〔憲法コラム2〕外国人の公務就任権
1 外国人の公務就任権の保障の有無
憲法上、外国人(特に定住外国人)に公務就任権が保障されるかについては、争いがある。
外国人には、権利の性質上日本国民のみをその対象としていると解されるものを除き、人権の保障が及ぶと解されているから、公務就任権が、その性質上日本国民のみをその対象としたものか否かが、公務就任権の根拠と関連して問題となる。
〈論点1〉公務就任権の根拠
A説(15条説)
結論:公務就任権は15条1項により保障される。
理由:公務員になることは、「政治に参加する」ことであるといえる。
批判:選挙権と表裏の関係にない一般職の公務員への就任を、同項により基礎付けることは困難である。
B説(13条説 佐藤(幸))
結論:公務就任権は13条により保障される。
C説(22条説)
結論:公務就任権は22条1項により保障される。
理由:公務員は生計を維持するための職業の一つとみなすのが一般的である。
〈論点2〉定住外国人に公務就任権が保障されるか。
A説(否定説 伊藤)
結論:外国人には公務就任権は保障されない。
理由:(論点1A説を前提に)公務就任権は広義の参政権に含まれるものであり、憲法上の権利として外国人にも保障されると解する必要はない。
B説(肯定説)
結論:外国人にも公務就任権は保障される。
理由:公務員に要求されるのは憲法に忠実であることであり、それは国籍の有無とは論理的に無関係である。
C説(部分的肯定説 佐藤(幸)、芦部)
結論:教育的・調査的・非管理的職務については、外国人にも公務就任権が保障される。
理由:そのような公務についてまで外国人を排除するのは行き過ぎというべきである。
2 外国人に公務就任権を与えることの合憲性
憲法上、外国人に公務就任権が保障されないとした場合、条例等で外国人に公務就任権を与えることが憲法に反するか否かが問題となる。
この点について、憲法が地方自治につき住民自治を保障していることから、定住外国人等、地方公共団体と密接な関係を有する者については、その意思を地方自治に反映させ、また自らこれに参加していくことが望ましいと考えると、地方の公務のうち、統治作用に関わる程度の弱い公務については、外国人に就任権を認めても憲法には反しないと解することになろう。
東京高判平9.11.26は、地方公務員の管理職であっても、専ら専門的・技術的な分野においてスタッフとしての職務に従事するにとどまるなど、公権力を行使することなく、また、公の意思の形成に参画する蓋然性が少なく、地方公共団体の行う統治作用にかかわる程度の弱い管理職については、外国人を就任させることは憲法に反しないとしている。
また、同判決の上告審である最大判平17.1.26は、地方公務員のうち、住民の権利義務を直接形成し、その範囲を確定するなどの公権力の行使に当たる行為を行い、もしくは普通地方公共団体の重要な施策に関する決定を行い、又はこれらに参画することを職務とするもの(いわゆる公権力行使等地方公務員)の職務の遂行は、住民の生活に直接間接に重大な関わりを有するから、これらの公務員には、原則として日本の国籍を有する者が就任することが想定されているとしているが、同判例は公権力行使等地方公務員に外国人を任用することが憲法上許されないとしているわけではないと解される。
すなわち、同判例は、外国人に公務就任権を与えることが憲法に反するとしているわけではない。