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食料自給率は何を計算しているのか 問題の本質



<食料自給率は何を計算しているのか 問題の本質>

日本の食料自給率は1960年の約%から徐々に下がり、現在では約40%を推移している。そのため安全保障の面からも食糧危機への不安からも食料自給率を上げる必要性を訴える人は政治家の中にも国民の中にも多い。

しかし、そういう人たちに「食料自給率の計算式を知っていますか?」を聞くと、ほぼ全ての人が答えられない。誰もが答えの数字を知っているのにその元となる計算式の実態を知らないのだから、数字を使って不安を煽る人たちに扇動されることになる。

食料自給率という言葉から「日本人が食べているもののうち、どれくらいが国産か」だと勘違いする人が多い。しかし、農林水産省が採用している計算式は全然違う。

この計算式を見ただけでは一体何を計算しているのか、よく分からないだろう。この計算式の数字に含まれるものと含まれないものがはっきりと決まっている。たとえば、毎年大量に廃棄される食品や食料が分母に含まれるし、国産だとしても海外に輸出しているものは引き算される。他にもスーパーでは国産表示になっていても、海外から輸入された飼料(家畜のエサ)で育てられた家畜の肉や卵は国産ではなく輸入に含まれる。国内養殖の魚も同様だ。ニワトリの雛はほぼ海外からの輸入なので、国産飼料で育てられていても輸入に含まれる。国産キノコ栽培のホダ木や菌床も多くは中国産なので、輸入となるがスーパーには国産を表示される。これは決して産地偽証なのではなく、農林水産省と消費者庁でのルールの違いであって、縦割り行政の証でもある。

また、分子に含まれないものには道の駅などの産直市場に並ぶ野菜や食品、飲食店や個人と契約している農家の生産物、ほぼ自給用に農業を営む兼業農家(約200万戸に及ぶという)の生産物、家庭菜園家の自給用野菜は含まれない。つまり「地産地消のため」にと地元の野菜に目を向けても食料自給率は上がらないし、食料自給率を上げようと家庭菜園を始めても意味がないのだ。おそらく、これらの生産物を計算しようとするのは困難で、不可能に近いから含めていないのだろう。

ここまで計算式に含まれるものと含まれないものを話してきたが、これだとどうも分母が大きくなり、分子が少なくなるように操作されているような気がしてくる。また私たちの実際の国産・海外産の認識とはズレているため、実感とかけ離れているように思う。

では、この計算式はいったい何を計算しているのだろうか。一言で言ってしまえば「国内市場における国産のシェア率」である。もちろん、この国産の定義は農林水産省が採用している定義であって、スーパーの産地表示とは関係ない。決して「もし輸入がストップしたとき、国産の生産物だけでどれだけの食料が賄えるか」ではない。つまり、食糧危機に対する安全保障の議論には全く役に立たない計算式なのだ。

その証拠に、この計算式ではいくつか不思議なことが起きるのも事実だ。たとえば、「輸入の数字がゼロになって、それで国民が餓死しても自給率は100%を超える」ようになっている。さらに「国産の生産物を海外に輸出しすぎて国民が餓死しても、食料自給率は上がる」のだ。分母では引き算され、分子に含まれる輸出品の増加は実はこの食料自給率を一気に上げることになる。

そう、あくまでも国内の市場でどれだけ国産の生産物が取引されているかを示す数字であって、国民の食料を賄っているかどうかを計算しているわけではない。だから、食料自給率というネーミングは本来おかしい。にも関わらず政治家を含め、メディアに登場する人々は食糧安全保障の危機をこの数字で煽る。数字は嘘をつかないが、数字を使ってヒトは嘘をつく。

民主党が政権を取ったとき、高らかに50年後に食料自給率100%を目指すと宣言した。実際に農家に対する所得保障制度を作り、国産生産物を国内にも海外にも流通するように卸売り業者へのアシストをした。その結果起きたことは、1%ダウンだった。不思議なことに。民主党の議員もスタッフも誰もがきっとこの計算式を知らなかったのだろう。民主党はその政策の裏で海外からの飼料と輸入小麦に対する農薬の規制を緩和し、輸入量を増やしてしまったからだ。むしろ規制を強めて輸入量を減らせば、アップしたというのに。飼料が値下がり、畜産物が安くなり、国内の畜産業者は出荷量を増やせば、数字が下がるのがこの計算式である。ちなみに遺伝子組み換え大豆とトウモロコシの輸入をやめると畜産業界には大打撃だが、この計算式では数字が大きくなる。

いま、国内の農業を盛り上げようとしているが、生産量を増やすとどうなるか?世界でも有数の食品廃棄が多い国が生産量を増やせば、野菜が安くなり、農家の収入は減る。農業界で有名な豊作貧乏である。さらに食品廃棄や放置野菜が増えると考えらる。増やせば増やすほど安くなり、貧乏になっていくのが資本主義の怖いところだ。

