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夜空に浮かぶシグナルは悪党たちへの警告 / THE BATMAN-ザ・バットマン-〈あらすじ・ネタバレあり〉
評価:73点 / 100点
リドラーの存在価値
"人のふり見て我がふり直せ"という言葉があるが、バットマンにとってリドラーの存在価値は正にこれだ。
バットマンは自身を"復讐"と名乗っている。彼にとっての自警活動は、正体の分からない両親の殺害犯を追うのに近い。街の治安を守るためではなく自己満足のため、時には暴力を正当化するために"バットマン"というマスクと建前を用意する。本質は彼自身の言う通り"復讐"なのだ。
そんなバットマンを大きく変えるのは、リドラーの存在。
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リドラーにとってのバットマンとは"同志"だ。
リドラーはどこにでもいる平凡な男で、強靭な肉体を持っているわけでもない。エドワード・ナッシュという男がリドラーを生み出す理由は、バットマンの存在だった。夜な夜な悪党に暴力で対抗するバットマンの存在は、エドワードに「これこそがゴッサムシティの特効薬だ」と思わせる。
バットマンがマフィアや街のゴロツキを標的にするのに対して、リドラーはもっと大物を狙い、もっと過激な方法を使う。リドラーは法で裁けない市長、警察本部長、地方検事を標的にし、バットマンがこれまで避けてきた殺人という手段を使うのだ。標的の中には、ブルース・ウェインとカーマイン・ファルコーネもいた。
ブルースが狙われたのは、彼が街の惨状を知りながら支援をしたり行動を起こしたりしなかったから。ベラ・リアルから「あなたには大きな力があるのに、ゴッサムに興味がない」と指摘されている。確かにバットマンとして自警活動をしてはいるものの、リドラーやベラの考える通りブルースは無関心なところがある。彼はウェイン産業の会議に出ることもなければ、選挙の支援をすることもない。父・トーマスの創設した再開発基金の存在にも気づかず、再開発基金の乗っ取りによって孤児院が閉鎖されたこと、孤児たちが麻薬中毒になっていることもリドラーに教えられてやっと知ったのだ。ブルースの罪は、"ウェインの息子"であることと"無関心"であることだった。
ファルコーネは、リドラーにとって他の標的よりもはるかに格下の存在だから後回しにされた。清廉潔白なフリをした悪人たちを殺して秘密を暴露するのに比べれば、マフィアのボスを殺したところでゴッサムの市民にはインパクトがない。
ファルコーネを残忍に殺したところで、市長、警察本部長、地方検事ほどのインパクトを残せるか?
ファルコーネが"翼のあるネズミ"だったところで、そんなこと誰が気にする?
ファルコーネの価値は、バットマンに再開発基金の乗っ取りを気付かせるためのヒントであり、用済みになったため狙撃というあまりにもシンプルな殺害方法で消された。
リドラーの最後の標的は、ゴッサムシティだった。
これは、ゴッサムをリセットするためにテロを起こそうとした【バットマン ビギンズ】のヘンリー・デュカードやペンシルベニア州の法制度に戦いを挑んだ【完全なる報復】のクライド・シェルトンのようだ。
そしてリドラーがマスクをつけて殺人を続けたのは、誰もがリドラーになることを証明するためでもある。
【Vフォー・ヴェンデッタ】のラストでイギリス国民がガイ・フォークスの仮面を被ってクーデターを起こしたように、リドラーも同じやり方で革命を起こそうとする。
大物の悪人を殺したところで、新しい悪人が出てくるだけ。
であれば秩序を一番最悪な段階まで崩壊させて、もう一度はじめから作り直せば良いという考え方。
"誰もがリドラーになることを証明するため"と前述したが、正確には"誰もが人間の皮膚の下にリドラーを飼っている"が正しい。リドラーとはマスクをつけた姿ではなく、普通に生活している人間の内側に存在する。人間はきっかけさえあれば皮膚を剥ぎ取ってリドラーになれる。
弱者として生まれた者が自分の力で革命を起こそうとする物語は、リドラーからオズワルド・コブルポットに引き継がれるので、ドラマ【THE PENGUINーザ・ペンギンー】は必見だ。
リドラーという"悪"が存在したからこそ、バットマンは警察に仲間と認められた。
