〔民法コラム7〕解除と「第三者」
1 総論
⑴ 定義
・契約の解除:契約が締結された後に、その一方の当事者の意思表示により、その契約が初めから存在しなかったのと同様の状態に戻す効果を生じさせる制度(540条1項、545条1項本文)
・法定解除:法律により与えられた解除権(法定解除権)の行使によりなされるもの
e.g.木材を100万円で売る契約を締結したが、相手方が代金と引換えにそれを引き取ることを渋っているため契約を解除する(541条本文)。
・約定解除:当事者の合意により留保された解除権(約定解除権)の行使によりなされるもの
e.g.①買主が売主に手付を交付しておき、契約の履行前にその手付を放棄して解除する(557条1項参照)。
②資金が必要であるため、不動産を売却し、将来、買主が支払った代金及び契約の費用を支払うことにより買い戻すことができると約束しておく(579条前段参照)。
⑵ 機能
相手方が債務不履行に陥った場合に、債権者を反対債務から解放し、あるいは自らが先履行した引渡債務の目的物の取戻しを認めることにより、契約当事者を保護する。したがって、解除は主に双務契約においてその機能を果たしている。
2 解除権行使の効果
⑴ 基本的効果
解除権が行使されると、
①まだ履行されていない債務は履行する必要がなくなる。
②既に履行されたものがあるときには、お互いに返還する。
なお、損害が残る場合には、これを賠償させることもできる(545条4項参照)。
⑵ 法的構成
〈論点1〉上記の解除の効果をどのように説明するか。解除の法的性質が問題となる。
A説(直接効果説 判例・通説)
結論:解除により契約は当初から存在しなかったことになり、契約から生じた効果は遡及的に消滅する。
理由:債権者を双務契約による拘束から解放するという解除制度の趣旨に最も適合する。
B説(間接効果説)
結論:解除により契約自体が消滅するのではなく、契約の作用が阻止されるだけである。すなわち、未履行の債務については履行を拒絶する抗弁権が生じ、既履行のものについては新たに返還義務が生じる(原状回復の効果が履行を待って間接的に生じる。)。
理由:545条1項ただし書や、545条4項に適合する。
C説(折衷説)
結論:解除により未履行債務は将来に向かって消滅するが、既履行債務は消滅せず、新たな返還義務が生じる。
3 「第三者」(545条1項ただし書)の範囲
⑴ 解除の効果の判例・通説である直接効果説の立場から
解除の効果の判例・通説である直接効果説の立場からは、545条1項ただし書は取引の安全のために契約解除の遡及効を制限した規定であると解することになる。そこで、545条1項ただし書の「第三者」とは、解除された契約から生じた法律効果を基礎として、解除までに新たな権利を取得した者と解する。
〈「第三者」に当たる例〉
①契約に基づく給付の目的たる物又は権利の譲受人、抵当権者、質権者、差押債権者
②給付の目的物の賃借人
〈「第三者」に当たらない例〉
①解除により消滅する債権そのものの譲受人、転付債権者、差押債権者
②第三者のためにする契約の受益者
⑵ 「第三者」の保護要件
「第三者」の主観的要件は善意・悪意を問わない。債務不履行があっても解除がなされるとは限らない以上、第三者の主観を問題とする意味がないからである。
もっとも、何ら帰責性のない債権者の犠牲の下で保護される以上、不動産については「第三者」は権利保護要件としての登記を備えるべきである(判例は対抗要件として登記が必要であるとする)。