目からビーム!35 京マチ子、マーロン・ブランド、そして沖縄
女優の京マチ子さんが死去した。95歳だった。京さんといえば、黒澤明、溝口健二、衣笠貞之助、小津安二郎といった世界的巨匠たちに愛され、海外にもその名を知られた、まさに元祖国際女優である。
その京さん、生涯で1本だけアメリカ映画に出演している。1956年のMGM制作のコメディ映画『八月十五夜の茶屋』がそれである。この映画、実は米軍政下の沖縄が舞台になっている(実際のロケ地は京都、奈良)。京さん演ずるのは、島民の民主主義啓蒙のために派遣された心理戦部隊の大尉(グレーン・フォード)のお相手役となる芸者、その名も「ロータスさん」。京さんは劇中、島民たちと「安里屋ユンタ」を歌うほか、クライマックスではみごとな日舞を披露している。琉球舞踊が前座あつかいなのは少し寂しいが。
しかし、なんといっても印象に残るのは、狂言回しでもある島の通訳サキニ役のマーロン・ブランドだろう。ブランドはこの役のために、黒髪の東洋人メイク(目と眉を離し、顔を平面的に見せる)で「日本人」になりきり、カタカナ英語と微妙な日本語を操ってみせた。しかも、これがあのブランド? と思うほどに、かなりC調なキャラクターだ。
同作品は翌57年、沖縄と本土で公開されたが、観客動員も評論家筋の評判もかんばしくなく、沖縄では2週間で打ち切りになっている。やはり、こういった、沖縄人=日本人の戯画化した描き方に反発を覚える人も多かったのだろう。僕も最初観たときは、「外国人の思い描くヘンな日本」の出てくる、トンデモ映画という評価でしかなかった。しかし、改めて観てみると、駐留軍が米国式の民主主義を押し付けようとするものの、島には島独自の民主主義や自治の精神が存在していて、やがて大尉もそれに感化されていくのがわかる。沖縄に対する暖かい視線があることを感じるのだ。
原作のヴァーン・スナイダーは、沖縄上陸作戦に参加後、半年間だけだが沖縄に駐留経験もあり、島民からは「スナイダルさん」と呼ばれていたという。フォード演じる大尉と島民の交流は彼の実体験がベースになっているのだ。「ロータスさん」のモデルだった女性(ただし、芸者でなく娼妓だった)も、題名の茶屋も実在したらしい。
初出・八重山日報
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(追記)
京マチ子さんの訃報(2019年=令和元年5月)に合わせて書いた原稿だから、4年前ということになる。
それはともかく、僕は「外国人の思い描くヘンな日本」が出てくる映画は結構好きだったりする。愛するがゆえの勘違いほど、楽しいものはない。プッチーニのオペラ『蝶々夫人』がその嚆矢だろうか。
フジヤマ、ゲイシャ、ハラキリからトヨタ、ソニー、ニンテンドー、……はたしてガイジンの考えるステレオタイプ・ジャパンの今はなんだろう。
▼メイキングフィルムというか、coming soon的なものらしい。「撮影快調!」というやつ。京さん、仇っぽいね。
▼『八月十五夜』に続き、翌年(1957年)にもブランドは『サヨナラ』で「ヘンな日本」を体験。高美以子は日系2世。戦争中は収容所入りも経験している。今年(2023年)1月、亡くなったらしい。梅木美代志は別名ナンシー・梅木。アメリカで最初に成功した日本人シンガーとして知られ、本作では東洋人として初となるアカデミー賞(助演女優賞)を受賞した。
▼ジェリー・ルイス主演『底抜け慰問屋行ったり来たり』(1958年)に出てくる「ヘンな日本」。原題はThe Geisha Boy。なぜ慰問屋かというと、米軍基地に慰問のためにやってきた芸人という設定だから。背景には朝鮮戦争がある。出てくる巨人の野球選手は馬場正平(ジャイアント馬場)ではないようです。早川雪舟も出演。
▼『東京暗黒街ー竹の家』(1955年)。原題はHouse Of Bamboo。ヒロインを演じるシャーリー・ヤマグチは山口淑子、そう、李香蘭。それにしても部屋の調度に頭クラクラw 鎌倉の大仏が東京のど真ん中にありそうだ。
▼『青い目の蝶々さん』(1962年)。原題My Geisha。芸者に囲まれデレデレの夫(映画監督)の浮気を心配した女優の妻(ジャリー・マクレーン)が自ら芸者になって夫に接近する。芸者、相撲、そしてなぜかお風呂シーンが、この手の映画に欠かせない。日本人=風呂のイメージなのだろうか。共演は、イヴ・モンタン、それに元祖脇毛女優・谷洋子。
シャーリーはこのときのロケですっかり日本が気に入り、一時期日本に住み、娘(サチコ。命名は小森和子)を東京の公立小学校に通わせていた。今ではすっかり神秘主義者となり、自分の前世は日本人、一休宗純の愛人・森女だといっている。
他にも紹介したい「ヘンテコ日本」いっぱいありますが、今日はこのへんで。再見!