立体農業のススメ 樹木と家畜その2
<立体農業のススメ 樹木と家畜その2>
ゾーン3からゾーン2では低木類をうまく利用したい。日本にはキイチゴ類が70種類以上もある。針葉樹の人工林を間伐・皆伐するといち早くキイチゴが繁茂するのも見ることができるように、日本の土質と気候ではバラ科が一番よく育つ。日本で栽培されているイチゴは西洋種のオランダイチゴを品種改良したものだが、日本のキイチゴの研究もしてもらいたい。キイチゴ類の中でもっとも長く種実をつけるものはラズベリーで、結実すれば20年くらい栽培できる。
イチジクは水はけが良いところなら簡単に栽培できる。虫や病気も少なく、背丈も大きくならず剪定にも強い。挿し木も容易なので、1本植えておけば10年後には果樹園になるくらいできる。
イチジクは新約聖書によく出てくる果樹で、日本には江戸時代の寛永年間に到来したと言われている。ギリシャではイチジクを干したものを粉にし、おかゆにして常食する。そのおかゆに「はだん杏」の実をまぜて街頭で売っている。
イチジクは果物に分類されるが、タンパク質を多く含んでいる。糖分も多く、干した場合に非常に甘くなる。これは食べている部分が実ではなく花だからである。
スペインでは12M間隔にイチジクを植え、その間を利用してコムギ栽培行う。すると収穫が1.5倍になるというが、コムギは少し収量が落ちる。似たような栽培にクルミとコムギの組み合わせもある。
世界中で昔から葉は薬用として利用されてきた。葉は生のまま便所に入れて臭い消しにもなるし、干し葉はお風呂に利用する。新芽や葉を食すると便通を良くし、咽頭の痛みにも特効薬となる。消化を助け、浄血剤としても注目されている。
暖かい地域ではイチジクの他にオリーブも栽培しやすい。また寒い地域にはサトウカエデ(メープル)が栽培が簡単な樹木となる。北海道や東北、本州山間部の公園や街路樹に植栽されているほどだ。サトウカエデに劣らずイタヤカエデからも甘い樹液が得られるし、雪の中でもよく育つ。
ただしサトウカエデの若い木からは採糖できないし、工場からの排煙を嫌う。土質は選ばないが、湿気の多いところは育たない。それでも長年採糖しても少しも弱らない上に、百年後に切り倒して燃料としても使用できる。
また霜に強い常緑樹としてフェイジョア、オリーブ、ビワなども栽培が簡単なので取り入れたい。オリーブの育つところにはザクロやクチナシも成長する。
簡単に栽培できる果樹の中で薬木としてナツメを植えるのもオススメだ。南欧原産の落葉小高木で、雨が少ないほうが成熟する機会が多く、イチジク同様腐敗しにくくなる。
ゾーン2とゾーン1のエリアには防風林や生垣として果樹を利用することも選択肢に入れたい。こういった樹木には一般的には果樹が選ばれることは少ないが、食べれられる森のデザインにおいては積極的に取り入れたい。隣近所の方々と分け合うデザインにすれば、交流も深まる。
昔から生垣には常緑樹が選ばれてきたが、ここに搾油作物としてツバキ、サザンカ、カヤなどを選ぶのも面白い。油になる植物の多くは広い田畑を必要とするが、樹木なら立体的にデザインできる。
ツバキ科は日本に50種自生しているがすべてから油が取れる。しかし食用に向いているものは少ない。ツバキは食用、薬用、工業用として利用できる。火山灰の上にも生えてくれるほど、火山岩地帯の樹木農業に向いている。
暴風の一番少ない冬から春にかけて咲くツバキは暴風期に開花するイネや長雨期に開花するムギ類に比較して、結実に支障がないため安定した収入源にもなる。
宮崎県ではサザンカを畔に植えて精油にすると同時に、イネのためには防風林として備えていたようだ。サザンカは味は劣るが頭髪用としては昔から利用されている。
カヤは油を取る植物としてはツバキにつぐものである。
北から南まで日本全国いたるところに繁盛していたことが江戸時代の地図を見るとわかる。高度経済成長期からバブル期にかけて将棋盤や碁盤、風呂桶に変わってしまったようで巨木を見る機会はめっきり減ってしまった。
ツバキに比べて寒地にも適するカヤは生食ができる。油は灯油、整髪料、塗料、天ぷら油としては最高級品、寄生虫駆除と幅広く利用できる。縄文遺跡からも出土するという。葉は燻して蚊除けとしても利用できる。
