〔民法コラム25〕使用者責任(715条)


1 総説

⑴ 意義

 他人に使用されている者(被用者)が、その使用者の事業の執行につき、他人に損害を加えた場合、使用者又はこれに代わる代理監督者は損害賠償責任を負う。これを使用者責任という(715条1項、2項)。
 この責任は、使用者については、個々の加害行為自体に故意・過失のあることを要件としていないが、選任・監督についての過失のあることを要求し、その過失の挙証責任を転換していることから、中間責任といえる。
 さらに、この責任は、本来被用者が負担すべき損害賠償債務を使用者が肩代わりする代位責任と解するのが通説である。なぜなら、715条3項が被用者に対する求償を認めているからである。

⑵ 趣旨

 使用者は、他人を使用することにより自己の活動範囲を拡張し、利益を収める可能性が増大しているのであるから、それに伴い生じる損害もまた負担すべきであるという報償責任の原理にある。

⑶ 要件

①「ある事業のために他人を使用」していること
②「事業の執行について」損害を加えたこと
③被用者に一般不法行為の要件が備わっていること
④被用者の選任・監督につき相当の注意をしたこと、又は、相当の注意をしても損害が生じたこと(免責事由)を使用者が証明しないこと(715条1項ただし書)

2 「他人を使用する」関係の有無

 通常は、雇用、委任その他の契約に基づくことが多いが、実質的な指揮監督関係があれば足りる(e.g.夏休み中に友人の子に飲食店の手伝いをさせた場合)。
 使用関係が認められる典型的な場合は、雇用契約が存在する場合であるが、使用関係が認定されるために契約関係の存在は不可欠ではない。しかし、実質的な指揮監督の関係が必要とされている。したがって、弁護士のように独立性が強い場合には、依頼者との間に使用関係は原則として成立しない。同様に、請負人と注文者の関係も、通常は使用関係ではないが、元請負人と下請負人の関係になると、実質的な指揮監督の関係がある場合も少なくない。
 被用者に当たる者がその事業のために第三者を使用する重畳的使用関係の場合には、この使用につき使用者の許諾を得ており、使用者も監督し得る立場にあるときは、使用者と第三者の間にも使用関係が認められる。

3 「事業の執行について」の判断基準

⑴ 意義

 この成立要件は、被用者の加害行為により使用者が負う責任を、使用者の活動が拡張されると認められる範囲内のものに限るために定められたものである。使用者の加害行為が使用者の事業の範囲内のものか否かを判断するには、その行為が使用者の事業自体の範囲に入るかの判断と、被用者の職務の範囲内かの判断とを必要とする。

⑵ 使用者の事業の範囲

 使用者の事業自体だけでなく、これと密接不可分の関係にある業務及び付随的業務も入る。

⑶ 被用者の職務の範囲

〈論点1〉被用者の職務の範囲をいかなる基準により判断すべきか。
 A説(外形標準説 判例)

  結論:使用者・被用者の内部関係あるいは主観的意図にとらわれずに、客観的に行為の外形を標準に判断する。
  理由:使用者・被用者の内部関係等で判断すると、被用者の不当な業務執行あるいは職権を濫用して私利を図るための行為による損害が常に業務執行の範囲外となり、損害の公平な分担の要請に反する。715条の趣旨が報償責任に基づく損害の公平な分担にある以上、被用者の職務の範囲は、使用者・被用者の内部関係等にとらわれずに、客観的に行為の外形を標準に判断すべきである。

〈論点2〉外形標準説は事実的不法行為にも適用されるのか。事実的不法行為の場合には被害者の外形に対する信頼を問題とすることに意味がないとも思えるため問題となる。
e.g.A会社の社員Bが、私用で会社の車を運転していて、通行人をはねてしまった。
 A説(肯定説 判例)
  結論:外形標準説を適用する。
  理由:ここでも外形標準説を貫いて使用者の責任を広く認めることが、報償責任の原理に立脚する715条の趣旨に合致するし、被害者保護にもつながる。
 B説(否定説 有力説)
  結論:外形標準説は適用しない。加害行為が客観的に使用者の支配領域内の危険に由来するか否かにより判断すべきである。
  理由:事実行為では相手方の信頼を問題とすることに意味がないから、外形標準説は、事実的不法行為には適用されない。

[重要判例]
・最判昭40.11.30百選Ⅱ(第五版新法対応補正版)[80]
・最判昭39.2.4百選Ⅱ(第三版)[81]

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