〔民法コラム14〕地役権と177条


1 通行地役権の場合における「第三者」(177条)の範囲

⑴ 問題の所在

 通行地役権は、黙示的な設定合意を認定するほかない事例が多く、そのような地役権の設定を承役地の譲受人が具体的に認識している場合は多くない。また、明示的に通行地役権が設定された場合でも、無償でしかも承役地所有者の好意でなされることが多い。その結果、通行地役権は登記される場合が少ない。したがって、背信的悪意者以外には登記なくして対抗できないとすると、通行地役権の多くは承役地の売買により消滅してしまうことになる。
 しかし、これでは地役権者にとって酷な結果となってしまい妥当でない。他方、譲受人にとっても物理的状況から何らかの通行権の存在を容易に認識できる場合もあるはずである。
 そこで、このような特殊性を考慮して、一定の場合には登記なき通行地役権に対抗力が認められている。

⑵ 下級審及び最高裁の理論構成

 下級審には、①背信的悪意者として第三者から排除するものと、②登記の欠缺を主張する正当な利益を有しない者として第三者から排除するものがある。他方、最高裁(最判平10.2.13百選Ⅰ(第8版)[63])は、悪意者ですらない者に背信的悪意者排除論を適用したことは不当であるとの上告人の主張を認めた上で、②の理論構成を採用している。

⑶ 最高裁の要件

 下級審では、諸事情を衡量して未登記通行地役権を保護する裁判例が積み重ねられてきたが、最高裁は次のような要件を挙げている。すなわち、①譲渡の時に、承役地が要役地の所有者により継続的に通路として使用されていることがその位置、形状、構造等の物理的状況から客観的に明らかであること、②譲受人が①の事情を認識していたか又は認識することが可能であったこと、③特段の事情がないこと、である。

[重要判例]
・最判平10.2.13百選Ⅰ(第8版)[63]

⑷ 未登記通行地役権と抵当権実行

 近時の最高裁判決(最判平25.2.26平25重判[民法4])において、最判平10.2.13の判断枠組みが、未登記通行地役権と抵当権実行後の買受人との関係にも及ぶことが明らかにされた。
 同判決において、承役地の物理的状況の認識の有無ないし認識可能性の基準時は、買受人が土地を買い受けた時ではなく、抵当権の設定時が基準となり、認識の主体も譲受人ではなく抵当権者とする考え方が示された。
 そして、複数の担保権が設定されていた場合には、どの担保権の設定時が基準となるかが問題となるが、最先順位の担保権に地役権が対抗できるならば他にも対抗可能なはずであり(平25重判[民法4]解説2参照)、同判決も「最先順位の抵当権の設定時」を基準とするとしている。

[重要判例]
・最判平25.2.26平25重判[民法4]

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