古民家再生はじめました ~天窓で町家に光を取り込む~
7月の着工から4か月あまり。わが家は補修工事の真っ最中だ。これまで、オンラインで知らせていただく情報だけで進捗把握していたけれど、やっと作業中の現場に入ることができた。
今月末に行われる伝統的建築物保存事業の行政検査にむけて、傷んだ土台や柱を入れ替えたり、保修したり、崩れた土壁を復元したりと、現場作業は絶賛進行中。まずはデンケン対象部分の作業なので、コンクリート基礎も今は細長い敷地の半分だけだ。
懸案だった軒桁の「マサメノマツ」も無事見つかった。現場の中央にドーンと置かれ、あとは痛んだ古い材を外して交換されるのを待つばかりである。ゆっくりながらも着々と進んでいる現場の気配が感じられる。腕が良いと評判の棟梁にも、ようやく直にご挨拶できて嬉しかった。
以前説明したとおり、町並み保存の対象となる外観等については、とにかく行政から詳細に指定される方針に従う以外に方法はない。「ここらへんは、ちょっと地味~な感じになります。」などと、建築士さんが苦笑いしながら、丁寧にひとつづつ説明してくれるのを、静かに受け入れるだけである。
特に町並みに関連するところの要請は細かい。例えば、街道に面した入り口の建具デザインは、一旦確定した後から、行政からの指導(!)が追加された。時間切れで、残念ながら今回仕上がりを確認できなかったところだ。
論点は、大正末期の建設当時の姿を適切に復元しているかどうか。妥協できるところを話し合って合意し、建具図面を改めて書きなおすことになった。いずれにしても、検査には間に合うよう仕上がるはずである。ふぅ。
一方、旧街道の反対側、表から見えないところについては、デザイン制約が少し緩くなり、例えば、断熱サッシや天窓も採用できる。
天窓、すなわちトップライト設置の是非は、近年ではデメリットが強調されることも多いらしい。けれど、ウチのような左右の建物に挟まれ奥に長い町家づくりの建物の場合には、どうしても暗くなる中央部分に光を取り入れる効果が絶大だ。
小さな天窓ひとつで、薄暗かった室内が、ぱあっと明るくなるのである。
現場をこの目で見ることができて、まずは一安心。けれど、やるべきことは山ほど残っている。躯体と外観の修復工事が無事に終わっても、暮らしていけるように準備を整えるのは、長いながーい道のりである。
隣家と密着する町家づくりの宿命で、工事を進めるにあたっては、これからご近所と相談しなければならないことが色々ある。
マンションなどの集合住宅の場合、新築ならデベロッパーが、中古なら管理会社が段取りを整えてくれる。独立した敷地の一戸建てならば、ある程度は持ち主が判断して進められる。だが、町家となると、一筋縄ではいかない。
古くから続く町並みの一員として適切に振舞わねばと思う。そして、思えば思うほど、正解が分からず戸惑うことばかりなのだ。
戸惑いポイントはさまざまだ。敷地ぎりぎりに建つ建物の境界近辺に関わるあれこれはもちろんある。更に、契約など手続きの曖昧性が高いこと。どこまで細かく主張するべきなのかは迷う。地域特性とか商慣習とかもあるだろうと思いつつ、これまでコンプライアンスにうるさい企業の厳密な手順に慣れてきた身には、ざっくり進めるということ自体が落ち着かないのだ。
ワタシはいつもの癖で、ついつい定型でさくっと提示された契約書の文面を丹念に読み込んでは疑問点を洗い出し、ひとつづつ質問してしまう。そして、先方が当惑しているのに気付いて、なんだか申し訳ない気持ちになる。
ともあれ。
おおよそ決まっていたレールを外れる選択をして、新たな人生を開拓すると決めたのは自分自身だ。ここで怖気づいてはいられない。
天窓から差し込む光が、勇気をくれる気もするのである。