リドラーという"悪"が存在したからこそ、バットマンは"恐怖の象徴"から"少しばかりのゴッサムの希望"に生まれ変われた。
バットマン自身はずっと気づいていなかったが、人を殺さないだけで彼もリドラーと同じ存在価値だった。つまり、リドラーなくして真のバットマンは存在しない。
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家族の秘密とそれぞれの証言
<事実>
ブルースの母・マーサの家系は、精神病院【アーカム・アサイラム】の創立者として有名なアーカム一族。
マーサが幼い頃、彼女の母が父を殺した後自殺する。
その後、マーサは【アーカム・アサイラム】の入退院を繰り返しており、そのことを知った記者・エリオットが20年前にスクープにしようとした。
トーマスは記事にしないよう求めたが交渉には応じず、ファルコーネがエリオットを殺して秘密を封印した。
その直後、ブルースの父・トーマスとマーサが射殺される。
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<カーマイン・ファルコーネの証言>
ファルコーネがワイズガイだった頃、銃撃を受けたものの病院に行けば通報される。ファルコーネは医師の顔も持つトーマスに助けを求め、命を救われた過去がある。
トーマスは、マーサの過去が暴露されないようにするため、ファルコーネに記者・エリオットの脅迫を依頼。ファルコーネは借りを返すために力を貸すが、エリオットは記事を発表すると食い下がる。トーマスからエリオットの殺害を指示されたファルコーネは、手下に命じて実行する。
実はエリオットがそこまでして記事を発表したかったのは、彼自身がファルコーネと対立するサルバトーレ・マローニの部下で、当時市長選に出馬していたトーマスを失脚させるためだった。
ファルコーネの言い分だと、トーマスとマーサを殺したのは、マローニ。
殺人への関与という新たな秘密を作ったトーマスは、ファルコーネの言いなりになる可能性がある。そうなればマローニは自分が抹殺されると恐れ、トーマスとマーサを殺したと考えるのが合理的では?と。
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<エドワード・ナッシュの証言>
ファルコーネの証言とほぼ同じ。
彼は、エリオットとマローニの関係性までは掴んでいなかった。
マーサの秘密を守るためにエリオットを買収しようとするが失敗し、ファルコーネに命じて殺害させたというのが言い分だった。
<アルフレッド・ペニーワースの証言>
トーマスは、エリオットの脅迫は命じたが、殺害は命じていない。
記者殺しを知ったトーマスは自首を決心したが、その直後にマーサと一緒に殺された。犯人は未だに捕まっていないので断言はできないが、少なくともアルフレッドはファルコーネが関与していると考えている。
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<考察>
2対1で、「トーマスが殺害依頼を出した」という証言があるが・・・リドラーに関しては残された証拠を組み合わせた答えであって、推察の域を出ていない。当時トーマスの側にいて事実ベースで語れるのは、ファルコーネかアルフレッドだけ。となると、どちらかが真実を語り、どちらかが嘘をついている。
個人的には、ファルコーネが真実を話しているのでは?と思う。
ファルコーネが今になって嘘をつくメリットがないからだ。
それに、もしトーマスが本当にエリオットを傷つけずただスキャンダルを潰したいだけなら、よりによってファルコーネを頼るだろうか?マフィアに依頼する時点で、手段を選ばないことは予想できたはずだ。
つまりトーマスは、ブルースが考えるほど清廉潔白ではない・・・と思う。
トリビア
ロバート・パティンソンはバットマンのオーディション&衣装テストを受けた記念に、こっそり自撮りした。一方、コリン・ファレルは初めて義足とファットスーツ、特殊メイクをしてWarner Bros.のスタバに行ったところ誰にも「コリン・ファレルだ」と気付かれず満足したらしい。ちなみにWarner Bros.のスタバは一般人でも行けるのでもしかしたらスターに会えるかも!?
