Spica Works

写真と文章、どちらも自分で手がけるからこそ伝わることがある。 写真好きライターによる視点で、芯のあるコラムをお届けします。

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最近の記事

【コラム】国立科学博物館で恐竜を撮る

恐竜の骨を写真で撮りたい。カメラで撮影対象を想像するとき、ゆっくり、ぼんやり、撮影対象は浮かんでくる。そんなこんなで、今回のお写んぽに選ばれたのは「化石」だ。ティラノサウルスが吠えてるところを正面から撮りたくなったのだ。 東京都台東区の上野公園内には、美術館や博物館がいくつもある。上野駅から歩いて15分程度でアクセスできるところに「国立科学博物館」がある。ここでは科学や物理学の基本が学べたり、恐竜の骨や太古の生命体の化石、動物のはく製などが閲覧できる。 だが、事前に調べず

    • 【コラム】火渡り神事の話|台東区の秋葉神社で火渡る民を撮る

      日本は、日出づる国であると同時に、火出づる国でもある。このような言い回しをするのは、日本はあまりにも火にまつわる話が多いからだ。日本の寺社仏閣で、「火」にまつわる神社といえば、「火之迦具土神〈ヒノカグツチノオオカミ〉」を主祭神とする秋葉神社がある。 秋葉神社の総本山は、山梨県浜松市にある秋葉山の山頂に建立されている。秋葉山自体が御神体とされており、仏教・修験道・神道のそれぞれが、秋葉山を信仰の対象としてきた。仏教・修験道からは「秋葉大権現」として、神道からは「火之迦具土神」

      • 【コラム】紅葉時期に華厳の滝を撮影するということ

        紅葉時期に写真を撮りに行く。それは、幾重にも重なる条件を突破し、撮影できる視点を確保できたものにのみ許される、移ろいゆく時間からの褒美である。カメラを趣味にしていると、春の桜・秋の紅葉の撮影には、季節の境界線を見誤らないセンスと、あらかじめ想定していたプランを達成させるための体力が必要だ。 今回の目的は、秋色の華厳の滝を俯瞰して撮影すること。華厳の滝での撮影を挟むように、前日の夜は戦場ヶ原で星景写真を撮影し、華厳の滝の撮影後は、日光東照宮で撮影する予定を立てた。本コラムでは

        • 【コラム】星景写真の話|日光の戦場ヶ原で星空を撮る

          10月も後半に入り、気温も低い日が増えてきた。東京の街路樹はまだ色づいてないが、アルプスや北関東の一部ではすでに紅葉が始まっている。10/24・25のタイミングで、北関東を代表する紅葉スポットの日光へ向かった。 日光の紅葉といえばいろは坂を登った先にある華厳の滝や中禅寺湖周辺を拠点にする人も多いはず。みんな色づいた景色と壮大な自然を写真に収めたいのだ。渋滞のメッカともいえるいろは坂で、効率的に立ちまわるには当日に向かうのではなく、前日からの待機がベストだ。 25日の紅葉を

          【コラム】お酒の話|カテゴリーごとに振り分けてみた

          世の中にはいろんな種類のお酒がある。ビール・日本酒・ウィスキー。アルコール類に振り分けられるこれらの飲み物は、国や地域で名産品として旗揚げされたり、時期によって味が変わったりする。今回はお酒についての話しをする。 好きなお酒は人それぞれだが、20歳を超えてから嗜むことができるお酒という飲み物の種類は多岐にわたる。似たような言葉が隣接し、どの言葉がどのカテゴリーに織り込まれるかわからない。蒸留酒・果実酒・日本酒...。語尾になんでも「酒」という言葉で締められる。 お酒の分類

          【コラム】お酒の話|カテゴリーごとに振り分けてみた

          【コラム】人形供養と文化的背景

          上野公園内の清水観音堂では、毎年9月末に人形供養が行われる。古くから子供の成長や健康を願う存在としての役目を終えた人形たちに感謝を捧げ、別れを告げるための儀式をするのだ。日本人形やお雛様、五月の節句に飾られる武者人形などが供養の対象となる。 七五三の祝いに贈られる市松人形や、ひな祭りに飾るお雛様、そして五月の節句に掲げる武者人形は、家族の願いを表現している。供養という行為を通して、これらの人形たちは家族に寄り添い、子供たちの成長を見守り続けてきたその役目を終え、静かに送り出

