仮面ライダー有罪論
初期『仮面ライダー』を観直しているうちに昔からぼんやり抱えていた疑念が急に再浮上した。今日はそんなお話をしてみたい。
『仮面ライダー』には、ショッカーという悪の秘密組織が出てくる。ショッカーは、身体的頭脳的に敵性と思われる人間を拉致して改造手術を施し、意のままにやつれる改造人間を作り出す、彼らを使って世界征服を狙うわけである。物語の主人公・本郷猛もショッカーに捕らえられ改造手術を受けるが、脳改造の直前で脱走、自ら仮面ライダーを名乗り、ショッカーの改造人間と戦うのだ。――これが『仮面ライダー』の基本設定といっていい。
仮面ライダー=本郷猛が戦うショッカーの改造人間、蜘蛛男とかかまきり男、ヒトデンジャーやアブゴメスは、当然ながら、平穏な生活を送っているところをさらわれてショッカーにやってきたわけだ。つまり、蜘蛛男もアブゴメスも、たとえば、田中ナニガシ、鈴木ナニガシという戸籍上の名前をもっているわけで、家族が戸籍抹消の手続きを取っていない以上、田中ナニガシ、鈴木ナニガシとして法律上は「生きている」のである。その田中ナニガシ、鈴木ナニガシをライダーキックやライダーきりもみシュートで殺害した仮面ライダーは、刑法上の殺人罪に問われないのか、というのが僕の第一の疑問である。戦闘員を含め、これまで何百、何千もの田中、鈴木、佐藤、山田を殺害してきた仮面ライダー=本郷猛は死刑が妥当ということになってしまう。
一方、脳改造された蜘蛛男、かまきり男の悪事は、心神喪失時の行動ということになって刑法39条により不問に付されるということになりかねないのだ。
この場合法律上、仮面ライダーを守るならば、改造人間=人間ではない。という証明が必要となる。仮に、「身体の一部あるいは大部分を機械などを埋め込んで、本来ある能力を人為的に上げた個体およびその人格」と定義するとする。となると、心臓にペースメーカーを入れている人は改造人間なのか。義肢はどうなる。奥歯がインプラントだから俺も改造人間だ。はなはだしくは、コンタクトレンズを改造手術と認めろ、と言い出す輩もいるかもしれない。
何を危惧するかとうと、この世界観を推し進めて考えると、人権屋弁護士や左翼活動家の新たなメシの種に改造人間が利用されるのではないということだ。改造人間はむろんマイノリティだ。改造人間にも婚姻の自由はある、改造人間という理由で採用を取りやめた企業は糾弾の対象だ、ということになる。たとえば、「あいつの右手はドリルだ」と言っただけで、差別発言とされ、政治家の秘書がポストを失うようなこともあるかもしれない。
と、いろんなことが頭をよぎりました。どなたか法律に明るい方、ご教授ください。