ちょうどこの計算式による食料自給率の話が出た頃から、FTAやTPPの話が出始めたことを考えると食糧安全保障とは別の思惑があるような気がしてならない。

日本の食料における生産額だけを見れば、日本は世界で常に上位10か国に入るほど、農業大国。日本の農業は慣行栽培がほとんどだが、レベルが高いのは事実だろう。しかし、一番の問題は肥料・農薬自給率とタネの自給率である。肥料と農薬の自給率はほぼ0%であり、野菜のタネ重要計算で10%ほどだ。畜産物の飼料が海外からの輸入だと国産とは認めないのが農林水産省の考え方だが、タネと化成肥料・農薬が輸入品でも野菜は国産だという。農家はみな「肥料と農薬がなければ野菜はできない」というのに。

野菜は80%だが種子は90%が海外依存だとすると8%程度が国内自給だと言える。種子法で守られていた穀物の種子は現在でもほぼ100%自給できているが、今度どうなるかわからないし、国内自給でも大企業やグローバル企業による独占と自家採種禁止の契約となれば違った危機が生まれる。

シャルル・ド・ゴールは「食料の自給ができなければ独立国とはいえない」と言ったが、現在の日本ではいくつかの点で本当の食料自給率を100%にするのは難しい。

自国内で食糧を自給しようと思えば、広い国土(農地面積)で少ない人口のほうが可能性が高くなる。つまり人口密度の低い国は達成しやすく、日本のように高い国は難しくなる。国土全てで食料が生産できるわけではない。より正確には農地と人口との関係で考える必要がある。
砂漠やツンドラでは農業はできないし、森林も必ずしも農業ができるとは限らない。

日本国土のうち森林面積が67%を占め、列島の中心に山々が連なり、「川は滝のように流れる」ように日本は急勾配の国土である。そのため、少ない農家人口で、海外のような大規模面積栽培にはどうしても限界がある。

日本の農地では1haあたり27人もの食糧を生産しなくてはいけない。他の国と比べれば、その多さに驚く。日本の人口密度に対して国内の農地面積はあまりにも狭い。人口密度ではあまり大差のないインドやイギリスと比べても大きく差をつけられている。人口と農地の関係を見ると、日本が非常に不利なのがよくわかる。なのに、まるで同じ条件かのように比較され、議論される。おそらく日本の農業の実態を経験していないからだろう。

しかも日本の人口は明治以降約4倍にも膨れ上がっている。イギリスやフランスは2倍程度なのに。1960年から見れば3300万人が増えている。現在のオーストラリアの人口が2000万人ほどだ。

実は日本は関ヶ原の戦いあたりからすでに1haあたり4~5人を養う必要があったため、江戸時代には開墾と開拓が頻繁に行われたのだ。そして、人口が増えて、それに伴ってまた農地の確保が必要だった。

戦国時代から江戸時代中期にかけて、家族制度の確立とそれに伴う分家、分家した家族のための開墾や開拓と江戸時代は人口増大とともに大幅な農地改革が行われた時代である。このころには農地1haあたり7人程度を養っていたと考えられている。現在のインドと同程度である(インドはほぼ100%食糧を自給している。)

江戸時代に人糞などの有機栽培の技術が進んだのはそのためである。そのために江戸時代に起きたいくつかの飢饉も耐えることができた。江戸時代後半には人力による農地拡大に限界が達したために人口はほぼ横ばいとなる。明治時代に突入すると工業の発達と軍人を養うために、中国や朝鮮から大豆などの食糧を輸入することが増えた。

日本はこの条件の悪さでもコメが生産できる環境のおかげで、食料生産力は高い。世界の平均人口密度の約3倍にもなるにも関わらず、だ。水田栽培は連作障害が起きないし、コムギよりも反収あたりの収穫量は高い。ヨーロッパでは乾燥気候のためコムギ栽培も三圃式農業が必要だった。コムギの反収はイネの約半分で、さらに農地を3分の1しか作付けできないことを考えると、一年単位で見ればイネは小麦の6倍の収量を得ることができる。

明治時代に入ると明治政府は欧米から技術者を読んで、北海道の開拓を推し進めている。理由は簡単で、本州にはもう開墾も開拓もする場所がなかったのだ。そこで、ヨーロッパと同様寒冷でやせた土地しかない北海道を技術者の知識と技術を借りて、開拓したのである。それが札幌農学校であり、名言「Boys,be ambitious」のクラーク博士である。

産業化・軍国化で食料を生産しない人々を養うため、ダイズばかりかコメも中国や東南アジアなどから輸入が行われるようになった。おそらくこの時にはすでに自給率は100%を切っていたのだろう。明治政府が朝鮮半島や満州、中国へ軍事侵略した背景には食糧を求めていた背景もあることを忘れてはいけない。


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