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好きなカレー屋さんの話

「本日も植物によるモジュラーシンセの演奏をお楽しみください」
SOMAカレーのテーブルにはそんなメッセージが置いてある。

自作のカレーはしょっちゅう食べる。
あまり外に食べに行くことはないのだが、それでもこちらには定期的に通っている。
好きなんですよねえ。

※SOMAカレーはいわゆる、スパイスカレーのお店です。

古民家を改装した店舗の引き戸をガラガラと引いてお店に入る。
独特な雰囲気な店内の天井からは、鋲が沢山ついた革ジャンが垂れ下がっている。
ちなみに、ハンガーなどに引っ掛けてあるわけではなくて、本当にただ垂れ下がっているのだ。
加えて、沢山の植物が店舗の内外に沢山置かれている。

冒頭に書いたモジュラーシンセについて少し触れておく。
植物の葉に電極を取り付け、導電率の変動を音に変換して植物に「演奏」させるデバイス、それが「植物のモジュラーシンセ」らしい(この前、初めてモジュラーシンセについても調べた)。

ここでは静かに食事をしなきゃいけない気がしてして、1人若しくは、小声の友人(自分のことを棚に上げておいて、何なのだが)を誘う事にしている。

いつも辛味が効いた3種類のスパイスカレーをあいがけにして食べる。 
その中でも特に好きなのが、花椒が効いた豆腐のカレーで、正直これを食べに来ていると言っても過言ではない。
バランスの良い痺れと辛味の中にある豆腐は、絶妙な温度に温められていて、限りなくフワフワだ。
カレー屋で出されている豆腐とは思えないぐらい豆腐に気が使われている。
ポイントはカレーじゃなくて豆腐かい、って突っ込まれるかもしれないが、結局は細部をキッチリ作ると良いものが出来る。

カレー、天井の鋲付きの革ジャン、モジュラーシンセ、寡黙なご店主、ふわふわ豆腐。
絶妙なバランスで成り立っているこの店はわたしのお気に入りだ。

この日は小声の友人と共にカレーに食べてお店を後にした。 
もう少し時間があったので、腹ごなしにダラダラと梅田まで歩いてお茶でもしようという事になった。
が、ビルが乱立したオシャレなお店だらけの梅田は何だか面白くなくて少し味気なさを感じる。
革ジャンもふわふわ豆腐もモジュラーシンセも見つけられない。

「これからも面白い感覚を面白がりたいよね」、と小声の友人の声は少しだけ大きくなった。
うん、確かにそうだよね。
梅田のオシャレなカフェでぬるい紅茶を飲みながら、わたしは思う存分大きな声でそんな話をした。