〔憲法コラム6〕内容規制と内容中立規制
1 表現の自由の違憲審査基準
表現の自由は人権体系の中で優越的地位を認められるべきものであるため、表現の自由に関する規制の違憲審査基準は厳格な基準が用いられなければならないとされる点ではほぼ争いはない(二重の基準の理論)。
2 内容規制
表現内容規制とは、表現行為の観点・主題に着目した規制をいう。表現内容規制は原則として許されず、その種の規制立法の合憲性は厳格に審査しなければならない。表現内容規制の合憲性の審査に当たって適用される違憲審査基準の典型的なものが、扇動的表現の処罰に関して適用される「明白かつ現在の危険」の基準である。
具体的には、
①近い将来、実質的害悪を引き起こす蓋然性が明白であること、
②実質的害悪が重大であること、
③当該規制手段が害悪を避けるのに必要不可欠であること、
の三つの要件が認められる場合には、表現行為を規制することができるというものである。これは極めて厳格な基準であり、要件(特に害悪の重大性と切迫性の存在や程度)の判断も難しいため、すべての表現の自由の規制立法に一般化するのは妥当でなく、一定の表現内容を規制する立法につき用いるべきであるとされる。
3 内容中立規制の意義
⑴ 一般的に、表現内容中立規制の違憲審査基準は、表現内容規制よりも緩やかな基準で判断すべきと考えられている。このような、表現内容規制・内容中立規制二分論は、その理由を次のように説明している。すなわち、表現内容の規制は、政府が表現内容が虚偽であるとか、危険であるとか反道徳的であるとか、価値がないとかといったことを理由に表現行為を規制するものであって、それを安易に許せば政府によるほしいままの思想統制、情報操作へとつながる危険がある。他方、表現内容にかかわりなく表現の時・場所・方法につき規制を加える場合は、政府が伝えられる表現内容につき判断を加えて伝えられるべき情報と伝えられるべきでない情報とを選別しているわけではない。当該表現行為と害悪発生との関連性が比較的明確である場合も少なくないことからしても、政府による恣意的な表現抑圧の危険性は低い。
⑵ そこで、内容中立規制についてはLRAの基準(「より制限的でない他の選び得る手段」の基準)を用いるべきである。「より制限的でない他の選び得る手段」の基準は、立法目的は表現内容に直接かかわりのない正当なもの(十分に重要なもの)として是認できるが、規制手段が広範である点に問題がある法令につき、立法目的を達成するため規制の程度のより少ない手段(less restrictive alternatives)が存在するかを具体的・実質的に審査し、それがあり得ると解される場合には当該規制立法を意見とする基準である。この基準は、立法目的の達成にとって必要最小限度の規制手段を要求する基準と言い換えることもでき、とりわけ表現の時・所・方法の規制の合憲性を検討する際に有用である。なお、内容中立規制の審査については目的・手段に合理的関連性があればよいとする立場もあるが、表現の自由の重要性にかんがみると厳格な基準を用いるべきであるから賛成できない。
4 内容中立規制の問題点
表現内容規制・表現内容中立規制二分論には次のような批判がある。すなわち、表現の時・場所・方法の意義を軽視しているのではないか。表現の時・場所・方法の意義ないし重要性は、人により異なるのであって、ある時・場所・方法の表現行為がある人達にとっては極めて重要な表現態様であることもある。また、ある表現の時・場所・方法が表現内容と結び付いているときもあることから、「内容中立的規制」が特定内容の表現を抑圧するために利用される場合もあり得る、等々である。
さらに、表現内容規制と表現内容中立規制の二分論には、そのどちらに当たるか判断が難しいという問題もある。
[重要判例]
ビラ貼りと表現の自由(最大判昭45.6.17)百選Ⅰ(第7版)[A7]
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