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冬の野良仕事


<冬の野良仕事>

一通りの秋の旬を楽しみ、クリスマス、年末年始、どんと焼きを終えた農家たちは少しずつ外に出始める。冬にはあまり作業をすることはないのだが、それでやっておきたいことはなんだかんだあるのが、農ある暮らしの冬である。

この時期に一番忙しい野良仕事といえば、山仕事である。春や秋には山菜を採りに出かけるくらいしか出かけない裏山も、冬のうちにやっておきたいことがある。

まず何よりもこの時期に伐採した木材は水分が抜けているおかげで材木用として向いている。また新月に近い時期ならなおさら水分が抜けているのでオススメだ。伐採してからはまた雨が当たらないところに保管しておいて、数年後に建築材として使用する。こうして何年かかけて木材を用意しておく。

また同様に竹もまたこの時期に伐り出しておくと水分が抜けているおかげで長持ちする。夏野菜の支柱に使う竹も今の時期に伐って保管しておけば、忙しい時期にわざわざ作業しなくても済むだろう。

この時期に裏山と竹林にでかけるおかげで落ちている枝や剪定した枝を拾い集める。これはもちろん薪ストーブやロケットストーブなどの焚きつけようとして使いたい。ついでに落ち葉を集めるのもいいだろう。道路の脇にある溝には大量の落ち葉が溜まっていて、邪魔なばかりか水の通り道を塞いでしまっているのでついでに掃除をしておこう。

この時期にこういった作業をする最大のメリットは虫や獣が少ないことだろう。特に冬眠するクマやヘビ、ハチがいないことが大きい。また大雪を除けば災害のリスクも少ない。今の時期にしっかり整備をしておくことで春や秋の収穫も容易になるし、適度な撹乱が彼らパイオニアプランツの生育に最適な環境につながる。

汗がかきにくい時期でもあるので、この時期に切り出した木や竹でレイズドベットや竹垣、ヒューゲルカルチャー、パーゴラ、コンポストステーションなどを作ってしまうのもいいだろう。この時期はあまり土をいじらない方が、土中生物たちにとっては都合のがいいので、最大限の配慮はもちろん必要だ。

田畑では収穫ぐらいしかすることはないのだが、昔から寒起こしという野良仕事が知られている。これは天地返しのことで本来はこの一番寒い時期にやる野良仕事である。昔ながらの寒おこしは有機物を入れずに、ただ上部の土と下部の土を入れ替えるだけだ。

こうすることで数年かけて雨と重力で固く締まってしまった地中深くの土を耕すことができる。また上部の肥沃になった土を下部にいれることで、地温が高まるばかりか、未分解の草の根や雑草の種子が土中生物へのエサの供給となる。下部の固くなってしまった土は上部に掘り起こされることで太陽光による殺菌が期待され、雑草の種子が少ないことがメリットとなる。

もちろん、この時期に畝を立てていないところは天地返しをしていくのもオススメだ。寒い時期なら暑い時期にやるよりも体力的にも時間的にも余裕がある。またどんと焼きのついでに畝の上での焼畑もいいだろう。ただ乾燥が強い時期でもあるので、火を使う場合は特に気をつけたい。またすぐにタネを蒔く時期でもないので、あくまでも畝づくりの一環として取り入れよう。

この野良仕事で疲れてきたら、散歩がてらにムギ踏みする。たいてい12月下旬本葉3枚が出たころから茎立ち期前の2月中旬から下旬にかけて2~3回行う。イネ科は踏まれるたびにたくさん根を出し、たくさん分蘖する。これをしておくだけで収量に大きな差が出るばかりか、マルチにできる藁の量も違い、自然耕の恩恵も違う。ただ散歩するだけで大きな野良仕事となる。

一度ムギ踏みした場合は10~14日間は空けて行い、最後の麦踏みの場合は背丈を気にしてほしい。背丈が20cmを超えるほど大きくなってきた場合は幼穂を痛めてしまうのでその場合はやめておこう。ムギは基本的に乾燥した環境を好むので雨や雪でぬかるんでいる場合は行わないように気をつけたい。

またムギ農家は中耕と土入れ(土寄せ)を行う。これによってさらに乾燥した環境を作り出し、雑草抑制、倒伏防止、不定根の促進、保温と幼穂の凍結防止、過剰分蘖抑制の効果がある。これらの仕事をする時期はムギ踏みの時期と同じである。もし鍬やトラクターがある場合はしてもいいだろう。

雨や雪で作業ができない時期や日が落ちてからは春野菜の準備はもちろん、道具や機械類の整備もしておきたい。また家の中ではタネの整理や購入もあるし、たくさんできた野菜を漬け込んだり、干し芋をつくることもできるだろう。

暖かくなってくればやることはたくさん出てくるので、今のうちにやれることはどんどんやっておこう。そうすれば、春先から後手後手になることがなくなり、余裕を持つことができる。この余裕があるかどうかが農ある暮らしの最大のポイントである。そしてその余裕は、余裕がある時期にやれることをやっておくことにかかっている。


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