izonのスパイスカレー42皿目 イギリスカレー
今日は2022年11月に提供していたイギリスカレーを紐解いていきたいと思います。
2022年9月にエリザベス女王がお亡くなりになり、10月にはインドにルーツを持つスナク新首相が誕生、サッカー日本代表の三苫薫がブライトンで大活躍、など、イギリス関連のニュースをよく見かける時期だったということもありカレーのテーマにイギリスが選ばれました。
イギリス料理といえばフィッシュアンドチップスくらいしか思いつかないですが、どんな感じになったのでしょうか。
完成したカレーがこちら。
メニューを当時のインスタから引用。
まずはイギリス式ビーフカレーから。
どのあたりがイギリス式かと申しますと。
19世紀初めごろ、イギリスのC&Bという会社が、インドから持ち帰ったパウダースパイスをいい塩梅に配合した、世界初となるカレー粉「カレーパウダー」を販売しました。
これをきっかけにイギリス庶民にカレー文化が広がり、エリザベス女王の高祖母(おばあちゃんのおばあちゃん)ヴィクトリア女王にも献上されたという記録が残っているようで、当時のイギリス王室の方々も食べたみたいです。
このC&Bのカレー粉が明治時代にイギリスから日本に伝わり、日本にもカレー文化が輸入されたのですが、昭和9年に事件が起こります。
当時、レシピ秘伝の最高級品とされたC&Bのカレー粉の中身が、日本人の調合した国産カレー粉に偽装されていたことが発覚。
偽装はよくないことですが、それよりももっと重大だったのが、「カレー粉の味の違いに気づかなかった料理人たち多数」だったことでした。
その結果、「わざわざイギリスの高いやつ使わんでも日本のやつでええやん」ということになり、料理人たちは国産のカレー粉を使うようになっていきました。
日本人のスパイス研究は、昭和25年にエスビー食品から発売された赤缶(S&Bと表記された赤い缶のカレー粉)に極まり、それからカレールーを使った各家庭のカレー、喫茶店のカレー、カレーうどんカレーそば、日清カレーヌードル、包丁人味平でのカレー戦争、レトルトカレー、などの日本独自のカレー文化が醸成されていくことになりますが、そっちの話はキリが無いので置いておいて、「カレー粉の原点はイギリスのC&Bであり、明治時代の日本人はそれを模倣した」というところに話を戻します。
C&Bのカレー粉をぺろっと舐めて、ああでもないこうでもないと暗中模索した日本人が昔居たんですね。
C&Bの缶に模倣品を詰めたのはお金目的なのか、スリルを感じたいがためなのかはわかりませんが、バレちゃった結果、日本のスパイスブレンダーの優秀さを証明することになった訳です。
そのエピソードを知ったヨシフジ君は「俺もやってみよう」ということになり、C&Bのカレー粉を舐めて独自にパウダースパイスを調合。
本家に寄せたオリジナルカレー粉をブレンドし、小麦粉とバターを使ったイギリス式のビーフカレーを作りました。
普通のビーフカレーかと思いきや、作った経緯にはかくかくしかじか色々あったのです。
続いてチキンティッカマサラ。
時は1960年代。
ビートルズの時代です。
イギリスのインド料理屋で、インドのパンジャーブ州の名物料理の「チキンティッカ」という鶏肉料理を提供していたところ、「パサついているからカレーをかけよう」ということになり、「チキンティッカマサラ」が生まれたというエピソードがあります。
同じく1960年代に、イギリスの新首相スナクさんのおじいさんは東アフリカからイギリスへ渡りました。
おじいさんはインドのパンジャーブ州出身です。
チキンティッカマサラの誕生に関わっているのではないかと推測してしまいたくなるような経歴ですね。
スナクさんはイギリス出身で経済学や政治学を学び、エリート金融マンから政治の世界へ。
イギリスの首相にまで登り詰めることになりました。
チキンティッカマサラもスナクさんも共に『インドのパンジャーブに源流を持ち、イギリス文化の中で花開いた』という共通点があるということで今回のメニューに採用となりました。
続いてマリガトーニスープ。
写真ではカトリと呼ばれる器に入っている黄色いスープです。
インドではラッサムというスープがよく飲まれます。
日本の味噌汁のような感覚でしょうか。
ラッサムはタマリンドという酸味のあるフルーツを使って作るスープですが、イギリス人向けにリンゴとレモンで代用して作られたのがマリガトーニスープです。
今回の「イギリス式ビーフカレー」と「チキンティッカマサラ」は2種とも重ためのカレーでしたので、水分量と食べやすさのバランスを取る意味でも飲んでもよしカレーと混ぜてもよしのマリガトーニスープを採用しました。
続いて副菜3種。
ジャガイモとツナのサブジは「ジャケットポテト」というイギリス料理から着想を得たものです。
「ジャケットポテト」は皮つきのジャガイモに十字に切れ目を入れ、何かをトッピングしてオーブンで焼く、というシンプルな料理です。
今回はツナをトッピングしてスパイス炒め煮のサブジにしました。
ホースラディッシュとキウイのチャトニはイギリスのローストビーフ文化から。
以前のイギリス上流階級の人々は、休日に自宅でローストビーフを焼く「サンデーロースト」を執り行うのがステータスだったようです。
ローストビーフに欠かせないのがホースラディッシュという西洋わさび。
キウイと合わせてチャトニにして、カレーの中に酸味と甘みと辛味のアクセントを添えました。
ちなみに、余ったローストビーフや切れ端を使ってビーフカレーを作るのがイギリス式のビーフカレーの始まりだそうですが、現代では「サンデーロースト」が廃れてしまったため、イギリス式ビーフカレーを各家庭で作ることはほとんどないみたいです。
日本人からすると、家カレーが廃れていくのはなかなか信じがたいですが、スーパーマーケットにカレーパウダーしかなかったら面倒でカレー作らないだろうなあ、とも思います。
やっぱりカレールーは偉大です。
カチュンバは定番の角切り野菜のサラダ。
トッピングのローストビーフは「サンデーロースト」から。
鱈のスパイスフリットは「フィッシュアンドチップス」から。
ビールで溶いたスパイス衣でサクッと揚げて、ふわふわの仕上がりに。
エリザベス女王やスナク首相をテーマにしようとしたら、エリザベス女王のおばあさんのおばあさんがインド帝国初代女王で世界初のカレー粉と縁があったり、スナク首相のおじいさんがチキンティッカマサラとルーツを同じくする人だったりと、話題の人を扱っているはずが自然とイギリスカレー史に合流する、という不思議。
結果的に、イギリスで生まれたカレー2種類とスープ1種類、副菜はトラディショナルなイギリス料理をスパイスアレンジするという正統派な構成になりました。
イギリスには掘り下げ甲斐のありそうなテーマが他にもたくさんありますので、また次回イギリスを扱うことがあれば全く違ったカレーができるのではないかと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。
また次のカレーでお会いしましょう。
ではまた。