米沢藩の上杉鷹山は武家屋敷に菜の食えるヒメウコギを垣根として植え付けさえ、飢饉の時はそれを食わせたという。ヒメウコギの新芽の天ぷらは美味だ。
このようにゾーン4からゾーン2まで多種多様な樹木を栽培することができれば、一年中何かしらの花が咲いている。とくに広葉樹にはミツバチが好む蜜源が多い。トチの木やシナノキは蜜源が多いのでレンゲ畑1町歩の花蜜を1本の木から得られる。山村の農家が1年間食うだけのハチミツを取るのは容易だ。養蜂ならハチミツの他にミツロウなども得られ、野菜の受粉率も高まる。
立体農業において最大の敵は害虫だが、益鳥が仲間入りする。賀川豊彦は「子供に小鳥を愛することを教えなければ、害虫を駆除することはできない。」「鉄砲虫類を退治しようと思えばキツツキを大事にするに限る。」と語る。子供たちが小鳥のための巣箱を用意し、飼育の様子を観察するのはオススメだ。
スズメは春に大量の害虫を食べてくれる。カッコウも他の鳥が嫌って食べない毛虫類を食べてくれる。春から夏にかけて害虫類が最も繁殖するときにツグミが活躍する。ツグミは毛虫、芋虫、夜盗虫、ネキリムシ、尺取り虫、ウジ虫、ハリガネムシなど幅広くパトロールしてくれる。水生昆虫としてはゲンゴロウ、みづすまし、子負い虫、かわげら、の幼虫、みずあぶなど。
鎮守の森や雑木林を鳥のサンクチュアリにすれば、大型のワシタカなどは野ネズミや幼獣の増えすぎるのを防いでくれるだろう。ゾーン4も高木にまで育ては同様の地になる。
農薬の普及によって虫がいなくなり、小鳥がいなくなった。小鳥の仕事を奪ったのは農薬である。「小鳥を失うことは経済的または生物学的理由もあるが、想像主の芸術を失うこと。」と賀川豊彦は言う。
フィールド内や外に小川や湖沼、池などがあればそこでは淡水魚など水生動物を飼育することもできる。昔からコイやフナなどの飼育はよくあった。また田んぼや水路にはドジョウやスッポン、山シジミなどタンパク源が豊富に用意できる。
賀川豊彦は湖面でクロレラの栽培を提唱している。クロレラとは地球生命の原点として約20億年前に誕生した生物だ。クロレラは1日に50倍から100倍に増える。しかし水田の中では外敵に食われてしまう。増えると腐敗して生物が死ぬ。これを取り出して乾燥させると飼料になるほか、コイやフナを多数飼って食べさせることができるという。
日本神話にも海や魚のことは出てくるが、ウシやウマのことはほとんど出てこない。西洋文明の荒野を開拓した聖書には必ず大型動物がいる。つまり有畜農業だ。ただウシは人間の10倍食べるから、広い土地が必要となり、日本では最適な家畜とは言えないだろう。大型動物からは肉ではなく乳を取るように心がけたい。
日本の最適な有畜農業は小動物中心となる。ニワトリ、ブタ、ウサギは雑草ばかりで飼育できる。どんな冷害の年でも猛暑の年でも雑草が枯れてしまうことはない。そのタマゴ、肉を冬の間に食えるように貯蔵する工夫をしておけば、飢饉に困難することはない。
田舎には燃やしてしまうほど雑草がありすぎる。ならばヤギが草刈機の代わりとなる。ヤギなら燃料代はかからない上に、ミルク、チーズ、ヨールグルト、肉になる。
ヤギは本来日本のような湿度を嫌うが、最近は適応した種が多く飼育されている。野原に草を作ってヤギにやり、クルミ、カキなどを栽培し、その木の下にササを自生させて、ヤギの飼料とする。そしてヤギの乳、肉を人間の食料にする。
ヤギほど粗食に甘じる有用動物は少ない。ヤギはササでも食うし、樹木の皮でも食って生きのびる。雑多な植物に甘んじるものはない。ヤギ乳は昔から母乳の出ない母親の唯一の頼みであり、ヤギ乳で育ったと言う人たちの話もよく聞く。またヤギの毛は織物のほか、テントなどに向く。
樹木の間にミツバチを飼い、ブタを飼い、ヤギを飼うことは容易だ。そしてその側を流れる小川にコイを飼う。木の実で育ったブタはベーコンやハムに加工するのが最上等で、ブタの肉を桜の木で燻製にすることで世界でも最高級のハムになる。
賀川豊彦は「日本の村は助け合って団結して、動物園のように植物園のようにならなければならない。と強く提言する。
そして、「仏教において殺生を禁断し、肉類の取り扱いを厳禁したことは誠に美しいものであった。しかしそのために人間同士が殺し合いをしなくてはならないとなれば、私はむしろ獣肉を加工して、これを食い、人間相互の殺戮を厳禁した方が良いと思う。」と。