〔民法コラム29〕集合物譲渡担保権に基づく物上代位の可否
1 譲渡担保権に基づく物上代位の可否
譲渡担保権に基づく物上代位権の行使が認められるのか、明文がなく問題となる。
この点につき、最決平11.5.17は、最高裁として初めて譲渡担保権に基づく個別動産の転売債権に対する物上代位を認めた。もっとも、同決定の調査官解説によると、「本判決の判旨は、・・・・・・集合動産譲渡担保はもとより、貸金債務を担保するために特定動産に譲渡担保権を設定した場合についても、当然に及ぶものとはいえない」とされ、その射程は限定的に捉えられている。
〈論点1〉譲渡担保権に基づく物上代位権の行使は認められるか。
A説(否定説)
A①説(所有権的構成から)
理由:所有権が違法な処分で失われた場合には、所有権者は処分者に損害賠償を請求するしかないのと比較して、譲渡担保に物上代位による優先権を認めると、譲渡担保権者に所有権者以上の行き過ぎた保護を与えることになる。
A②説(設定者留保権説から)
理由:譲渡担保権者は、所有権を譲り受けるという法形式を自らの意思で選択し、かつ、外部的にもそのように公示しているのだから、いくら実質的には担保であっても、少なくとも所有権者以上の権利を認めるべきでない。物上代位権の行使を認めることは、譲渡担保権者に所有権者以上の権利を認めることになる。
B説(肯定説)
B①説(所有権的構成から)
理由:所有権は担保権の交換価値把握権能の基礎となる全面的な支配権であるから、制限物権である担保権に認められる効力が所有権に認められてもおかしくはない。そのため、304条1項を類推適用すべきである。
B②説(担保的構成から)
理由:①B①説の理由
②譲渡担保権は担保権であるから、価値権的追及権として当然にその物上代位性が承認される。
③第三債務者との関係で物上代位の効力が現実化するのは譲渡担保権者の差押え以降である。そして、執行裁判所のなす差押えは、譲渡担保権者の存在を一応認定した上での手続であり、これがなされている以上、第三者に対して譲渡担保権に基づく物上代位を認めても、第三債務者に対して不測の損害を及ぼすことにはならない。
[重要判例]
・最決平11.5.17
2 集合物譲渡担保権に基づく物上代位の可否
動産譲渡担保権の中でも、集合物譲渡担保権の場合には、通常の動産譲渡担保権と異なり、構成部分が変動するという特殊性がある。そのため、集合物譲渡担保権に基づく物上代位の可否が別途問題となる。
⑴ 集合物譲渡担保権の個別動産に対する効力の有無
仮に、集合物譲渡担保権の実行前の段階において、個別動産に対する効力を否定する場合には、個別動産の代替動産に対する物上代位も基本的には否定されることになる。実際、学説において、このような見解も存在する(道垣内)。
しかし、判例は、譲渡担保権の実行前にもその効力は集合物を構成する個別の動産に及ぶが、設定者には通常の営業の範囲内で個別の動産を譲渡担保の効力から離脱させる権能が留保される、という立場にあるとされている(最判平18.7.20百選Ⅰ(第8版)[99]参照)。
⑵ 集合物譲渡担保権に基づく物上代位の可否
最判平18.7.20は、「構成部分の変動する集合動産を目的とする譲渡担保においては、集合物の内容が譲渡担保設定者の営業活動を通じて当然に変動することが予定されているのであるから、譲渡担保設定者には、その通常の営業の範囲内で、譲渡担保の目的を構成する動産を処分する権限が付与されており、この権限内でされた処分の相手方は、当該動産について、譲渡担保の拘束を受けることなく確定的に所有権を取得することができると解するのが相当である。・・・・・・他方、対抗要件を備えた集合動産譲渡担保の設定者がその目的物である動産につき通常の営業の範囲を超える売却処分をした場合、当該処分は上記権限に基づかないものである以上、譲渡担保契約に定められた保管場所から搬出されるなどして当該譲渡担保の目的である集合物から離脱したと認められる場合でない限り、当該処分の相手方は目的物の所有権を承継取得することはできないというべきである。」と判示した。しかし、同判決は、物上代位につき直接判断したものではない。
また、最決平22.12.2は、「構成部分の変動する集合動産を目的とする集合物譲渡担保権は、譲渡担保権者において譲渡担保の目的である集合動産を構成するに至った動産(以下『目的動産』という。)の価値を担保して把握するものであるから、その効力は、目的動産が滅失した場合にその損害をてん補するために譲渡担保権設定者に対して支払われる損害保険金に係る請求権に及ぶと解するのが相当である。」と判示した。
〈論点2〉集合物譲渡担保権に基づく物上代位は認められるか。
A説
結論:集合物譲渡担保権に基づく物上代位は認められない。
理由:目的動産の売買の事案において、集合物譲渡担保権に基づく物上代位を認めると、譲渡担保権設定者に留保された目的動産に対する処分権限と抵触する。
B説
結論:譲渡担保権設定者が通常の営業を継続している場合は、直ちに物上代位権を行使することができる旨が合意されている等の特段の事情がない限り、譲渡担保権者が物上代位権を行使することは許されない。
理由:構成部分の変動する集合物を目的とする集合物譲渡担保契約は、譲渡担保権設定者が目的物を販売して営業を継続することを前提とするものである。
[重要判例]
・最決平22.12.2
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