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慣行栽培と有機栽培の真実


<慣行栽培と有機栽培の真実>

日本において法律上定義されている栽培方法は三つしかない。
一つ目は多くの農家が携わり、多くの国民が恩恵を受けている慣行栽培である。化成肥料と農薬(化学合成)を使った栽培方法で、大型機械を使用した大規模農家から小規模栽培の小農まで幅広く採用している。

二つ目はあまり見かけることはないが、コメなどで栽培している農家が多い特別栽培である。慣行栽培で許可されている農薬の使用量の半分以下で栽培を行う。肥料に関しては慣行栽培と同じである。

この中に含まれるエコファーマー制度がある。これは農薬の使用量が慣行栽培に対して20~30%ほど低減して行われる農家に対して、都道府県知事か認定をする制度で、通称持続農業法によって定められてはじまった。

これらの栽培で使用される化成肥料の効果は著しく、ハーバー・ボッシュ法によるチッソ肥料の生産の世界の農業革命において重要な役割を担った。はじめこそ戦争で利用され、多くの人々に悪夢を見せたが現代では多くの人々を養っているのが事実だ。マニトバ大学教授パーツラフ・シュミルによればもし化学肥料を一切使用しないなら、人類は30~40億人しか養えないだろうと推計している。

日本で多くの農家が化成肥料を利用しているが、その原材料と生成方法を知るものは少ない。子供に「肥料って何からできているの?」と聞かれて、答えられないという。私の講座に来る農家も農学生も、JAの職員も誰も答えられない。それはまるで日々口にしている食品に使われている食品添加物の原材料と生成方法を知らないように、知らなくて当たり前の世界になっている。

ハーバー・ボッシュ法によって空気中のチッソと天然ガスを化学反応させて作るチッソ肥料も、山を削り、大地を掘り起こして太古の生物の死骸が生み出したリン鉱石とカリウム鉱石から肥料も、水に溶けるように化学処理を施している。日本が使用している化成肥料の原材料のうち空気以外はすべて海外からの輸入に依存している。その資源はすべて有限でりヒトには作り出せないため、肥料は使えば使うほど貴重となり、値上がりしていく。ガソリン代と全く同じである。

ロシアはチッソ肥料の輸出大国の一つで、日本のほかアメリカやブラジルなどの大規模栽培をしている国もロシアからたくさん輸入している。
ロシアはチッソだけではなく、リンやカリウムといった化成肥料も輸出している。つまり、ロシアは世界的な化成肥料全般の輸出大国である。ロシア無くして日本を含む現代の慣行栽培はないといっても過言ではないだろう。ウクライナ危機によってロシアからの輸出が途絶えた日本は中国やアメリカ、モロッコなどのアフリカ諸国からの輸出を増やしている。カリウムは約80%がカナダからの輸出に依存している。

しかし、ロシアの農政に詳しい人はその事実に疑問が湧くかもしれない。なぜなら、ロシアは国内の農業や家庭菜園家に対してオーガニック農業を全面的に推奨しているオーガニック大国だからだ。実は他にも化成肥料を輸出しているカナダやアメリカ、中国も同様に国内でもオーガニック市場は世界でもトップクラスの規模を誇っている。

実は化成肥料について学ぶ上で、この一見矛盾に思えるこの事情が核心をついているとともに、無肥料栽培の可能性についても語ることできるのだ。

前述したように、化成肥料は水に溶けるように化学処理を施している。こういう性質を水溶性というが、当たり前だが水がなくては植物は吸収することができない。化成肥料は土の上に撒けば、野菜が勝手に吸収してくれるわけではない。雨に溶けて水の中に解けることで、根っこから水分とともにその栄養分を吸収して育つことができる。化成肥料が使える国は雨が多い国もしくは大規模な灌漑設備を持つ農家に限られる。つまり化成肥料栽培には、雨もしくは大量の水が必要である。

そのために実は化成肥料は世界のどこでも有効な肥料ではない。特に雨があまり降らない地域にとっては全くもって意味がない。その地域こそ、ロシアやカナダなどの寒帯地域、中国内陸部・アメリカ・ヨーロッパなどの乾燥地域である。これらの地域は数少ない農耕期である夏に雨は降らず、長い冬は雪が降り積もる。

また、アメリカやブラジルなどの南米大陸の穀倉地帯では同じく夏は雨があまり降らない。しかし、大きな河川から引いた灌漑施設の整備や地下水からの大量の揚水によって超大規模栽培を可能にしている。
それが川下の水質問題や地下水の枯渇化といった違った問題を起こしている。

化成肥料が一番有効なのが雨がたくさん降る地域である。それこそ、世界の平均降水量の2倍を誇る日本だ。日本は欧米が雨が降らなくなる夏にたくさん雨が降る。6月には梅雨があり、梅雨明け以降は定期的にやって来る台風と夕立がある。

