〔民法コラム12〕盗品の回復(193条)


1 意義

 192条の要件を満たして即時取得される場合でも、目的物が原権利者の意思に反し、又は意思によらずに占有を離れた盗品・遺失物であるときに、被害者又は遺失者が、盗難又は遺失の時から2年間、占有者(即時取得者)に対してその物の回復請求権を行使できるという規定である。

2 適用範囲

 193条は、占有物が盗品・遺失物であるときに適用される。
 「盗品」とは、窃盗又は強盗により占有者の意思に反して占有を剥奪された物をいう。
 「遺失物」とは、窃盗・強盗以外の方法で占有者の意思によらずにその占有を離れた物をいう。

3 効果

 被害者又は遺失者は、盗難又は遺失の時から2年間、占有者に対してその物の回復を請求することができる。

⑴ 回復請求権者

 被害者又は遺失者であって、所有者に限られない。賃貸又は寄託された物が盗まれたり遺失したりした場合には、賃借人や受寄者も回復請求することができる(判例)。この場合、原権利者も193条による回復請求権を有する。

⑵ 回復請求をなし得る期間

 盗難又は遺失の時から2年である。

⑶ 回復請求の相手方

 盗難又は遺失の時から2年の間に、盗品・遺失物たる動産を取得して現に占有している「占有者」である。

⑷ 回復請求権の法的性質(所有権の帰属)

 被害者又は遺失者は、いかなる内容の回復請求ができるのか。この問題は、盗品・遺失物の所有権が誰に帰属するかという問題と関連する。
 所有権が原権利者に留保されていると考えるなら、回復請求権は占有の回復を求めるに過ぎず、反対に、所有権が占有者に帰属しているとすれば、原権利者は所有権の回復を求めると同時に占有の回復を請求することになる。

〈論点1〉193条の回復請求権の法的性質が問題となる。2年間、物の所有権は原権利者と占有者(即時取得者)のどちらに帰属するか。
 A説(原権利者帰属説 判例)

  結論:原権利者に帰属する。よって、回復請求権は占有の回復を求めるものである。
  理由:193条は、2年以内に回復請求を受けないときに限り、占有者は初めてその物の上に行使する権利を取得するという趣旨である。
  批判:この説に立つと、回復請求を受けないときでも2年間は、即時取得者が他人の所有物を占有していることになり、いかにも不自然である。
 B説(占有者帰属説 有力説)
  結論:占有者に帰属する。よって、原権利者は回復請求権を行使して所有権の回復を求めると同時に占有の回復を請求することになる。
  理由:①動産取引の安全という即時取得制度の現代的解釈に適合する。
     ②193条の回復請求権は、193条により特別に認められたもので、占有の回復とともに盗難又は遺失の時の本権関係を復活させるものと解することができる。

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