          【コラム】人形供養と文化的背景

          【コラム】浅田彰の『構造と力』から学ぶ、思考の構造転換

          現代社会において、人間は目の前にあるものや、既知の事項にばかり意識を向けがちだ。「人間は知っていることしか知ろうとしない存在である」と喝破しているのは、フランス人哲学者のポンティやドイツ人哲学者のカントである。だが、その先にある「知らない世界」を認知しようとしなければ、知識は拡張されず、新たな視点は養われない。 では、未知の領域にどう踏み込むのか。それには「視点」の転換が必要不可欠だ。言語もまた、その象徴的な役割を果たしており、思考のフレームを形成するツールとなっているのだ

          【コラム】浅田彰の『構造と力』から学ぶ、思考の構造転換

          【コラム】鎌倉の御霊神社で受け継がれる面掛行列と歴史

          毎年9月18日に神奈川県鎌倉市にある御霊神社では例祭が開かれる。窯で煮たてたお湯を使って占いや無病息災を願う祈祷などを「湯立神楽」として披露したり、御霊神社が鎮座する坂ノ下町一帯を練り歩く「面掛行列」が披露される。今回は面掛行列についての話だ。 面掛行列とは、能面をつけた10名が隊列をなして、坂ノ下町一帯を行進するイベントのこと。時代劇や舞台などで垣間見られる天狗のお面や強面の鬼面などの10種類のお面が登場する。通常は御霊神社の宝物庫で保管されており、本物のお面をつけての行

          【コラム】鎌倉の御霊神社で受け継がれる面掛行列と歴史

          【コラム】鎌倉の御霊神社で受け継がれる神楽と祭り

          神奈川県鎌倉市にある御霊神社では、毎年9月18日に例祭として、神楽と面掛行列が催される。神楽は御霊神社内で全10座が披露され、面掛行列は能面をつけた10名が1時間ほど隊列をなして坂ノ下の町を行進する。 御霊神社内で披露される神楽は「湯立神楽」と呼ばれるもので、文字通りに窯でお湯を沸かし、神職はお湯を使って神様との共楽を催すのだ。神様を地上へ招き入れるための領域が縄と台座で区画されており、神様が宿る御幣が設けられている。 披露される全10座の神楽にはそれぞれに目的がある。演

          【コラム】鎌倉の御霊神社で受け継がれる神楽と祭り

          【コラム】気象とは、変化し続ける複雑な循環システムである

          風は、太陽光が大気を熱した結果によるものだ。太陽光そのものが直接大気を動かしているわけではなく、太陽光により熱せられた海面が蒸発し、空気が膨らみながら上昇する。上昇した空気は上空で冷やされ、より温度が低い方へと流れていく。これが循環のはじまりであり、風の発生メカニズムだ。 1m²の面積に加わる大気の圧力を気圧というが、とある2つのポイントの気圧を比べると、より大きい数値・より小さい数値が割りだされる。小さい数値のポイントから大きい数値のポイントを眺めたときに高気圧と呼ばれ、

          【コラム】気象とは、変化し続ける複雑な循環システムである

          【コラム】上野のアートで自然に寄り添う『大地に耳をすます|気配と手ざわり』

          東京・上野に、自然に寄り添った作品たちが集結している。「大地に耳をすます 気配と手ざわり」というタイトルで、5名のアーティストがそれぞれ自然をテーマにして、インスタレーションや写真、ドローイング、ライブペインティングなどで表現されているのだ。 展覧スペースへ足を踏み入れると川村喜一のインスタレーションが視界に入ってくる。入場料の1100円を支払いエスカレータを降りると、ドローイング・写真・創作物を使っての作品群が展示されているエリアへ入る。 壁にカンヴァスがあったり、写真