それによって日本の夏は野菜や穀物を大量に生産することができる。
欧米の野菜や穀物は主に秋から春にかけて栽培するのは、夏に雨が降らないからだ。こんな雨に恵まれている地域はほとんどない。だから、すぐに効いてすぐに大きくなる。しかし残念ながら高い肥料代を払った農家が撒いた肥料の3分の2は野菜が吸収することなく地下水または河川へ流れていってしまう。それによって起きる問題が赤潮などの富栄養化問題である。これもまた雨が多いからこそ起きることだ。

植物は根から吸収できるものはとりあえず何でも吸収しようとする。化成肥料で育った大きな野菜は三大栄養素に対して他のミネラル濃度が低く、栄養バランスも悪いので風味に欠け、品質と栄養価も低い野菜になってしまう。野菜は水太り状態になりただ大きいだけのものとなる。農家たちもそれを知っているから大きすぎる野菜は格安になる。栄養素特にチッソとカリウムの過剰摂取によって、野菜内の硝酸塩がうまく代謝されずに残る。この硝酸塩には発がん性があることが知られている。

日本の他にも韓国や中国東南部には同様に梅雨があるため、化成肥料が効く。また東南アジアやアマゾンなど雨季が長い地域も同様だ。これらの地域は化成肥料によって収量が増えた地域であるが、世界規模で見ればそれは限定的である。

その雨が多いからこそ、慣行栽培で使用される農薬は石油から作られる。雨が降って流れてしまえば、雨が降るたびに撒き続けなくてはいけないから、石油を使って水で解けない脂溶性の農薬が長く効く。そのためにスケジュール通りの農薬散布で十分に効くわけだ。だからこそもちろん、食卓まで農薬は残り続ける危険性があるゆえに検査が必要となるし、使用量に制限があるのだ。除草剤の一部が戦争で利用された歴史があるように、農薬もまた軍需産業のおさがりである。

そして日本は雨が多いからこそ、三つ目の有機栽培が広がらない最大の理由である。有機栽培とは日本においてはJASという団体が認証した有機肥料(堆肥)と農薬を使用した栽培方法である。認証団体によって認められて場合、「有機農産物」「有機」「オーガニック」という表示が可能となる。アメリカのオーガニック市場は世界全体の約45%を占める。中国は世界第3位の有機農業大国。日本はわずか耕地面積当たり0.2%。

有機栽培で利用される農薬の原材料は多くが鉱物由来のもので、水に溶ける水溶性のものである。そのため、日本で使用したとしても早ければ数時間後の夕立によって、短くても数日内に降る雨で流れていってしまう。それではコストばかりがかかってしまうため経営は非常に厳しくなる。そのため日本で有機栽培で生計を立ててる農家の多くはビニールハウス栽培か農薬がほとんどいらない野菜かどちらかである。

ちなみに有機栽培で使用される水溶性の農薬も(自然農薬と言われる自家製農薬も)、慣行栽培で使用される脂溶性の農薬も生物に対して神経毒、代謝阻害、筋細胞への作用などとして働く点は同じだ。農薬を落とす方法として油脂が溶け出す50度のお湯で洗う方法と、強アルカリ性のホタテの粉末が油脂を溶かし出す縫合があるが、どちらもすべての農薬を落とせるわけではないし、植物自身が持つ蝋成分も溶かして栄養素まで溶け出してしまう。水溶性の農薬なら洗うだけで落ちるが、どちらにしても植物内まで吸収された物質まで落とすことは困難だ。

雨が少なく気温が低い地域は、そもそも害虫の発生も少なく菌の働きも弱いから病気も発生しにくい。だからオーガニックが盛りがっている国では有機栽培が普及している。逆に慣行栽培は不可能なのだ。さらに貧弱な土では動物性の堆肥が土作りには欠かせない。

さて、ここまで話してみるとやはり日本では有機栽培は向いておらず、化成肥料と農薬を使った慣行栽培が適しているように思えてくるだろう。しかし、実際はその逆というか、そのナナメ上をいく。

どういうことか。実はなんとこの雨の多さが無肥料栽培、つまり自然農や自然栽培を可能にしているのである。不思議なことに。いや、不思議ではない。植物からすれば当たり前のことなのだ。水分ほど植物が育つ上で重要なものはない。土はなくても水耕栽培が可能だが、水が要らない栽培方法はあり得ない。微生物もまた水がある環境を好む。菌根菌は糸状菌であり、カビ菌であるように水を好む。

そのため日本では世界中の人々が信じられない光景が見られる。山の木を皆伐しても数十年後に勝手に森林に戻る光景だ。毎週のように草刈りしても追いつかないほど、雑草が元気なのも日本ならでは、だ。自然遷移がこれほど早く進む国、植生のレジリエンスが高い国は世界では珍しい。

つまり、化成肥料は雨が多い地域ほどよく効くが、雨が多い地域ほどが要らない。動物性堆肥は貧弱な大地ほど必要だが、植生のレジリエンスの高い国ほど要らない。
それが地球の真実だということを知っておいてもらいたい。

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