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名前のない木 01章 序


記録と継承

私は少し特殊な背景がある一族の末裔である。

江戸時代の初期に再編纂された一族の家系図を記した「書」があるのだが、その記録を見る限り、当主の第一子(長男または長女)が次期当主となり、当主の家族は私の実家がある土地に代々住み続けてきた、とされている。

第一子が早期に亡くなったり、子孫を残せなかった場合は、第二子、第三子・・と序列が移っていく。女性は他家に嫁いでいるケースが多いため、基本的には婿養子ではない男性が当主を継承するケースが多かったのが、家系図から見てとれる。

当主を継いだ家族の決まりごととして、

「口伝によって語り継がれてきたものを次世代に継承していくこと」

が命題となっている。

ところが、私の代まで続いている家系はいわゆる分家にあたる。
その理由が「書」の中で家系図の後に注意書きのように記載されている。
ざっくり説明させていただくと、

「とある時代に諸事情あって本家よりも重要視される関係になった」

これにより本家としてこの土地に住んでいる、ということになる。

旧本家の末裔は、徒歩で15分ぐらいの同じ町内に住んでおり、特に仲が悪いというような間柄ではなく、寺社、町内会の会合など季節ごとに交流がある。特に、私の母と旧本家に嫁いだ家主の奥方は年齢が近く、旅行好きという共通の趣味から二人で海外旅行に行くほどだ。

そんな家で私は「次期当主(父)の次男」として生まれ育った。

ネットの普及で”情報を収集し記録すること”が便利になった現代を生きる私としては、江戸初期の「書」と「口伝」に頼るだけでなく

 先の世代のためにも、情報にアクセスしやすい”記録作成”
いわば約400年越しの再編纂プロジェクトを立ち上げよう

と思い立ち、まだまだ元気な90代の祖母、地域のお年寄り、考古学者、民俗学者、在野の研究家など、情報を持っていそうな方々を見つけては積極的にコンタクトをとり、聞き取りをメインに”記録を残す行為”を始めたのが、2015年頃だった。
テーマにご興味を持たれて色々と話していただける方が想定よりも多く、2,3年も経つと、「この手の話を蒐集している変わった人がいるらしい」というクチコミから、貴重な情報が集まっていく流れが出来ていたことに驚かされた。

悔やまれるのは、聞き取りをした方から、

「〇〇さんがご存命なら、もっと掘り下げた話が聞けたのにね」

という発言を聞くケースが非常に多いのだ。希少性の価値が見出されず、貴重な情報が継承されないまま断絶してしまう連続性の欠如、いわゆる「ミッシングリンク」は後世において不幸なことなのだ。

一方で、テーマの周辺情報を収集していく過程で、wikipediaなどの情報記録・保全サイトのページが年々更新され、内容が蓄積・洗練され情報の精度が上がっていくのを目の当たりにした。

「何かを残す行為」をされている方は本当に貴重な存在なのだ

と改めて気付かされる。
私も不特定多数の方々向けにも「何かを残してみたい」という意欲が湧いたので、こうしてnote上で文章をタイプしている。

話を本筋に戻すと、”記録を残す”過程で、偶然にも私自身の長年のトラウマだった出来事の真相に触れることになった。
大人になったことで、その真相に対する”一定の答え”を見い出すことが出来たので、その過程を抽出し「ミステリー怪談」として組み直してみた。

――なぜ、わざわざミステリー怪談にしたのか

こういう疑問を持たれる方がいらっしゃるかもしれない。
その理由はおおまかに2つあり、

1.トラウマの出来事を記録していくうちに怪談になった
2.長年抱えていた「謎」を軸に記述するとミステリーになった

読み進めると、私のトラウマと謎を追体験する形に近づけたいと思う。
それでもご興味をお持ち頂ける「奇特な方」がいらっしゃるとしたら幸いである。

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