人は「経験」を振り返ることでしか学べない!/高須邦臣さん(三井物産人材開発株式会社 マネジメント人材開発室 室長)
高須邦臣さん プロフィール
三井物産人材開発株式会社 マネジメント人材開発室長
商社・ベンチャーでの起業・プロフェッショナルファーム等を経て、三井物産グループに参画。2019年より現職。
多様な経験やバックグランドを踏まえ、Talent Development(人材育成)やOrganization Development(組織開発)に従事し、前職ではEY(Ernst & Young)のJapan AreaにおけるTalent Development Leadを務める。
慶應義塾大学SFC研究所 キャリア・リソース・ラボラトリー修了
キャリアコンサルタント(国家資格)、生涯学習開発財団認定コーチ
(豊田)
こんにちは!スパイスアップ・ジャパン代表の豊田圭一です。
「人事」のHRと「トランスフォーメーション」のXを掛け合わせて「HR-X」と名付けた当チャンネルは、「トランスフォーメーション人材で組織を変革する」をスローガンに、「人事」と「トランスフォーメーション」、つまり「変革」というキーワードで様々な取り組みをしているゲストをお迎えしてお話を伺っていきたいと思います。
今回のゲスト、Mr. Xには三井物産人材開発株式会社 マネジメント人材開発室 室長の高須邦臣(たかす・くにおみ)さんをお迎えしました。
高須さん、今日はよろしくお願いします。
(高須さん)
よろしくお願いします。
(豊田)
まずは簡単に自己紹介をお願いできますか?
(高須さん)
はい、分かりました。
なかなかいい歳なんですけど、キャリアの前半は経営企画・事業戦略を主に担当しておりまして、ここ15年くらい人事の領域に入っておりまして、長らくErnst & Young、外資のプロフェッショナルファームでTalent Developmentを担当していました。
直近は三井物産の人事機能会社で人材育成・組織開発を担当しております。
(豊田)
今もお話いただいたように、外資系ファームの人材開発の責任者をしていらっしゃって、そして今は日系の超大手商社の人事機能会社のゼネラルマネージャーをやってらっしゃいますけど、会社による一番大きな違いはどんなところがありますか?
人は「経験」を振り返ることでしか学べない!
(高須さん)
そうですね、一番大きいのはやっぱりプロフェッショナルファームはスペシャリストを育成していくという観点ですし、かたや総合商社の方はゼネラリストを育成していくということになりますので、根本的な育成の仕方、考え方が大きく違うというところはありますね。
(豊田)
全く違う業界にやってきたわけですけど、かたやスペシャリスト、かたやゼネラリストという中で、人材開発やっている立場として考え方はあまり変わらないですか?
(高須さん)
そうですね、基本的なところはそんなに変わらないですけどね。
ゼネラリストの場合は新卒一括採用で、素養があって適性の高い人材を採用していて、そこをしっかりキャリアデベロップメントプログラムに乗せていくという、ある意味小さい子供を育てるように接していくというところがあります。
かたやプロフェッショナルファームは入ったその日から「君、プロだよね!」というようなスタンスでやっていくので、まずそこからの関わり合い方が違うんですけど、基本的なところは一緒かなという風に思いますけどね。
(豊田)
そういう共通点もある中で、人事・人材開発のプロの視点から見て、今の組織の課題感だとか、あるいは組織だけではなくビジネスパーソンとしての課題感みたいなところ、高須さんはどんな風に感じていますか?
(高須さん)
昨今の文脈ですと経験学習みたいなものがすごく大きく取り沙汰されていると思うんですけど、やっぱり私は業界・職種問わず、人って「経験」を振り返ることでしか学べないと思っているんですよね。
そこで振り返ることで成長をしていくかということをベースに考えると、いかに「経験を積める場」を組織として提供してあげられるかだと思っていて、特に私が直近いた2つの組織は母体が大きいので、なかなか若手にそういう場を与えづらい状況になってきて、特に権限委譲ができないという難しさは感じていますよね。
私よく決断経験値って言葉を好んで使うのですけども、結局自分で決断しないと、成長の糧にならないと思っているんです。
うまくいっても上司のおかげ、失敗したら上司のせいなので、結局自分には何も残らないんですよね。
どんなに小さな決断でもいいので、自分で決断させて成功することも失敗することもあると思うんですけど、その中から学んでいくという、そういう意味では小さな決断をたくさんさせてあげられるような場をいかに作ってあげられるかというのが、今は大きな課題かなと思っています。
「決断経験値」を高めることが重要!
