小説「ヘブンズトリップ」_19話
七、八メートルくらいあるこの高さから落ちたら、どうなるかわからない。
でも、もう他に道はない。
「呪縛からの開放」
再び、あの男たちの声が聞こえて、俺たちは凍りついた。
こっちに向かってきている。早くしなきゃ。
「俺がダメになっても、お前だけ逃げろよ」
史彦はその言葉を残して、あっさり飛びおりていった。
粒のように小さくなって、木々の間に落下していった史彦は不思議な音を立てて森の中に消えていった。
追いかけるように俺は息を止めて、ゆっくりと、幅跳びの要領で地面を蹴って、飛んだ。
その一瞬に頭の中が、ぼあっとオレンジ色に暖かいもので包まれたような気がした。
ひょっとしたら額からの流れている血のせいだったかもしれない。
大丈夫、意識はまだ、ある。
ずいぶん血を流してしまったみたいだ。頭がクラクラする。
史彦の声が聞こえるから、生きているがわかる。
「しっかりしろ、しっかりしろ」
史彦が叫んでいるのは認識できた。
「ルールやぶるけど、いいよな」
最後の言葉は聞き取れてなかったけど、たぶんそう聞こえた。