          【コラム】上野のアートで自然に寄り添う『大地に耳をすます|気配と手ざわり』

          【コラム】米津玄師6thアルバム『LOST CORNER』はPOPまみれの決意表明だ

          米津玄師6枚目のアルバム『LOST CORNER』は、全20曲を通して圧倒的にPOPな詩集だ。アニメ・CM・ニュース・TVドラマ・ゲーム・映画などの各種メディアに起用されたことから、1曲に秘める物語性も高い鮮度で顕在し、全体を通しても米津玄師としても全くぶれていない。 シティーポップ・アイドルポップ・エレクトロポップ・テクノポップ・ロックポップ・ダンスポップ・オルタナティブポップ・シューゲイザーという具合に、いまやPOPといってもこれだけの種類がある。1つの種類に縛られずに

          【コラム】米津玄師6thアルバム『LOST CORNER』はPOPまみれの決意表明だ

          【コラム】漆の話|東京芸術大学「うるしのかたち展」で漆に寄り添う

          「漆」とはウルシの木から採れる樹液のことで、加工して使う天然の塗料だ。ウルシの樹液は時間がたつと硬化して耐久性が高まり、光沢のある表面をつくりだす。日常品に漆を塗ることで重宝されることからも、北は青森、南は沖縄まで、それぞれの「漆塗り」が存在する。 日本が島国であり山の民が多いことから、日本人は古来より自然物をうまく使いこなすことに長けていた。石川県の三引遺跡から約7200年前に造られた「くし」が見つかったのだが、漆が塗られていた。青森県の是川中居遺跡からは、3000年前の

          【コラム】漆の話|東京芸術大学「うるしのかたち展」で漆に寄り添う

          【コラム】関東の水事情|江戸時代から始まる首都機能の大型アプデ

          日本は水の国である。それは地理的な要因が大きい。太平洋は遮蔽物がないため、太陽光線が海面を熱して蒸発させる。蒸発した太平洋上の湿気は風に吹かれて日本に運ばれる。山岳地帯の多い日本では、風に運ばれた湿気は、山にぶつかり上昇すると気温が下がり雨となるのだ。 このサイクルが頻繁に現れるのが梅雨だ。大気中の水蒸気量が増えてくると、雨となって水分が地上に落ちてくる頻度が「たまに」から「頻繁に」へ変わる。太平洋上で蒸発した湿気はどんどん日本へ運ばれ、その過程で蒸発しきれなくなり、雨が降

          【コラム】関東の水事情|江戸時代から始まる首都機能の大型アプデ

          【コラム】志賀直哉の書斎巡りからトライアスロンまで|手賀沼がつむぐ魅力と歴史

          8月3日に手賀沼花火大会が開催された。毎年8月初週の土曜日に開催され、40万人以上の人が手賀沼周辺に集結する。手賀沼は柏市・我孫子市をまたぐ湖沼で、利根川の氾濫によりできあがったものだ。縄文土器の出土や古墳もあり、志賀直哉にまつわる歴史的な場所でもある。 手賀沼周辺には10種類以上の古墳と貝塚がある。いまだ現存していて現地へ赴けば確認できる遺跡もあれば、調査を行った場所として名前だけが残っている場所などそれぞれだ。我孫子市の下ヶ戸貝塚(さげとかいづか)は現地に看板があるので

          【コラム】志賀直哉の書斎巡りからトライアスロンまで|手賀沼がつむぐ魅力と歴史

          自然と共生する暮らし|やまとけいこ著『黒部源流山小屋暮らし』を読む

          都会の喧騒を離れ、自然の懐に飛び込む。山小屋での生活は、そんな心の声に応える場所だ。都市生活がますます便利になる一方で、自然に身を置きたいという欲求も強まってくる。その在り方を示した体験記が、やまとけいこさん著『黒部源流山小屋暮らし』だ。 自然との向き合い方が記されているだけでなく、山小屋初心者への手引きとしても機能する。美大出身のイラストレーターということもあり、水彩イラストでの解説は、言葉よりも具体的なイメージを伝えてくれるのが嬉しい。 山小屋での暮らしは、単に緑に囲

          自然と共生する暮らし|やまとけいこ著『黒部源流山小屋暮らし』を読む