〔民法コラム9〕詐欺取消し後の第三者
1 詐欺(96条)
⑴ 意義
人を欺罔して錯誤に陥らせる行為
⑵ 要件
詐欺により、人を錯誤に陥れること(個別事情により、沈黙も詐欺になり得る。)
⑶ 効果
⒜ 被詐欺者は、意思表示を取り消すことができる(96条1項)。
意思の不存在とは異なり、一応表示に対応する内心的な効果意思はあり、意思の不存在ではなく意思表示の過程に瑕疵があるに過ぎないため、その効果も無効という強い効果ではなく、取り消し得るとされている。
⒝ 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる(96条2項)。
⒞ 取消し前の善意無過失の「第三者」に対しては、取消しを対抗できない(96条3項)。
2 詐欺取消し後の第三者
取消し後の第三者を保護するための法律構成には争いがあり、一般的に不動産であることを前提に議論がなされている。そのため、ここでは不動産売買契約における議論を紹介する。
〈論点1〉96条3項の第三者を取消し前の第三者と解すると、詐欺取消し後に利害関係を有するに至った第三者は96条3項では保護されないことになる。しかし、常にかかる第三者が保護されないとすると、取引の安全を害する。そこで、一定の場合にはかかる第三者を保護すべきであるが、そのための法律構成をいかに解すべきか。
A説(177条説 大判昭17.9.30百選Ⅰ(第8版)[55]・通説)
結論:詐欺にあった表意者と取消し後の第三者とは対抗関係に立ち、対抗要件を先に備えた者が優先される。ただし、第三者が背信的悪意者の場合は保護されない。
理由:①取消しの遡及効(121条)は法的な擬制に過ぎず、取り消されるまでは取り消すことのできる行為も有効であるから、取消しの時点であたかも所有権の復帰があったのと同様に扱うことができる。とすれば、詐欺者を起点とする二重譲渡があったのと同様に解することができる。
②取り消された以上、これによる法律関係の変動は迅速に公示して取引の安全を図るべきであり、これを怠る者は不利益を受けてもやむを得ない。
③登記の有無という画一的基準で優劣を決するほうが、不動産取引秩序の安定に資する。
批判:①取消し前の第三者については取消しの遡及効を認めながら、取消し後の第三者についてのみ取消しの遡及効を貫徹しないことは矛盾する。
②取消し後の第三者は、悪意であっても登記を具備すれば保護されることになり、不当である。
B説(94条2項類推適用説)
結論:94条2項を類推適用する。
理由:①取消しの遡及効に適合的である。
②第三者の善意・悪意や過失の有無を考慮したきめ細やかな調整ができる。
批判:被詐欺者には、虚偽の外観を作出した者ほどの帰責性はなく、94条2項を類推適用する基礎を欠く。
[重要判例]
・法律行為の取消しと登記(取消し後の第三者)大判昭17.9.30百選Ⅰ(第8版)[55]
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