受け継ぐ意志は、美しさを紡ぐ。
桜の季節がやってきた。写真好きにとってはせわしない日々が待ち受けている。SNSの存在が日常となってしまった昨今は、自分が思いつく以上の撮影ポイントを目にすることとなる。そんな、人を動かすほどの魅力ある桜のほとんどは人工的につくられたクローンだ。
クローンとは同じ遺伝子をもつ生物のことで、日本でみられるほとんどの桜は「ソメイヨシノ」と呼ばれる桜だ。「エドヒガン」と「オオシマザクラ」という日本産の原種から交配され、江戸時代末期に誕生した。明治以降は接ぎ木により、全国的に広まることとなる。
接ぎ木〈つぎき〉は、2つ以上の植物を接着して新たな個体にする技術のこと。植物の枝や芽を切り取り、ほかの植物の枝や幹に接ぎ合わせる。人間の傷口が癒えるように、植物も癒合により 繋がっていく。栄養が通い成長が促されることで、一本の木として成長していくのだ。
「ソメイヨシノ」ときくと奈良県の吉野を思い浮かべるかもしれないが、吉野の桜はクローンではなく自然に咲く原種だ。吉野の桜が色とりどりに咲き、花開くタイミングもそれぞれなのは、人為的に整えられていない自然交配だからである。
豊島区駒込が染井村だった頃、地域の植木職人がソメイヨシノを売りに出したことからその名が広まった。桜の原種は開花まで10年ほどかかる。〈桜の原種は9種類:山桜・大山桜・霞桜 ・大島桜・江戸彼岸・丁字桜・豆桜・高嶺桜・深山桜〉ソメイヨシノはだいたい2年で咲く。
桜は文化的にも趣深い。日本の歴史でもっとも古くから存在が確認されているのが枝垂桜で、平安時代の文献で確認されている。江戸時代の浮世絵をはじめ、万葉集に44首、古今和歌集に70首ほどの桜が登場する。
風景画で有名な歌川広重。間違いなく江戸時代のインフルエンサーだ。彼の作品に「名所江戸百景」という浮世絵の集大成があるのだが、桜の風景が4枚ある。
①千駄木|団子坂花屋敷
②玉川堤
③上野|清水堂不忍池
④隅田川|水神社
東京の桜が描かれているのだが、時代の流れには逆らえず、今と江戸時代とでは描写された環境がずいぶんかけ離れているものもある。
桜は陽樹といわれ、日の当たる場所を好む。沖縄県の寒緋桜が1月に咲き始め、北海道で大山桜が実るのが5月頃。関東は2月上旬から4月下旬頃。寒暖差とともに桜が咲いていく様子を桜前線というが、日本人にとって「暖かくなっていくよ」という自然からのサインなのだ。
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