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水の流れのデザイン


<水の流れのデザイン>岐阜 清流長良川の鮎

長良川は流域に86万人も住む広大な流域を誇り、人々の生活を支えてきた。こういった河川は生活排水によって汚濁が環境問題となりやすいが、長良川は清流を保ち、アユなどの豊富な川魚を誇る。
その長良川流域の人々の暮らしは、水を大切にしながらも暮らしに巧みに取り入た「里川システム」をもとに築かれていった。

岐阜の高い山々は一年中、雨雪を大地にもたらしてきた。その山々から溢れる湧き水を人々は水舟と呼ばれる3段式の箱にひき、1段目を飲み水に、2段目を食器類のすすぎ、最下段を野菜など泥落としに利用した。そこで洗い落とされた食べ残しは、水路や池に水とともに流れ、コイの餌となる。コイは山間地にとって貴重なタンパク源でもあり非常食にもなる。そして、ある程度綺麗になった水は河川へと流れると、そこ藻類類の繁殖の養分となり、アユの餌となる。

河川の清流は美濃和紙の加工にも欠かせない。コウゾの白皮を晒す上でも、チリを除く作業にも清流は利用される。郡上本染では長良川の支流、吉田川や乙姫川の清流が布を美しく染める役割を担う。

「藍染め」では藍の染料に生地を浸したのち、水路の冷たい水で洗うことで染料がよく発色し、天日干しする作業を繰り返して濃い藍色が生まれる。また「カチン染め」は大豆の搾り汁と顔料で染める方式で、この方式で作られるこいのぼりは、大寒の日に川で糊を落として生地を締める「寒ざらし」により鮮やかな色彩を帯びる。

アユは秋に下流で孵化し、春までは沿岸地帯で成熟すると、春から夏にかけて川をのぼる回遊魚。長良川上流の清流で夏を過ごしたのちに、秋に産卵のために降る。この一生の間に、長良川の豊富な水量と清らかな水質、水深が浅い瀬と深い淵の凸凹、さまざまな河床礫、急流と緩流のごちゃまぜ具合が絶妙に関わり、アユを生かし育む。そして、アユ付きの人々は各地域の川質に合わせてさまざまな漁法を編み出し、受け継いできた。豊富なアユは伝統的なアユ料理はもちろん、鮎鮨やうるか、朴葉ずしなど多様な発酵・保存食品も作り出してきた。またアユをモチーフにした鮎菓子もある。

長良川は何度も水害を起こしてきた河川だが、それでも人々が多くこの流域に住んでいるのは、その河川の洪水を巧みに活かす術を身につけてきたからだ。霞堤と呼ばれる堤防はあえて隙間を作り、溢れる水を上流側に逃がし集落の防災機能を担い、その豊富な水と上流から流れてくる肥沃な土壌を田畑に招き入れてコメや野菜を栽培する。その上中流域の巧みな防災施設はその下流にある岐阜市街を、そして名古屋市街を洪水から守ってきた。

定期的な洪水は長良川の川底を洗い流す役割もあり、光合成を必要とする藻類の邪魔をしてしまう落ち葉や泥などのゴミが海まで一気に流される。こうして生活排水や山からの栄養は川底の藻類の餌となることで富栄養化による汚染を防ぎ、さらにアユの餌となり食べられるることで数を減らすが、アユを人々が食べることでちょうど良いバランスを維持してきた。洪水がなくても、アユがいなくても、アユ漁がなくても成り立たないのが里川システム。
ほかにもサツキマスやモクズガニ、テナガエビ、ウナギ、アマゴなど多種多様な川に生息する魚介類が里川システムと人々を支えてきた。

長良川の水源でもある白山を信仰とする白山信仰は、白山を水の分配を司る水分神として崇めきた。また日本三大盆踊りの一つ「郡上おどり」では長良川やアユへの想いや誇りが込められた歌詞が歌われ、踊りは夏の間1ヶ月近く開催される。


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