(豊田)
ちょっとざっくばらんに聞いてしまいますが、小さい決断をさせる場を提供することってできるんですか?
(高須さん)
個人的にはできると思っています。
上司の差配次第ですけど、もちろん大きなプロジェクトで決裁や判断していいよというのはできないと思うんですけど、日々小さなところで月並みですけど、上司がこうしろと指示するのではなく、本人に考えさせて本人なりに小さな決断をさせていくっていうことがすごく大切かなと思っています。
(豊田)
今の高須さんの話を聞きながら思ったのですが、私はグローバル人材育成をやっているので、初めて海外駐在する人の3つの関門というか難関があると思っていて、海外駐在やっていけるかな、不安だなと言う人が一番最初に言うのは「私、英語得意じゃないです」みたいなことを言いますよね。
その次に海外の経験が少ないから現地の人とやっていけるかなというのがあって、赴任前研修で異文化理解みたいなことをやりますけど、私は言語と異文化理解という2つの要素は大したことないと思っていて、実際に1ヶ月生活すれば普通に買い物をして、出歩いて片言でも何とかコミュニケーションを取り始める、異文化理解だって1ヶ月、2ヶ月もすればこっちの人はこういう人だなって思い始めるみたいなことがあるんですけど、3つ目の関門でこれが一番大きいかなと思っているのが、マネジメント経験がないことだと思ってるんですね。
(高須さん)
あー、はいはいはい。
(豊田)
やっぱり日本人の平均年齢48、49歳と高いのですが、新興国の平均年齢が20代だったりすると日本人が35歳若手です!って赴任しても全然若手じゃないぞって。
(高須さん)
あるあるですよね!
(豊田)
あるあるじゃないですか!
「すみません、私、若手なので勉強させてください!」って言っても、「あなたマネージャーですよね?」ということもある中で、決断経験値が少ないと日本というホームな場所、あるいは日本で所属している場所ではないところ、異国の地に行って、「決断!決断!決断!」って、駐在員になったらポジションが2つくらい上がりますから、その中で決断しろっていってもそういうのも経験値だから、そこが一番大きいかなと思っていますよね。
(高須さん)
そうですよね。
結局、人は体験したことしか想像できないと思うんですよね。
なので、そういう大変な思いを知らないとそういうことを想像できないし、今お話しいただいたように実際に現地に行っても対応できない、それ故に擬似的にでもそういう「場」を作ってあげるとか、何かしらストレッチ・アサインメントを与えて、その体験をさせていくということをしていかないと人ってなかなかトランスフォームしていかないんじゃないかなというのはありますよね。
セルフ・スターターか?コ・ワーカーか?トランスフォーマーか?
(豊田)
グローバルという観点だけじゃなくても、最近は本当に変化の激しい時代という風に言われていますけど、ついつい講演とかでもそういう話をしちゃうのですけど、常に世の中は変化しているだろという話もあるのですけど、でも特に今年は新型コロナウィルスの影響もありましたから、世界的にガラッと世の中の様相が変わった中で、人事・人材育成も実際にデリバリーの仕方とかもガラッと変わったりもしましたけど、変化が速くて激しい時代に必要な要素というか組織であったりビジネスパーソンが意識しないといけないこと、課題感などはありますか?
(高須さん)
そうですね、個人的には特段この状況だからということはないんですけど、新卒でもキャリアでも採用する時に、3つ見ているポイントがあって、「セルフ・スターターか?コ・ワーカーか?トランスフォーマーか?」と、この3つなんですよね。
まさに今のコロナ禍において必要な3つかなと思います。
主体的に自分から動けるか、周囲を巻き込んで協働できるか、変革を楽しめるかみたいなところで、特にこれまでってタフな場を作っても、自らアウェイの場に臨む人と躊躇する人がいるわけじゃないですか。
ただコロナの場ってもれなく一瞬にしてアウェイの場に追い込まれているわけですよね。
(豊田)
否応がなくですよね。
(高須さん)
もうやるしかないってなった時に、ここで本当にどういう風な適応ができるかというところは、すごく分かりやすく見えてくる感じはしてますよね。
(豊田)
たしかにこれまでのようにコロナがなければ、「お前、変革楽しめよ!」って言っても、いや私はそういうのあまり楽しめないんです、みたいなことがあるのですけど、否応がなくそうなってしまったので、楽しむも楽しまないも、適応するしかないという状況を人事・人材開発的にはポジティブに捉えて、誰もに場が置かれたんだっていう捉え方なんですか?
