第16話 初めてのアメリカ2 シー・ワールド ミッション ビーチ「HAMEL'S」
サンディエゴ「シー・ワールド」
サンディエゴには「シー・ワールド」があるので、以前から観たかったシャチの曲芸を観に行こうということになりまず、面倒だけどサンディエゴ空港に俺の荷物をピックアップしに行かなければならなかった。実際、そのまま出てきませんでしたなどと言われたらどうしようかと気が気ではなかった。
「シー・ワールド」のエントランスを入ると、すぐに一枚のポスターが俺達4人の目に留まった。それは「シティ・ストリート」というショウのポスターで、中央でヴィジョン・チームのフリースタイラー、プリモ・デセデリオがオーリーで道端に横たわった人を飛び越えていた。
さっそくタイム・テーブルでショウの開演時間をチェックして、それまでの間水族館を観ることにした。すぐに全長3メートル程のサメの前に群がった俺達は、そのサメが泳いでいるすぐ横でスキューバの装置を身につけた飼育係が魚に餌をやっているのを見て「危なくねえのかも知んねえけど、これはやりたくねえな」と口々に話し合った。
「シティ・ストリート」のショウが始まった。ショウはダウンタウンのストリートの日常を、ミュージカル仕立てにしてみせるといった実に他愛ない内容だったが、プリモと同じ有名フリー・スタイラーであり、彼のワイフでもあるダイアンも出演していて、2人で息の合ったフリースタイルの演技をみせてくれた。ダイアンはヒスパニック系のキリッとし顔立ちの美人で、スケーターにとって日本人でいうなら志穂美悦子的なアイドルだ。
ダイアン・デセデリオにはこのサイトが詳しい
見せ場であるプリモの「オーリー3人超え」は残念な事にボードに取り付けられたスノボ のビンディング状のモノに両足を突っ込んで、ボードを引き上げて飛び越していた。俺達は「プリモだったらあんな事しなくたって普通にオーリーで飛び越せるよねえ?」「シー・ ワールドから危ねえからあれでやれって言われてんじゃねえ?」「かえって難しくねえ?」「難しいでしょ、だってオーリーみたいにテールを蹴るってきっかけがねえもん」と口々にプリモを弁護した。
そしてアメリカに来て初めて見るプロの姿が、プリモとダイアンのデセデリオ夫妻が「シー・ワー ルド」で営業しているところになるとは夢にも思わなかったのと同時に、こんな働き口が存在するところが「やっぱ、アメリカ違うわ!」と思った。
「シティ・ストリート」のショウの会場を出ると、いよいよお目当てのシャチの曲芸を見に行く事にした。園内のあちこちに、子供が中に入って遊ぶ巨大な風船のような遊戯施設や、日本の祭りの夜店に出るような射的や輪投げ、 バスケット・ボールをリングに投げ入れると大きなヌイグルミの景品がもらえるといった露店が見受けられる。その色とりどりなパステル・カラーの景品達が、真っ青なカリフォルニアの空の下に栄えて見ているだけで気分が高揚してくる。
シャチの曲芸は勿論この「シー・ワールド」の目玉で、シャチの「シャームー」 とその子供の「ベイビー・シャームー」は花形スターだった。シャチがジャンプする度に前方の座席 はたんまりとスプラッシュを浴びる事になるのだが、観客達はこぞってその席に座りたがり、スプラッシュを浴びる度に歓声をあげて楽しんでいる。その様子を見てもちょっと日本では考えられない光景だなと思った。俺はホンモノの生きたシャチを見て初めて、その迫力あるジャンプを楽しんだ。
ミッション ビーチ「HAMEL'S」という老舗のスケートショップ
次に俺たちはミッション ビーチへとやって来た。ここは サンディエゴで最も人出の多い海岸で、パーキング・スペースを見つけるのに一苦労した。
長い海岸線沿いを多くの人達 が自転車やローラースケートで行き交い「HAMEL'S」という老舗のスケートショップ&レンタルもあった。亘はここで日本にいる師匠の生谷さんへの土産にパウエルのトミー・ゲレロのデッキを買っていた。 俺もサンタモニカ・エアライン のジェシー・マルチネスのTシャツを買った。
ミッション・ ビーチはまるで危険のないヴェニス・ビーチみたいに思えた。
ところが、「HAMEL'S」の近くの海岸線で皆でストリート・ スケートし、潮が BMX でフリースタイルを披露して、俺も大道芸的で見栄えのするホーホー・プラントをしたりして目 立っていると、突然どこからかでデカイ白人のオマワリがやって来て、俺達3人のボードを取り上げるとPCのトランクに閉じ込めてしまった。こんなところまでスケート・ビデオで観るのとそっくりだなと思ったが、このままボードを没収されたりしてはたまらないので、潮が英語を話せない俺達 3人に代わり、必死でこのブタと交渉してくれた。 どうやら「サンディエゴに来たばかりで事情が分からなくて、もう滑らないから返してやって下さい」みたいなことを言ったようで、ようやくボードは返してもらったが、潮の性格上オマワリに対して頭を下げるなどという行為は屈辱以外のなにものでもなく、これが後に俺達3人がかわるがわるショッピングの度に潮に通訳させたりして、それに辟易した潮がついに俺達のお守りに疲れ果て、ブチ切れるという事態につながっていくのだった。
しかたなくドライブ中にフリーウエイの高架下に見つけ たスポットに行ってみる事にした。途中、バルボアパーク周辺でスカンクの屍骸を車で踏んだため、しばらくの間地獄のドライブを味わった。35度程度の斜面の上に縁石が設置してあるそのスポットは、明らかにスケーターの手によるものだったが、日も暮れているし、自分達以外に誰もいなくてすぐに飽きてしまったので、酒を買い、KFCでチキンを買って帰ることにした。
今日もジャクージでビール呑んでから部屋に戻り、チキンを食い始めた。日本のKFC にはないマッシュ・ポテトがやたらと美味そうに見えたので買ってみたのだが「うええっ!! マズっ!! なんだよコレ?フナのエサみたいな匂いがすんぞ!」と言って吐き出すハメになった。付属のグレイヴィーソースもフナエサの匂いを強調するためだけの存在でしかなく、見事に味の不協和音を奏でている。
俺にはこのマッシュポテトは「未知との遭遇」でロイ・ニアリーがやっていたのと同じように、「デビルズ・タワー」を作るくらいにしか使い道がないように思えた。そして更に最悪な発見は「アメリカのKFCのコールスローは甘かった」ということである。俺は泣く泣く脂っこいチキンだけを食うハメになった。
つづく