リドラーの作ったサイトhttps://www.rataalada.com/は、現在ゴッサム市警によって封鎖されたメッセージが表示されている。
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マーサ・ウェインの秘密を暴露しようとして殺害された記者の名前は、エリオット。彼の写真が表示される時に、"HUSH"と文字が浮かび上がる。コミックでは、エリオットの息子トーマス・エリオットがハッシュ(HUSH)というヴィランで登場しており、バットマンの正体がブルース・ウェインであることを掴む。初期にはリドラーと手を組んでバットマンに挑んでいるため、次作以降で登場する可能性は高い。
作中冒頭に現れる覆面の強盗は、ロバート・パティンソンが2017年に銀行強盗を演じた【グッド・タイム】が元ネタ。
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セリーナ・カイルが最後に向かうブルードヘイブンは、コミック版でディック・グレイソンの暮らす街。グレイソンは、バットマンの相棒・ロビンとして、後にナイトウィングとして活動するヴィジランテだ。
〈あらすじ・ネタバレあり〉
舞台は架空の街ゴッサム・シティ。
マフィアが大きな力を持ち、犯罪と汚職が横行するこの街に、突如として現れたヴィジランテが現れる。犯罪者相手に彼らを上回る暴力で対抗するその男は、バットマンと呼ばれるようになる。
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バットマンの正体は、大富豪ブルース・ウェイン。そのことを知っているのは、執事のアルフレッド・ペニーワースだけ。
18年前に両親を殺されたブルースは、街を変えたいという願いを持ちながらも、犯罪者への怒りに支配されていた。
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もはや司法だけではゴッサムの秩序は守れず、警察はバットマンと手を組むことを選ぶが、多くの警察官はその密約に否定的。
バットマンの暴力性は犯罪者だけでなく、善良な市民や子どもたちにとっても恐怖の存在になっていた。
警部補のジェームズ・ゴードンが、ゴッサム市警とバットマンの仲介役に任命される。
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2年後。
現職ドン・ミッチェルと28歳の新人ベラ・リアルによる市長選がデッドヒートを繰り広げていた。
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そんな中、ミッチェル市長が自宅で何者かに殺害され、現場にはなぞなぞが残されていた。
市長に続き、サベージ警察本部長が殺害され、実行犯・リドラーが犯行声明を出す
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なぞなぞを解いたところ、ミッチェルが裏社会の顔役カーマイン・ファルコーネと通じており、彼の右腕オズワルド・コブルポットの仕切るナイトクラブ【アイスバーグ・ラウンジ】に出入りしていたことが判明。
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【アイスバーグ・ラウンジ】のウェイター セリーナ・カイルが何か知っていると思い接触するバットマン。セリーナは、ファルコーネが愛人に産ませた子どもだった。
彼女の友人・アニカがミッチェルからパスポートを奪われ、愛人にされていたと聞き出す。
また、【アイスバーグ・ラウンジ】には【マイナス44】という秘密クラブがあり、そこには汚職刑事や政治家が出入りしているらしい。
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殺人鬼・リドラーを捕まえたいバットマンとアニカを救いたいセリーナは手を組む。
コールガールとして【マイナス44】に潜入したセリーナは、ギル・コルソン地方検事に接触。コルソンはだいぶ酔っていて、「ゴッサムに蔓延する麻薬【ドロップ】の元締めサルバトーレ・マローニを逮捕できたのは、"翼のあるネズミ(密告者)"と呼ばれる密告者がいたから。リドラーはその秘密を暴露するつもりだ」と怯えている。
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ミッチェルの葬儀会場に、車が突っ込む。
車内には首輪爆弾をつけられたコルソンがおり、生き延びるためには"翼のあるネズミ"の正体を大勢の前で吐かなければならない。
"翼のあるネズミ"の正体を明かせば、家族まで殺される・・・と恐れて死を受け入れる。
コルソンがバットマンの前で爆死したことにより、ゴッサム市警は彼を指名手配。
ゴードンだけはバットマンの逃亡に手を貸し、協力しながら"翼のあるネズミ"の正体を突き止めることに。
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"翼のあるネズミ"から連想できるのは、ペンギン。ペンギンの名を持つ裏社会の人間は、オズワルド。
オズワルドを追い詰めたバットマンとゴードンは、彼が【ドロップ】の新たな元締めだと知るが、"翼のあるネズミ"ではないと否定する。
オズワルドは、リドラーの残したYou are el rata alada(お前は“翼のあるネズミ")というメッセージの解釈を、バットマンは間違っていると指摘。
