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スピカのこと

本が好きで活字が好きな自分にとって、言葉は何よりも価値のあるものだ。

たった一行に惹かれて好きになった本はいくつもあるし、活字中毒が今よりずっと顕著だった幼少期は、ごはん中に文字が読めないことすらもどかしくて、何か面白いことが書いていないかとパッケージの裏面表記をなめるように読んでいた。
ただ読むだけではなく、お守りみたいにしている言葉もいくつかある。
そのうちの一つが、スピッツの「スピカ」という曲の一説だ。
 

やたらマジメな夜 なぜだか泣きそうになる
幸せは途切れながらも 続くのです

スピッツ『スピカ』
(ポリドール 1998年)

椎名林檎のカバー版で偶然聞いたその曲のサビは、「単調な曲だなあ」と途中まで舐めたような態度で聞いていた学生時代の自分を、あっという間に手のひら返しさせ、一瞬で好きにさせてしまうくらいインパクトがあった。今も私のお気に入りの曲だ。
『自分以外の同世代は、”いつも”、”みんな” 幸せで楽しそう』
という妄言に駆られていた学生時代の自分を振り返ると、Instagram もTiktok もある現在、今の子たちはなんて難易度の高い世界で生きているのだろう、と思う。
隣の芝は青いと言うけれど、近くて青い隣の芝は、誰かの毒にだってなる。
 

そんな時に出会ったのが前述した曲の歌詞だった。
「幸せは途切れながらも続くのです」という歌詞は、すれてひねくれていた学生の自分にとってお守りみたいな言葉だった。

変わるもの、誰かの幸せな様子、そのすべてと自分を比べて悲しくなっていたけれど、笑っているあの子も自分の知らないところで泣いているかもしれなくて、今の私の状態も永遠ではなくて、まさに「途切れながらも続く」という言葉は、幸せな時も不幸せな時も、過剰になりすぎない適切な距離で肯定し、慰めてくれる言葉だった。

「スピカ」という、一等星の名を冠したその曲のタイトルは、不安な夜を照らす一筋の光も表しているようで、穏やかでやさしいその歌は、今も気づけば口ずさんでしまう。
今回初めてzineを作るぞという段で、『そうだ、お守りみたいなことをまとめた本を作ろう』と思った。好きなものはいつだってお守りになる。永遠には続かないけれど、途切れながらも続く日々の、一筋の光になると思う。
調べてみたら、スピカという星は「おとめ座を構成する春の星」という記述もあって、おとめ座の母親から春に生まれた私にとって、ぴったりの名前だなと思った。
 
そんな「スピカのこと」を、拙いながら書いてみたい。

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