あまりにこの作品が面白かったために色々と調べているうちに、デトロイトの制作初期段階から作品の世界観の大部分を「鋼鉄都市」から引用していることを知った。
実際、鋼鉄都市を読んだ後にデトロイトを思い返すと、類似する点がいくつもある。
デトロイトに登場するアンドロイドのコナーと刑事ハンクの関係は、鋼鉄都市のロボット・ダニールと人間の刑事イライジャ・ベイリの関係と全く同じだったりする。
デトロイトのハンクがロボット嫌いで警察所内で通っているように、鋼鉄都市のイライジャもロボット嫌いという設定なのだ。
バディものの作品に共通する重要な三要素がある。
1. 片方、あるいはお互いに相手のことが気に入らない。
2. 嫌っている側が相方に助けられる出来事がある。
3. 苦難を共にすることでお互いの理解が深まる。
鋼鉄都市はこの三要素を満たしたれっきとしたバディものだ。
ロボット工学三原則
「ロボット三原則」について、SFファンの諸君はもちろんご存じだろうし、そうでなくともロボットアニメや関連するエンタメを見たことがる人ならば一度は聞いたことがあるはずである。
実のところ、ロボット三原則はたいしてこの作品内では重要ではない。しかし、アシモフ作品を読むうえで知っておくと理解がふかまることには間違いない。
最大の謎。宇宙人の起源
物語の発端となる、宇宙都市に住むロボット工学博士の宇宙人が、地球人に殺害されたという事件。イライジャはこの事件の担当刑事に抜擢されるが、地球人と宇宙人との間の絶妙な外交関係が理由で、内々に捜査を進めなければならない。
実のところ、この作品最大の謎、あるいはミスリードと呼べる存在が宇宙人である。しかし、こと彼ら自身のことに関しては物語中盤まで語られない。一体何者で、どこから来たのか。何が目的なのか。
分かっているのは、彼らは地球人類よりはるかに高度な技術を有していること。それは、人間と見間違えるほど精巧なロボットを製造することができるほどに。他にも太陽系以外の銀河系にも進出していることなど。
物語終盤にわかることだが、彼らの存在は一般的な宇宙人とは違っているのだが、その答え合わせは鋼鉄都市を実際に手にとって確認していただきたい。くれぐれもネットで検索してネタバレしないように申し上げたい。