(高須さん)
そうですね、無理やりそういう状況になってしまったというところだと思うので、もう否応がなくですね。
(豊田)
そういう意味では、先ほど来お話しいただいていますけど、私たちを取り巻く環境なり課題を解決するために、高須さんがお考えになるやり方はどういうものでしょうか?
(高須さん)
人材育成という観点で言うと、個に対するアプローチと組織に対するアプローチがあると思うのですけど、もちろん個の成長支援というのはすごく重要なことだと思うのですけど、個人的にはそこってある程度限界があるなって思っているんですね。
個を鍛えると共に、組織として強くしていかないとというところがあるので、先ほど申し上げた通り、やはり組織としてタフなアサインメントをしてあげるとか、擬似体験をするという場をいかに作ってあげられるかというところが1つと、あとは最近個人的に人材育成をする際に、サイエンスとアートの両方をきちんとみていきたいなと思っています。
(豊田)
それはどういうことですか?
(高須さん)
そんな大層な話ではないんですけどね。
昔ながらの感情論ではなくて、例えばどんな育成のアプローチを取るにあっても、そのベースとなるアカデミックな理論や知識、科学的手続きみたいなデータに基づいたものをきちんとやりますと。
一方で育成ってやっぱり現場主体なので現場感、プラクティスをちゃんと積み上げるのも重要だと思っているので、この2つのバランスを意識しながら、育成される方も「なんでこんなことやらないきゃいけないの」、ではなく、これはこういうことだから必要なんだよってアカデミックな裏付けを常に示してあげるというところが必要かなと思っているんですけどね。
もしかしたら豊田さんもそうかもしれませんが、難しいのが人材開発や組織開発の領域の人って結構お勉強好きが多いので、ややもするとサイエンスに寄りがちになってしまうので、そこだけは気を付けないといけないです。
基本は現場だ!というところで人材開発担当者のマスターベーションにならないようなところだけは意識しながらやっていきたいなと思います。
(豊田)
実際、私たちが対象しているのも人間ですもんね、ロボットではなくて。
1人1人違いますし、当然組織だって1つ1つ違うから、それを見誤っちゃいけないし、サイエンスだけではないし、こうすれば正解というものはないわけですからね。
時代背景も違うし、環境も違うし、そして1人1人も違うから本当試行錯誤かなという気もしますけど。
(高須さん)
そうですね、これまで以上に1人1人を見る、解像度のようなものを上げていって、その上で「どういうアプローチがいいんだろう?」と考えてあげるということがこれまで以上に必要になってくるかなって気はしています。
(豊田)
高須さん、今日は本当にありがとうございました。
聞きながらめちゃくちゃ勉強になっている気がしています。
(高須さん)
本当ですか?
(豊田)
またこれからも色々情報交換しながら一緒に何かできればなと思っていますので、ぜひよろしくお願いします。
今日はどうもありがとうございました!
(高須さん)
こちらこそありがとうございました!
(豊田)
さて、HR-Xではこれからも「人事」と「トランスフォーメーション」というキーワードで、様々なゲストをお呼びしてお届けしたいと思いますのでよろしくお願いいたします。
高須さん、今日はありがとうございました!
豊田圭一(株式会社スパイスアップ・ジャパン 代表取締役)
上智大学を卒業後、清水建設に入社。約3年の勤務後、海外留学コンサルティング事業で起業。以来、25年以上、グローバル教育事業に従事している。
現在、国内外で「グローバルマインドセット」や「変革マインドセット」を鍛える研修を実施する他、7ヶ国(インド、シンガポール、ベトナム、カンボジア、スリランカ、タイ、スペイン)にグループ会社があり、様々な事業を運営している。
2018年、スペインの大学院(IE)で世界最先端のリーダーシップ修士号を取得。
2020年に神田外語大学グローバル・リベラルアーツ学部の客員教授に就任。
著書は『とにかくすぐやる人の考え方・仕事のやり方』『ニューノーマル時代の適者生存』など全19冊。
早稲田大学トランスナショナルHRM研究所の招聘研究員、内閣府認証NPO留学協会の副理事長、レインボータウンFMのラジオ・パーソナリティも務めている。
豊田が2020年6月に出した著書『ニューノーマル時代の適者生存』
株式会社スパイスアップ・ジャパン
公式ウェブサイト https://spiceup.jp/
公式フェイスブック https://www.facebook.com/SpiceUpJP/
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