これはrata aladaというURL(You are el)にアクセスすることを示していた。
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URL先でリドラーから新たなメッセージを受け取り、バットマンは父・トーマスの建てた孤児院の廃墟に向かう。
廃墟には「親の罪は子に報いる」と落書きがあった。リドラーはトーマスが汚職に手を染めていたと誤解し、さらにはバットマンの正体も知らないため、ブルースを次の標的にしていた。
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バットマンがそのことに気づいた時には時すでに遅し。
ウェイン邸にプラスチック爆弾が届けられ、アルフレッドが爆発に巻き込まれて昏睡状態に。
バットマンは、両親に関するメッセージをリドラーから受け取る。
リドラーによると、トーマスは20年前にスキャンダルを握り潰すために記者・エリオットの殺害をファルコーネに依頼したという。
絶望したバットマンは、回復したアルフレッドに知っていたのか尋ねる。アルフレッドは「トーマスは殺害を命じていない。殺しを知ったトーマスは自首を決意していたが、その直後に殺された」と返す。
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セリーナに呼び出されたバットマンとゴードン。
アニカは既に殺されていたが、セリーナに留守電を残しており、そこには殺される瞬間の音声が残っていた。
そこからファルコーネと汚職刑事・ケンジーが殺害犯だと突き止め、ケンジーを拘束していた。
ケンジーは、"翼のあるネズミ"がファルコーネで、アニカに知られたため殺したと告白。
20年前、トーマスとマーサのウェイン夫妻が殺害されたことにより、彼らが所有していた街の再開発基金10億ドルをファルコーネとマローニが狙った。
再開発基金は当局の監視がないため、マネーロンダリングに好都合。強欲なファルコーネは、当時は仲間だったマローニを追い出すことを画策し、市長や市警幹部、検事局の上層部を買収。その中には、リドラーに殺されたミッチェルやサベージ、コルソンも含まれていた。
マローニは仲間に裏切られて逮捕され、ファルコーネはあらゆる権力の黒幕としてゴッサムを牛耳るようになった。
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ゴードンは、アニカの留守電を証拠として提出し、ファルコーネを殺人犯とて手配。そして、この証拠によってファルコーネが"翼のあるネズミ"であると公表される。
その頃セリーナは、アニカのために父・ファルコーネを殺害しようとするが、バットマンに阻止される。バットマンはファルコーネを捕らえて市警に引き渡すも、リドラーによって狙撃される。
ファルコーネは死亡し、バットマンは指名手配を撤回される。
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どこにでもいる平凡な男に見える
直後、リドラーが自首してくる。
リドラーの正体は、会計士のエドワード・ナッシュトン。
孤児院育ちのエドワードは会計士になった後、再開発基金が悪用されていることを知った。元々再開発基金の一部は孤児院の運営に回されていたが、ウェイン夫妻が死んだことで孤児院は見捨てられた。エドワードは、誰も関心を持たない孤児たちのために復讐を実行し、そしてゴッサムをクリーンにするために犯行に及んだ。
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これで終わりとは思えないバットマンは、エドワードの家を調べる。
すると、彼が防波堤を爆破してゴッサムを海に沈める計画を立てていると判明。さらにエドワードは、信奉者を集めて銃乱射事件を画策しており、エドワード自身が捕まることで警察の捜査を自分に集中させることが狙いだった。
信奉者たちは、避難所となるゴッサム・スクエア・ガーデンを襲撃する役割。
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防波堤は爆破され、ゴッサムは浸水。
信奉者たちによるベラ暗殺を阻止したバットマンは、子どもたちの先頭に立って陸地へ進む。
バットマンは、ゴッサムの人々に恐れられる存在からほんの少しではあるものの"ゴッサムの希望"になる。
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友人を失い、ファルコーネへの復讐も果たしたセリーナにゴッサムに残る意味はなく、街を見限って出て行き、ブルードヘイブンを目指す。
【アーカム・アサイラム】に収容されたエドワードは計画の失敗に絶望するが、隣の房に収容された囚人・ジョーカーから「復活すれば良い」と言葉をかけられる。
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ゴッサムの裏社会のトップが空席となり、オズワルドはその座を狙って準備を進める。
貧困街のクラウン・ポイントは治安がさらに悪化し、富裕層の暮らすゴッサム・ハイツやブリストルはノーダメージという皮肉なオチもついている。
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